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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
43/198

2−3

「マルスブルー様っ、お誕生日おめでとうございます!」

「マルスブルーさまぁ、ぜひ私と一曲踊ってくださいっ」

「私ともぜひっ!」


 恋人のスティラフィリーとの些細なすれ違いを修復出来ないまま、彼女の家が開いてくれた誕生パーティーの時間となり、見事にマルスブルーは女達の餌食になっていた。


 スティラのご両親が招いた客人だがら無下にも出来ないしなぁ。それにスティラともぎくしゃくしてるし、断って嫌な顔をされるのも嫌だから踊るくらいなら良いかな。


「じゃあ順番に。でも人数が多いから一曲全部じゃなくて、途中で交代しながらね」


 と王太子は次から次へと代わる代わる貴族の女性たちとダンスへと手を取った。

 壁際に立つスティラフィリーの侍女のレベッカは今にも噴火しそうな程顔を赤くして彼らを睨みつけ、マルスブルーの側近のオスカーも険しい顔付きになっている。


 次の瞬間、ホール内がざわついた。


 人々の視線の先には女嫌いで有名でもある国の英雄のアレスフレイムがマルスブルーの恋人の手を取り、中に入ったからだ。正確に言えば、彼女の手首を掴んで無理矢理連れ込んだのだが。


「スティラ……………」


 マルスブルーは彼女たちを見るも、一瞬で視線を逸した。


 これで良い。僕は国王にもなれない、彼女を幸せにも出来ない。アレスと結ばれた方が絶対に良いんだ………。


 アレスフレイムはズカズカとホールの中央へ進み、マルスブルーの方へと向かうと突然、スティラフィリーを前へ放り出した。

「きゃあ!」

 あまりにも突然の事態にスティラフィリーはバランスを崩し、倒れそうになり、

「スティラ!!」

 マルスブルーは反射的に一歩二歩と脚を前へ踏み出し、スティラフィリーを抱きかかえた。

 アレスフレイムの若干乱暴な行為にホール内は緊張が走り、楽団の音楽も止まってしまった。

「マルス様…………」

「大丈夫? 痛いところは無いかい?」

「マルス様が支えて下さったので大丈夫ですわ」

「そっか。アレス! スティラに何をするんだ!?」

 スティラフィリーを支えながらマルスブルーがアレスフレイムに咎めるも、「フンッ」と憮然とした態度を見せ

「その言葉をそっくりそのままお前に返す」

 とアレスフレイムが言うとマルスブルーは忽ち自分の愚かさに顔を赤くした。

「おい楽団、手が止まっているぞ」

 アレスフレイムは構わずに楽団にも指摘をすると、指揮者は慌てて指示を出し、演奏者たちも緊迫しながら再び音楽を奏でた。

「スティラフィリー嬢、俺と踊るか」

 憎たらしい嘲笑を浮かべてスティラフィリーに問いかけると

「いえっ…………っ」

 彼女はか弱い声で否定をした。

「何だ? 聞こえないぞ」

 挑発をする様にアレスフレイムが再度嘲笑うと、

「アレス! いい加減に……っ」

「マルスブルー様が良いです!」

 マルスブルーの言葉を遮ってスティラフィリーが楽団の音楽にも負けない高らかな声で想い人の名を挙げた。

「私が踊りたいと思う相手は、マルスブルー様だけですっ!」


 以前の私ならアレスフレイム様をただ怖いだけだと思ってた。

『兄が不器用で悪かったな。俺の責任でも有る』

 そう呟く彼の背中は国のあらゆる事態を背負い、逞しく、それでいて彼の根底は情の深さがあるとわかった。

 今だって、ご自身を悪役にさせながら…………。


「ハッ、左様でございますか。邪魔者は去るとしよう。興醒めさせて悪かったな」

 コツコツと革靴の踵を響かせながらアレスフレイムが去ろうとすると、スティラフィリーは既に背にいる彼にも聞こえうに

「マルスブルー様、お側を離れて申し訳ございませんでした。それでも私と踊っていただけますでしょうか」

 とそれはそれはとても凛とした声で申し出た。

「勿論だよ、スティラ………」

 一方でマルスブルーの返事は頼りなかった。これではまた他の女に強引に誘われたら相変わらず断れなさそうだ。

「私だってマルスブルー様と踊れそうだったのにっ!」

「どっちつかずの令嬢のくせに…っ!」

「後でまた声をかけたら良いのよ」

 マルスブルーとのダンス待ちをしていた貴族令嬢たちは不満の声をぶちぶちと言うと、アレスフレイムが彼女たちに近寄り

「ここを誰の家だと存じている。下品な行動は慎め。後でクリエット当主から招待客リストを無理矢理でも貰うからな」

 と釘を刺すと、女たちは青ざめて大人しくなった。

 ふとアレスフレイムが後ろを振り向くとマルスブルーとスティラフィリーが踊っている姿が見え、「フッ」と笑うと一人ダンスホールから姿を消した。後ろからクリエット夫妻が立ち去る彼に黙って最敬礼をして見送り続けた。




 クリエット邸からさらに北西。

 森と草原が広がる地で、ひっそりと偵察をしていたのはノイン。

「今のところ異常は無いか……」

 夜風に吹かれてサラサラと揺れる葉の音に囲まれ、ノインは適当な場所で座ると、国境に続く北西の星空を眺め、敵が来ないかと研ぎ澄ませた。


 夜会が終わる頃まで寝るか。

 先に客室に戻ったアレスフレイムはソファーで仮眠を取り、僅か1時間後に目を覚まし、開かれた窓の近くに座った。

「…………良い音だな」

 風と葉の奏でるメロディーに心地良さを覚えるも、竜の襲撃に備えて彼らは一晩中寝ずに大地や人々を守るために警護をしていたのだった。




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