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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
192/198

4−2

「単なる庭師が太陽の丘の魔女に敵うとでも思っているの?」

 笑みを浮かべてはいるが明らかに苛立ちの空気を醸し出すスカーレット。足元の紅い魔法陣はさらに燃えるように色を濃くし、にゅるにゅると白や紅のシクラメンが蠢いている。

「敵わないからと退く事など致しません」

「へぇ……」

 スカーレットが微笑むとまるで残像を僅かに残しながら一瞬で飛んでリリーナの背後に着くと、シクラメンでリリーナの首元を噛もうとした。

「ぐっ!?」

 間一髪で聖剣を背後に払い、難を逃れたリリーナ。スカーレットは後ろへとリリーナとの距離を広げ、聖水に当たらぬ様にとした。

「次で仕留めるわよ」

 楽しんでいるかのように笑みを浮かべるスカーレットに対し、リリーナは歯を食いしばり、防御に専念しようとする。

 その時、

「何……」

 空に突然光の柱が生じた。ココだ、とリリーナは悟る。

「ぽんこつだと思ってたけど甘かったかしら。やっぱり私が首を落とさなきゃいけないのね」

 翼を広げ、森を駆け抜けようとするスカーレット。だが、

「行かさないわ!!」

 リリーナが円を剣を握りながら両手を前に出した。ここは守りの森、太陽の丘の民を守るための森。リリーナの想いに共鳴するかのように、木々がざわざわと揺れた。

魔法円盾(グライスシールド)!!」

 ブォォンッッ!!!! ライトグリーンに光る球体の盾がリリーナだけでなく、リリーナとスカーレットを囲むように現れた。

「あら、私と二人きりになろうだなんて度胸あるわね。私達を誘き寄せる場所に太陽の丘を選んだのも、転移魔法が使えないから、ってところかしら」

 逃げ場所は少ない。限られた空間の中に閉ざされ、リリーナはスカーレットの動きに全神経を研ぎ澄ませて集中した。

「お連れの子に何か指示したんでしょうけど、単なる下界人に何が出来るの」

 ぐわぁっ! と巨大なシクラメンの花弁が口開く。正面からリリーナに襲い掛かり、リリーナは聖剣を払いながら喰おうとする花から身を守った。


「はぁっはぁっ、ここね………!」

 森の奥、木漏れ日に照らされながら水面を宝石のように輝かせる泉に辿り着いたハニビ。泉の中心では静かに水底から滾々と聖水が湧き出て、森に命の水を巡らせる。


「一人では無力かもしれない。けれど」


「勇敢な戦士たちよ! 泉を熱く燃やしなさい!」

 ハニビの命令が下ると雌蜂達は軍を成して泉の中心へと飛んだ。一匹では小さな個体でも、群れれば忽ち巨大な生物のようになり、蜂達を中心に水面が揺らめく。


「仲間がいる。国を越えて、続く大地を守り抜く繋がりを持って」


熱殺蜂球(バーニングビーボール)!!」

 バニビが両手を泉の前に向けて魔法を唱えれば、雌蜂達が集まって球体の塊となり、黄金色に輝かせながら泉へ沈むとその凄まじい熱さでじゅわっと泉から蒸気を上げた。


「仲間……綺麗事よね。所詮自分達が受け入れられない異種的な存在が居れば見下して排除する。仲間なんて偽りの鎖。自分に矛先を向けられたくない弱さで結託された薄汚い群れよ」

