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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
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5−1 2000年越しの謝罪

 大陸の最北の地、ゲルー国。

 大地は枯れ、乾いてひび割れた土が続き、上空には巨体の竜達が飛び交う。どこか悲しげに、孤独に、鳴きながら。


「…………南へ」


 国の中心にそびえ立つ針の城。最上階のバルコニーの手摺に素足で立つ者が居た。ゲルー国国王、ラノ・ロフォス。竜の長と太陽の丘の魔女の間に産まれた者。一見背丈の低い人間のようにも見えるが、背中には硬い羽根、所々鱗のある皮膚、研がれた鉤爪………人間でも竜でも無い。瞳の虹彩は母の血を引く黄金色。そして瞳孔は父の血を引く黒。

 花の咲かない地を飛び立ち、南を目指した。竜達に反対されながら。


「フローラの力が手に入れば、何も恐れなくて済む」

 産まれてすぐの長い冬眠を覚めてから世話をしてきてくれたスカーレットが教えてくれた。

 フローラはまだ生まれ変わっていなく、亡骸にまだ壮絶な力も残っているはず、と。

 母と父を殺した南の国の人間が憎い。そして、誕生と引き換えに母の命を落とさせてしまった自分の事も…。

「フローラの力が手に入れば」

 何も恐れなくて済むのだろうか、本当に。自己嫌悪と懺悔に飲まれそうな日々からも。


 自国から抜けると、途端に眼下に緑が広がり始めた。緑だけでない。赤い屋根の家、煉瓦造の商店、童話のような城。

 人間達が暮らしている、そう匂わせる風景が。

「グルルルルルル」

 背後から竜達に追われ叫ばれるも、ラノは振り返らずに飛び続けた。

「喧しい。我にはフローラの力が必要だ! ロナールをこの世から完全に葬り去ってやる!」

 竜達に気付いた地上に住む人々は、時折魔法で攻撃を仕掛けた。が、ラノは軽々と焼き払う。次第にゲルー国の武力を恐れ、人々は竜が上空を通過するのを黙って見過ごした。そうなれば、ロナールに到着をするのも早い。


 ―――――我はフローラの力を手に入れば、ロナールを滅ぼせば楽になれるのだろうか。人間でも竜でもない化け物として生きている呪縛から。




「そろそろ来るっぽい。魔力の弱い友達が土に潜って隠れようとしているネ」

 ロナール王城敷地内、朝早くから到着したアンセクト国国王アレーニが下を見ながら呟く。彼の言う友達とは蟲のことで、小さな蟻たちが慌てるように巣穴を目指しているのが見えた。

「ああ、覚悟は出来ている」

 大剣を鞘から引き抜いたのはアレスフレイム。ロナール国王の王弟だが、魔力が強いこと、そして魔力の強い植物と会話が出来ることから今回も参戦。他にロナール国からはアレスフレイムの側近のノイン、騎士団団長のアンティス、アンセクト国からは筆頭魔道士のマリクが王城で迎え撃つメンバーとなっている。

「アレスくん! スカーレットと風使いくんが太陽の丘へ向かったわ! 恐らくこっちには竜国王だけが来る」

 地面から伝えるのは白薔薇姫。敷地内に張り巡らせる根からアレスフレイムへと声をかけた。

「魔女とセティーは予想通り太陽の丘へ行った。ゲルー王だけが来る」

 植物の声など聞こえない他のメンバーのためにアレスフレイムが伝えると、全員ぐっと気を引き締めた。


 空から乾いた風が吹いた。


 アレスフレイム達が見上げると、空は灰色の雲に覆われ、一人の人間らしき者が浮いている。自らの硬い羽根で。

「ロナール……」

 初めて訪れた憎悪の国。敷地内は人工的に敷き詰められた煉瓦道が並び、豪華絢爛な建物が並んでいるのがラノの視界に映った。

 そして自分を迎え撃とうとするため、武器を携える人間の姿も。

「邪魔だ……邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!!」

 ギンッッ!!!!! と手の鉤爪を長く鋭く光らせると、ラノは急降下。

「来るぞ!!」

 アレーニが叫ぶと、反射的に前に出たのは筆頭魔道士マリク。

魔法円盾(グライスシールド)!」

 片手を前に出し、味方全員をまとめて囲んだ大きな透明な魔法の盾を召喚し、ラノの爪に立ち塞がる。

 ギッギッギ……ッ!!!! と硬いものが強く擦り合う音を立て、ラノが盾を削っていった。

 やがてパキンッ! と盾を壊すと、

「死ね!」

 とラノは両手の鉤爪をギィィンンッッッ!!! と急に長く伸ばし、まるで10本の槍の如く一気にアレスフレイム達を貫こうとした。

蜘蛛ノ(アレニ・)神糸(テオスフィル)!」 

 咄嗟に白銀の蜘蛛の糸を操るアレーニ。瞳を黄金色に輝かせると蜘蛛の糸も同調して輝き、ラノの鉤爪を縛り付けた。

 グググッと歯を食いしばるラノ。黄金色の蜘蛛の糸に抗い、爪をさらに強靭にさせようと力が入る。

「我は竜の王………ッ! 蟲など潰してくれよう! 我の邪魔をする者は全て消し去る!」

 ラノの黄金色が燃えるように煌めく。まるで炎のように。そして長く伸びた爪に炎が纏い始めてきた。ラノの心を反映したのか、炎は青い。赤き炎よりも燃やし尽くす故にそれ程までに憎しみを抱いているからか、それとも悲しみか。熱き炎はアレーニの蜘蛛の糸を灰にしてしまった。

「足りない……ッ! まだ足りないッ! 燃えろぉおお!!!」

 ゴオオオオオオッッ!!!!!!!!

 硬い羽根を広げ、ラノは全身から青い炎を燃え盛らせた。

「くッ!!!」

 マリクとノインが前に出て水魔法を繰り出すが炎は消えることはない。

「落ち着け、ゲルー国王! 話し合おう!」

 アレスフレイムが叫ぶが、声は炎にかき消された。


 以前セティーが前王を殺害しようとした魔力の波長に似ている。

 

 つくづく歴代の王共は恨みを買いまくっているな。アレスフレイムは自分の先祖に嫌気をさしているが、時は止まらず流れている。

 今のロナールは平和を願う者ばかり。

 特に大地の恵みを喜びとする者も………。

 

 彼はそっと腰に手を添えた。水筒の蓋が開かれる。




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