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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
197/198

6−2

 空はどこか雲が灰色で、陰った草原が揺れる。さらさらと乾いた音を奏でながら。

「スカーレット…ッ」

 息を切らし、ニックの背後から彼女の名を呼ぶのはラノ。急いで翔けたのだろう、ラノの周りの空気だけが熱気を含んでいた。

「ラノ!」

 地上では周囲転送で追いかけたアレスフレイムやアレーニ達が姿を現した。それを一瞬スカーレットが蔑むように見下すも、視線をラノに向けた。

「あら、ラノ。どうしてこっちに来たの?」

 予想外のラノの登場にきょとんとした表情を見せるスカーレット。アレスフレイム達が緊迫しながら二人のやり取りを見つめた。森側に居るリリーナやココ達も同様に緊張しながら見守る。

 ラノは目隠しの男に警戒しながらスカーレットと間に飛んだ。彼もラノの人間と竜が合わさった姿を見て、この者がゲルー国の長であると認識した。

「計画は中止だ。ロナールを攻め、世界を支配することは」

「………は?」

 静かにスカーレットに納得されない態度を取られ、ラノは怖気づきそうになるが怯まなかった。一国の王として。

「あまりにも時が流れ過ぎた。憎むべき人間はとっくにこの世には居ない。フローラの力を手に入れ、ロナールを滅ぼしても報われはしない!」

「…………」

 目の前に居るのは自然を愛する太陽の丘の魔女、大地のためならばきっと理解してくれる。そう信じてラノは息を吸い、説得を続けた。

「罪のない命を奪い、大地を傷つけるなら我等の行動は無意味なのではないだろうか。我はゲルー国王として退却を命じる」

 女神のように美しいスカーレット。唇を閉じ、微笑を浮かべた。灰色の雲の下で。

「王としてのあなたの想いはわかったわ。ラノ、あなた個人として、目的を失った後をどうするつもり?」

「我は………っ」

 ラノの中に流れる血が温かく流れる。太陽の丘の魔女の血と竜の長の血。自然を愛する女神と、巨体ながらも神聖に空を翔ける血が。

「日々自分の存在を責めていた。ロナールの昔人よりも我自身を。苦しみから解放されたい。現代の平和な地で」


 にこっ。スカーレットは確かにそう微笑んだ。


「避けろ!!!」


 目隠しの彼が叫ぶ。鞭でラノを捕えて引き離そうとした。


「……が……ふ………っっ………」


 白いシクラメンの花弁がラノの胸を貪った。

 丸みを帯びた花の形に胸は抉られ、口から血を吐く。


「苦しみから解放されたいなら早くそう言ってよ。すぐに楽にしてあげたのに」


 ドクンドクンッ……ッ!

 身体から引き離されたラノの心臓が花弁の中で苦しむ。

 ムシャムシャムシャムシャ!!!!!

 そして、白きシクラメンの花は心臓を喰らい、ドクドクと脈を打ちながら染まっていく。紅き花へと。


「うそ………」


 スカーレットの足元から咲くシクラメンは白き花と紅き花がある。紅い花の数、それを意味するのは……想像したココが目を見開き絶望で一筋の涙を流した。

 ラノの身体もおびただしい血と共に落下していく。レジウムの乗った火竜が咄嗟に背中でラノを受け止めた。頭から血が降られたレジウムであったが、ラノのぽっかりと空いてしまった胸元に即座に手を添え、

光ノ回復(ヒールロフォス)!!」

 有りっ丈の力を込めて回復魔法を唱える。だが、

「戻って来い!! 甦れ!! ゲルー国王!!」

 レジウムの呼び声にもぴくりともラノは反応しなかった。

「ラノ!! ラノ!! ラノ!! 死ぬな!! お前は生きろ!! ラノ!!!」

 大地を蹴って駆け付けるアレスフレイム。


 薄れゆく意識の中でラノは彼を見つめた。


 ―――――年甲斐もなく、誰かの胸元にあれ程安堵するとはな。


 ほんの数分前、アレスフレイムの胸元で頭を撫でられたことを思い出す。


 ―――――あんなにも毎日毎日、この命が無ければ、化け物なんて産まれなければと思っていたが。


「レジウム、ラノは!?」

「…………無理だ。臓器の再生は流石に出来ない」


 ―――――今の時代に、お前が生きてる間に産まれたら、我ももっと違う生き方が出来たのだろうか。


「カジュ!! ヨモギを呼べないか!?」

「………アレスフレイム、ヨモギの婆さんでも無理だ」


 ―――――あぁ、死にたくないな。


「………ぁ……………」


 ―――――有り難う。化け物を、我を抱き締めてくれて。


「ラノ………?」


 ―――――母よ、父よ。もしあの世があって、会えるなら我を抱き締めてくれるだろうか。


「ラノぉおおおおおおおお!!!!!!」


 血塗れの中、ラノはアレスフレイムの腕の中で眠りに就いた。永遠に。

 



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