 うっすらとだけ笑みを浮かべるスカーレット。視線はリリーナに向けてはいるが、どこか遠く懐かしんでいるようにも見える。

 その時、むわっとした熱気が森の奥から立ち込めて来た。同時にリリーナが魔法円盾を解除。

「何なの、蒸し暑い!」

 苛つかせながらスカーレットが森の奥を睨めば、リリーナは聖剣を握りながら淡々と答える。

「昨日は大地の伝達をさせぬ様、冷気と暖気を繰り返し降らせたと聞きました。貴女が操る花も同じく寒暖の差を嫌います。シクラメン、湿気も特に嫌う花です」

 植物を故意的に苦しめるのは本当は避けたい。しかし、リリーナはスカーレットの動きを弱めるためにも気持ちを押し殺して立ち向かう。

 湿気の正体は聖水の泉が蒸発したもの。スカーレットをも湿らせると、微かにだが肌と髪が枯れ始めた。手の甲に忽ち赤切れが生じ、紅い毛先が白髪へと数本変わり始めていく。

「ロズウェル、貴女の水の力は心底邪魔ね。その剣も」

 シュッとリリーナの目の前からスカーレットが瞬間移動でもしたかのように消えたかと思えば、一瞬で逆さになってリリーナの真上に移動をした。

 天女の如く長くゆるやかな髪を降ろし、紅き唇で微笑みを造る。この世の者とは思えない美しさで。

「っ!?」

 リリーナもハッとして上を見上げるが遅い。

 いや、スカーレットの翼が速すぎるのだ。

 一本のシクラメンを操り、大口を開くように花弁を開かせると、勢い良く落下させた。

 リリーナの聖剣を握る手首を喰らうために。


蜂ノ毒針(ビーディリティリオ)!」


 ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!

 森の奥から黒い針が無数に放たれ、シクラメンとスカーレットの手の甲を刺した。

「勝手にくたばるなって言ったでしょ!」

 針の正体はハニビの毒針。しかしスカーレットはやれやれとため息をつくと、逆さまだったのを直して宙に浮かび、片手を上げると木の間から太陽の光が差し込み、瞬く間に彼女の傷を癒やした。

「やぁねぇ、こんな細っこい針なんて飛ばしても無意味なのに」

「あり得ない回復力……っ!?」

 まるで痛みを感じていないスカーレットの姿を見て緊迫感を増すハニビ。想像を遥かに超える強さに怖気付いてしまいそう。

「そろそろ寄り道も終わらせるわ。捜し物をしないといけないから」

 ぶわぁっとスカーレットの背後に大きな灰色の翼が広がる。羽撃きでじめっとした湿気が吹き飛び、彼女の足元の魔法陣から生える巨大なシクラメンがうにょうにょと活気付いて蠢いた。太陽の光に照らされ、翼の色は白ではないのに異常な美しさがまるで天使にも見えてしまう。だが、浮かべるのは悪魔の笑み。

「さようなら。篝火ノ花(イグニス)

 日に照らされた太陽の丘の魔女はまるで太陽の女神そのもの。シクラメンの花弁から吐かれた巨大な火の球が次から次へと無数に放たれ、リリーナ達を襲いかかった。


 助からない。


 二人が絶望を抱いた時、


薔薇ノ加護(ロサ・エブロジア)!」


 リリーナのポケットから飛び出したのは白薔薇姫の葉。汚れを知らない純白の葉が輝き、薔薇の魔法陣を放ち、スカーレットの攻撃を防いだ。

「なっ!?」

 まさかたったの一葉に防がれるとは思ってもいなく、スカーレットは葉を凝視した。

「白薔薇姫!」

 リリーナが葉を呼ぶと、

「白………薔薇……………?」

 スカーレットが何か驚きを含めながら呟く。

「スカーレット、馬鹿な真似はやめなさい。あなたが生きる時代はとっくの昔に終わったのよ」

「あなたは……まさか……………」

 白薔薇姫の葉が出てきた時から妙にスカーレットの様子が可怪しい。リリーナは聖剣を持ちながら警戒し続けた。

「生まれ変わりなの………!?」

 スカーレットが腕を伸ばして白薔薇姫の葉を手に入れようとした。が、葉はしゅるりと飛び、手から逃れる。

「ロナール城に居るのね…………」

 ブァアアアッッ!!!!!

 翼を広げると強風が舞い、リリーナ達は思わず腕を前にして視界を守った。が、風が収まったかと思えばスカーレットの姿は無い。

「しまった……! 彼女までロナール城に……!?」




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