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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
195/198

5−3

 ぎゅぅ……ラノは竜の背の上で屈み、顔をアレスフレイムの胸元に埋め、両手でしっかりと彼の服を掴んだ。アレスフレイムもそっとラノの頭を撫で続けた。念の為、頭から生えた二本の角に当たらないように気を付けながら。ノインやアレーニ、アンティスも爪を縛っていた魔力を解除し、静かに腕を下ろして二人の様子を見守った。竜もまたなるべく揺らさずに穏やかに飛び、そっと伏せるように着地した。

 だが、ゲルーとロナールが許し合えたかのような時間も束の間。

「スカーレットが森から出たわ! こっちに向かって来る!」

 白薔薇姫が敷地内の根から声を上げ、アレスフレイムとノインが一気に顔が強張り、アレーニもまた蟲から知らせを聞き緊張した面持ちとなった。

「リリーナ達は!?」

 森から出た、それはリリーナ達が阻止出来なかったことを意味する。アレスフレイムは即座に愛する者の安否を心配した。

「無事よ! 全員ね」

「わかった。魔女スカーレットがこちらに向かって来る。森へ向かった者は無事だ。全員魔女に備えろ!」

 スカーレットの名を聞き、ラノが少しぶるっと震えた。緊急時ではあるが、アレスフレイムも僅かなラノの反応に気付き、

「大丈夫か? 城に匿うことも出来るが」

 肩を掴みながらラノの様子を覗った。

「平気だ。我はゲルー国王、国のことも、国民のことも、真剣に考えなくてはいけない」

 ラノは立ち上がり、自身の羽根を広げてふわっと地面に降りる。

「スカーレットはこの城のどこかに眠るフローラを探しにやって来るはず」

 フローラと聞き、アレスフレイム達は驚愕をした。まさかロナール城の敷地内に歴代最強の魔女の亡骸があるとは信じ難い。

「もう、世界を支配するなど望まぬ。憎むべきロナールは過去の物となってしまったのだから。我はスカーレットを止める。すぐここに来るだろう」

「すぐでも無いんだよネェ」

 会話に割り入ったのはアレーニ。警戒しながらラノが声の方へと振り向いた。

「途中、時間稼ぎのためにある人物を手配しているんダヨ。もうちょい時間がかかるんじゃないかなぁ」

「そいつは強いのか?」

 キリッと鋭い視線をアレーニに向けるラノ。アレーニは臆することなく、むしろ少し笑みさえ浮かべていた。

「まぁオタクの最強部下を相手にするのですから、それなりにネ」

「聞いてないぞ。誰に頼んだ」

 アレスフレイムもアレーニに圧を加えると、アレーニは多少たじろいだ。

「やだなぁ、そんなの秘密ダヨ。ヒ・ミ・ツ」

「太陽の丘の魔女相手に一人で立ち向かえる者などいるのでしょうか………」

 ノインも不安そうに考えるが、迷いの森で助けられたことを思い出す。謎の男に………。

「我がスカーレットを説得する。ゲルー国として、他国を攻める理由など無くなった。時代は変わった。スカーレットが恨む太陽の丘の民だって、きっともういない」

「ちょっと待って。アレスくん、通訳お願い」

 突然足元から声をかけられ、アレスフレイムは下を見る。声の主は白薔薇姫だ。

「姫様! あまり余計なことは!」

「ラノ・ロフォス、あなたの母親の名は?」

 何やら薔薇の迷宮で止められていそうだが、白薔薇姫はまるで無視をして続ける。

「………王城敷地内の庭の主が貴様に聞きたいそうだ。貴様の母親の名は何か、と」

 ラノは一瞬驚いた表情を見せたが、迷うこと無くアレスフレイムを見つめた。

「リコリス。リコリス・ロフォス。竜相手だがそう聞いた」

「リコリス…。あなた、リコリスの子どもなのね」

「主とやらは母を知っているのか?」

「姫様! 何も言ってはなりません!!」

「…………」

 怪訝そうにラノがアレスフレイムに聞く。

「お前の言葉は主に聞こえてる。だが答えていねぇ。おい白薔薇、質問しておいてそりゃねぇだろ」

 軽くつま先でトントンと地面を蹴る。すると白薔薇姫は息を吸い、

「ラノ・ロフォス。あなたの母親は誰よりも竜を愛する心優しき者だったわ。太陽の丘の民でも特に慈愛に満ちていた。あなたを身籠らせたことは人間の愚かな行為だったかもしれないけれど、恐らくあなたの母と父は愛し合っていたと思う。あなたは愛されていたのよ」

 それはとてもはっきりとした口調で答えた。まるで陽の光を浴びて凛と美しく立つ者のように。

「……お前の母親は竜を愛する心優しき者。貴様の父親とも愛し合っていたらしい。だから貴様も愛されていた、と言っている。母親は太陽の丘の民でも特に慈愛に満ちていた、と」

「………嘘だ」

 ラノは何か焦ったように首を横に振る。

「嘘だ! 嘘だ嘘だ! だったら太陽の丘の民どもは何故母を助けなかった!? 下界で捕まった母を愚弄し、異種と交わった事を蔑み、母の命など容易く見捨てたのだろう!」

「スカーレットがそう言ったの?」

 もしや、と全員がつばを飲む。アレスフレイムがあまり聞きたくないが口を開いた。

「魔女スカーレットがそう言ったのか………?」

「え………」

 目を見開き、絶望的な顔を浮かべるラノ。身体が震え上がり、何を信じれば良いのか、自分が信じた者は最大の裏切者だったのか、と心が崩れそうになっている。

「リコリスを民が見捨てるはずがないわ。竜系は珍しいし、丘で竜と共に生きていくのに貴重な存在だから。恐らく、彼女は優しかったからフローラを探しに丘を降りてしまったのね……」

「…………ッ」

「おい、庭の主は何て言っている」

 アレスフレイムの腕を掴んで揺するも、彼の辛そうな表情を見て何かを悟ったラノ。そっと腕を離し、

「時間稼ぎするヤツは、強いんだな…?」

 アレーニに睨むように問う。聞かれたアレーニは静かに頷いた。

「スカーレットよりも強いのか」

「たぶんネ。でないと流石にボクも単独では送り込ませないよ」

「…………助けに行く」

 そう言うとラノは翼を大きく広げ、辺りに風を舞わせた。

「ラノ!」

「我は……スカーレットを信じたい………!」

 

 長い冬眠から目を覚ました時に覗き込んでくれた美しい笑顔が忘れられない。


 無我夢中で翼をはためかせ飛ぶラノ。背負うものは孤独か、絶望か、それとも無償の愛だろうか。 

 



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