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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
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6−3

 ラノの心臓を得たシクラメンは増々巨大化。長い弦と丸い花弁が首長竜の様。ラノの心臓を食べたばかりでまるで紅いよだれを垂らしている。

「さてと」

 シクラメンがラノの心臓を完全に飲み込むと、スカーレットは北の方角に目を向けた。

 ムシャムシャァアア!!!!

「ッ!?」

 シクラメンの花弁が目隠しの彼の鞭に齧りつくと、勢い良く彼を放り投げた。

「ぐッ!?」

「あっ!! ニッ………っ!!」

 ココが思わず彼の名前を叫ぼうとしたが堪え、

風浮(フロウ)!」 

 咄嗟に風属性の魔法を唱え、彼を宙に浮かせた。

 すると、バサッバザァッ…と翼が羽撃く音が、空気が、灰色の空の下の大地を響かせる。

「あなた達と戯れ合う暇なんてないわ。ごめんあそばせ」

 艷やかな唇でスカーレットが微笑むと疾風の如く姿を消した。北を目指して。

「目的はロナール城か!? 転移魔法(テレポート)!」

 彼もスカーレットを追うように姿を消した。躊躇う事など無く。

「待ってっ!」

 ココも彼を追おうとしたが、近くでリリーナが胸元を手で抑えて息苦しそうにしているのを見て思わず彼女に駆け寄った。

「リリーナさんっ、どうしたんですか!? リリーナさんっ!」

「リリーナ!!」

 そっと草原にラノを寝かせ、血塗れのアレスフレイムも彼女に駆け寄る。だが、その姿はリリーナの中に潜むフローラにとって恐怖でしかない。

「いやっいやぁああ!! 死にたくない!! 私を力づくで奪おうとしないで!!」

 フローラだ。アレスフレイムは怯えている人格が愛する人ではないと確信し、

「リリーナ!」

 紅く染まった手を伸ばし、リリーナの手首を掴んでぐっと引き寄せた。深層心理に埋められた彼女の意識を取り戻すために。

「っ…!? はぁっはぁっ…アレスフレイム……様……」

 リリーナの腕にも手の形に血が残った。だが、不快感は無い。最後にスカーレットを説得をしようとした哀れな死に方をしてしまったラノの残したものにそっと手で触れた。

「無駄にはしないわ……するものですか……あなたの命を」

 若草色の瞳が燃える。太陽の光を浴びた水面の如く煌めかせながら。

「リリーナ、貴様は行くな。危険過ぎる!」

 まるで身体中に聖水が流れるような感覚。リリーナは彼女自身の持つ力の源を確信し、胸元にそっと手を添えた。フローラに水を与えるかのように。

「私の水が終わらせます。フローラの悲しみを」

「リリーナ!?」

転移魔法(テレポート)!」

 呆気なく目の前から消えた。アレスフレイムも急いで転移魔法で追おうとするが、

「足手まといダヨ、来るな」

 蜘蛛の糸でアレスフレイムの手首はグルグルに巻かれて縛られる。アレーニだ。

「これは太陽の丘の民の戦いだ。安心して、ボクとレジちゃんで必ずリリーナを守る。君が魅了の魔法にかかればそれこそ次の悲劇に繋がる」

「くそ………ッ!」

 レジウムが静かにアレーニへと歩み寄る。瞳を黄金色に輝かせながら。

「急ぐぞ」

「ああ」

「私も行きますっ!」

 正真正銘の太陽の丘の魔女、ココも迷わず決意。だが、恋人のアンティスが許すはずがない。

「ココッ! 駄目だ、君まで餌食にされたら……!」

 彼女を止めようとアンティスが近寄ったところに、間に入ったのはアレーニ。長身長のアレーニは小柄なココを見下ろす。

「キミは大地を守る役目があるネ。キミの一族の悲願でもある。ボクはキミとカレに従いますヨ」

 ココに迷いはない。

「太陽の丘もすべての庭も彼女に渡さないっ! 行きましょう、ロナール城へ!」

 レジウムは竜を従い、アレーニは蜘蛛を巨大化させて跨った。アレーニが指先を金色に輝かせるとココとレジウムとアレーニの三人を囲むように円を宙に描き、光と共に姿を消す。

「ココォオオオッッ!!!!」

 アンティスの叫び声に、ぴくっと何かが震えた。聖獣ケルベロスの背で眠るココの兄、セティーの手が。


「リリーナ……」

 もどかしそうに北の空を見つめるアレスフレイム。手にべったりと付いた血を見てまた力尽きたラノへと足を運ぶ。膝を付き、そっとラノの髪を撫でた。頑張ったな、と褒めるように。

「…………母親の故郷に埋めてやろう」

 アレスフレイムはすくっと立ち上がり、森に顔を向け、背筋を伸ばした。

「我はアレスフレイム・ロナール。この者は太陽の丘の魔女と竜の間の子どもだ。親の故郷に眠らせてやってはもらえないだろうか」

 どうか森の植物に届け。熱き願いを込めてアレスフレイムが懇願すれば、森はざわざわと音を立てて揺れた。彼に応えているかのように。

「グゥゥゥウウ」

 そして次から次へと森から竜が飛んできた。ラノの周りを飛び、その中の一匹がラノを口で掴むと慎重に宙に浮いた。そして森へ戻る。あとから他の竜たちが続いた。巨大な影たちの下、アレスフレイムは切なそうに竜の後ろ姿を見送った。

 ぎゅっと紅き手を握り締める。抱き締めた体温の名残りを思い出しながら。




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