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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
54/198

5−3

 ノインとマルスブルーの護衛のオスカーは、馬車で二人、今までの出来事、これからについて話し合っていた。ノインについては、全く嘘をつかずに聞かれたことを正直に答え、オスカーも非現実的な内容ではあったが、真摯に話を聞き入れた。

「アジュールは本当に領地の夫婦の娘なのか?」

「彼女の出生や両親の詮索についてはアレスフレイム殿下に止められたことがある。彼女自身が本当の親だと思っているから」

「そうか……」

「そろそろクリエット邸に着く」

 馬車が屋敷に着くと二人は先に降りて、マルスブルーたちの馬車の前に控えた。クリエット当主夫婦も待ち構える。


 マルスブルーとスティラフィリーを乗せた馬車箱の扉が開くと、二人共落ち着いた顔立ちであった。スティラフィリーの顔色も良く、ノインはほっとしていた。先にマルスブルーが降りてスティラフィリーをエスコートをすると、二人で並んで彼女の両親の前に立ち、

「クリエット殿、急で申し訳無いけれど、もう一晩だけ世話になっても宜しいでしょうか。大事な話をしたい」

 スティラフィリーの手をぎゅっと繋ぎ、マルスブルーが申し出た。今までの自己肯定感が低い弱々しい態度では無く、緊張しながらも背筋を伸ばして、これから人生を共にしたい大事な女性の両親にはっきりと。

 彼の強い意志を感じ取ったスティラフィリーの両親はその申し出だけで何の話かを悟り、胸が熱くなり、思わず目頭が熱くなった。

「はい……………! 殿下、ぜひお時間をください」

「快諾、ありがとうございます」

 双方共に深々と頭を下げ、クリエット当主たちの背後ではレベッカを含む従業員たちも嬉し泣きを溢しそうになるも耐えていた。

「では、私は先に失礼します」

 ノインが小声でオスカーに声をかけると頷いて合図をされ、速歩きでその場を立ち去ろうとした。


 その時


「あ、紫の髪の殿方さ〜ん」


 遠慮がちに呼ぶ声がした。振り向くも、自分を呼んでいるような人は見当たらない。

「すみません、地面の下から話しかけてます。はじめまして、私はこの庭の主のケヤキと申します」

「どうも………」

 下を向いて小声で返事をする。

「白薔薇姫様がお呼びでして、私は魔法のアシストは出来ないので、敷地の裏の竹林へ行っていただいても宜しいでしょうか。そこからすぐに王城へ戻れますので」

 ノインは半信半疑になりながらも、10分程歩くと竹林が見え、竹藪を進んでいくと白い光が見えてきた。

 おとぎ話の様に竹が光っているわけではなく、光の正体は薔薇の形をした魔法陣。竹と竹の間に輝きながら浮かび、ノインは驚きで目を見開いていた。

 じりじりと慎重に近寄り、少し前屈みになって見つめていると、


「人に見つかると面倒だから早く入りなさいな。潜れば王城に戻れるわよ」


 魔法陣から声が。ノインは息を吸ってぐっと止めると、緊迫しながらも魔法陣へ飛び込み、竹藪から光と共に姿を消したのだった。




「ノイン!?」


 主の声がする。行き着いた先は執務室のようだ。

 床に手と膝を付いた状態でノインは辺りを見回し、すぐに立ち上がった。

「転移魔法を使えるようになったのか?」

 先に戻っていたアレスフレイムが机で執務をしている最中だった。

「いえ、それが、薔薇の魔法陣から声がして、通るとここに着いた次第です」

「転送神術か」

 転送神術は転移魔法よりも遥かに難易度が高い。自分のみを別の場所に移動をさせる転移魔法とは違い、転送神術は自分以外の対象物を瞬間移動させる魔法。しかし今回は、単なる転送神術とも違い、目の前で対象物に魔法を唱えるのでは無く、魔法陣を飛ばして瞬間移動の空間を作り上げた。恐ろしい程の強力な魔力保持者であることが十分過ぎるくらいに窺える。

「………恐らくその魔法陣を作った奴からの命令だ。二人で奴の住処へ来いとのことだ」

 アレスフレイムはペンを置くと椅子から立ち上がり、窓へと歩いた。ノインは主は何をしているのかと緊張しながら見つめていると、アレスフレイムが窓を開き、

「お陰でノインも戻って来た。今は都合が良い。他の奴等に見られない内に二人まとめてそっちに連れて行ってくれないか」

 大声など張らずに普段の声色で何かに声をかけると、


 シュワワワワワッッッ


 まるで箒星の様な音を立てながら執務室の中央に白い薔薇の模様の魔法陣が光を放ちながら浮かび上がった。


「これか?」

 アレスフレイムがノインに訪ねると

「はい! 先程私が潜った物と同じです」

 ノインは緊張で額から汗を流しながら答えた。

「行くぞ」

「はっ…………!」

 アレスフレイムとノインが歩いて魔法陣の中へ入ると、二人の姿は部屋から消え、魔法陣も消え去るときらっと星屑のような小さな光の埃が溢れた。


 間もなく黄昏時。

 紫と橙に染まった空の下、神々しく白く輝く白薔薇姫が微笑みながら客人を招き入れた。


「ようこそ、薔薇の迷宮へ」




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