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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
40/198

1−4

 窓の無い広い部屋に大きな円卓があり、上座に国王、横には三大貴族の一つのジーブル家の家長が座り、その隣は長男の金髪長髪のエドガー、他は王専属の騎士たちが座っていた。

 王が許した者だけで集まるこの薄暗い部屋を“神の間”と王は呼んでいる。が、実の息子のアレスフレイムは“クソの間”と蔑んでいる。この部屋に集まった後は大概余計な戦争にこのロナール国が無理矢理首を出させられることが多い。


 国王の名はカヴィタス・ロナール。

 第二王子のアレスフレイムと同じく髪は赤く、両耳の上はカールで巻かれている初老。隣に座るジーブルもまた王の真似をして髪を巻いているふくよかな体格の初老で、反アレスフレイム派の彼は王に胡麻を擂り、“腰巾着のジーブル”とも呼ばれている。


「朗報だ。ロナールに重大な戦力が加わろうとしている。悪しきゲルーを捻り潰して、レジウムを筆頭に全世界を平伏すことが出来る程の力だ」

 高らかに声を上げるカヴィタス。

「左様でございますか、陛下! それは素晴らしい知らせ。ぜひ我が領地で生産した兵器を思う存分使っていただきたい!」

 横でヘラヘラと笑いながら媚びを売るジーブル。

 王専属騎士たちは固唾を呑んで王の言葉の続きを待つ。

「兵器は使わぬ」

「と言いますと…」

「魔女だよ、魔女。“太陽の丘の魔女”だ」

「魔女!?」

「陛下、その者は今どちらに?」

 騎士のリーダー格が問うと、カヴィタスは貪欲に満ちた笑みを全面に出した。

「捕らえに行くんだよ、お前たちが」

 途端に騎士たちが動揺を見せる。

「無論、上級魔法が使える騎士団の奴らにも行かせる。魔女の居場所は突き止めたからな」

 カヴィタスは懐から古い本を取り出して立ち上がった。

「それは……!?」

 横からジーブルが目を見開いて見上げる。

「古の我が国の王の手記だ。全ての属性の魔法を操りし太陽の丘の魔女、女神の如く男を狂わせる美しさを備え、迷いの森より丘から降り立つ」

「迷いの森……っ!?」

 騎士たち全員が不安そうな顔をした。

「やはりあの胡散臭い森が怪しかったのだよ。存在したのだ、太陽の丘は!」

「しかし陛下、迷いの森は5年前、我々の前任たちが壊滅したのではありませんか!」


 5年前。

 “迷いの森”は国の最南端にある、入れば二度と脱出することの出来ないと言われる深い森である。そして森にはハイレベルのモンスターたちが潜んでいる。迷路のような構造の上に侵入者を亡き者にする巨悪なモンスターが居ることから、誰もが森へ好んで入ろうとはしなかった。だが、不思議とモンスターは森の外へ出たことは一度も無い。

 が、カヴィタスは迷いの森に何かがあると目を付け、攻撃を司令した。正々堂々と森の出入り口から攻め込まずに、ジーブル領地で作られた空爆機を3機上空に飛ばし、上から爆弾を森一帯に撃ち落とした。それを双眼鏡でカヴィタスとジーブルは眺めていたが、一瞬で全ての空爆機が爆破され、森も燃えること無く今までと同じ姿で健在していた。カヴィタスらは作戦が失敗して興醒めし、双眼鏡を捨ててその後は娼婦と夜の宴に酔いしれた。

 迷いの森、謎ばかりが蔓延る恐ろしい森である。


「弱腰になるな無礼者! 陛下の前だぞ! ジーブル領地出身の名に泥を塗るつもりか!」

 ジーブルがガンッと机を殴り、反論をする騎士に大声で戒める。

「しかし………っ!」

「そうか、迷いの森へ行きたくはないか、では選べよ」

 カヴィタスが冷酷な瞳を反論した騎士に向ける。

「迷いの森で死ぬか。行かずに死んで家族をも道連れにするか」

「………っっっ!!!」

 その場に居た全員が押し黙らされた。

 同席していたジーブルの息子のエドガーはアレスフレイムの耳に入れた方が良いかとも考えたが、先日彼に愚弄され、彼の力を借りることに気が引けていた。

「セティーに至急帰城しろと伝えろ。前回は筆頭魔道士を連れなかったからな。我が国の上級魔法使用者全員とお前らで必ず捕らえるのだ! セティーが戻り次第、迷いの森へ向かうぞ!」

 カヴィタスとジーブルだけがほくそ笑み、他の戦士たちは悔しそうに唇を噛み締め、俯いている。

 

「間もなく私は世界の神となるのだ………!」


 だが手記の最後にはこう書かれていた。

 太陽の丘の魔女を地上に降ろしてはならぬ。彼女は忽ち世界を滅ぼす災となるだろう、と。




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