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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
185/198

1−2

「あはは、怒ってるネェ! ボクも同じダヨ。(友達)や植物をターゲットに襲撃されたんだ。ボクも顔面の一発や二発殴り込みに行きたい気分さ!」

 リリーナが静かに怒りの感情を沸々と抱いている様子に、アレーニは笑みを浮かべながら想いを共感した。

「で、すごく、すご〜〜〜く、心苦しいケド、今回キミにも戦ってもらいたい。良いかい?」

 リリーナはスッと立つ。満開の時期を迎える花のように強く。

「そのつもりです」

 たった一言澄んだ声で応えるとアレーニの映像にさらに近付いた。

「恐らく魔女スカーレットはセティー様と同行、ラノ王が城を攻めて来ると思われます。魔女スカーレット達を迎え撃つ場所を提案してもよろしいでしょうか」

「勿論! キミの考えを聞かせてくれ」

「迷いの森です」

「迷いの森だと!? 何故!?」

 迷いの森の主、コケに侵食されかけた経験のあるアレスフレイムとしては良い印象が無い場所。ただでさえ強敵を相手にしないとならないのに、不利になるような場所を選んでしまっていないかと彼は眉間にしわを寄せた。だがリリーナは聡明であることを知っている。無鉄砲に選んだ訳でも無いこともアレスフレイムは察していた。

「仲間が多くなります。植物達はもちろん、聖獣ケルベロス、そして竜達」

「魔女スカーレットは植物と鳥使いダヨ。逆に植物を操って襲って来られたらどうするんだい? キミは植物に手は出せないだろう?」

 リリーナは間髪入れずに返答する。それも計算済みであることを物語るように。

「森の中には泉があります。聖水で湧き上がらせた泉が。森の主に頼んで常に聖水を森中の根に行き渡らせ、湿った空気に聖水を含ませれば植物達を操る事は出来ないと思います。魅了の効果を消す力もありますから」

「ナルホドネ! そこまで計算尽くしていたらコチラは反対する理由は無い。では対魔女スカーレットチームは迷いの森で、対ゲルー王チームはロナール城で集まるとしよう」

「あの、ゲルーのラノ国王について少し良いですか?」

「ウン? どうしたんだい?」

 リリーナは少し緊張した。アレスフレイムとマルスブルーをちらっと見る。

 何故なら今から話すのは……

「ゲルー国王の名はラノ・ロフォス。太陽の丘の魔女と竜の間に産まれた者です……両親は無理矢理交配させられて……当時の王族に」

 王族達の残虐な実話。

 アレスフレイムは血の繋がりのある先祖が馬鹿げたことを、と額に手を付き、マルスブルーは口を半開きにして立ち尽くしていた。王妃のスティラフィリーは王族の血を引かないものの、あまりにも残酷な話に顔を青ざめ、口元を手で覆っている。

「違う種族の出産で母体は死に、父の竜は暗殺されたと言っていました。ロナールに計り知れない恨みを持っています」

「つまりラノというヤツは、単なる世界征服を望んでいるわけではないのか」

 顔色は良くないがアレスフレイムが会話に参加する。

「ええ。ですが、恐らく魔女スカーレットに唆されて人間そのものにも恨みを抱いている様にも見えました。フローラの力を手に入れて命を統べる覇王となって、人間による過ちの命の連鎖を断ち切る、と」

「そうか………」 

 先代の愚王と言い、あまりにも歴代のロナール国王達は貪欲過ぎる。そしてそのツケが現代のアレスフレイムとマルスブルーに回ってしまっているのだ。彼等は平和のために努力をしてきたのに………。

「レジウム王、明日狙われた女をセティー様から守っていただいても宜しいでしょうか。竜と共に」

「構わない。が、身を守るだけでは埒が明かない。筆頭魔道士は生きて捕らえることを目標にはするが、最悪殺す必要もある」

「魅了を解毒する力を彼女に宿してあります。土壇場にはなるでしょうが、きっと彼女がその力を正しく使う瞬間が訪れるはずです。それまで耐えて欲しいのです」

「魅了を解毒する力? 私には信じられんな」

「確実に解毒出来る。俺が過去に経験済みだ」

 疑心暗鬼なレジウム王に真っ先に反論したのはアレスフレイム。

「ウンウン、ボクからも保証済みですヨン♪」

 アレーニも指で丸を作って頷くのを見て、レジウム王はため息をついた。

「わかった。そう言うなら協力しよう。だが、今度は太陽の丘の魔女相手にお前とアンセクトの王妹の二人だけで相手することになる。無謀過ぎると思うが」

「あ〜ハイハイハイ、それも大丈夫、ダイジョ〜ブ。秘密の作戦がありますカラ」

「は?」

 この期に及んで秘密とは何だと皆がアレーニに睨みつける。だが、リリーナだけはニックのことだな、と悟った。


 ―――――私も思うもの。彼はきっと……………。


「何を勿体ぶっていやがる。リリーナやお前の妹の命に関わることだぞ」

 アレスフレイムが苛立ちながらアレーニに問い詰めると、アレーニは苦笑しながら視線を逸らした。

「いやぁ、敵を欺くにはまず味方からって言うしネ〜。内緒ダヨ」

「おい!」

「ご心配いりません、アレスフレイム様。アレーニ様は以前迷いの森で助けて下さった正体を隠している者と実は連絡が取れるのだと思います。彼をまた呼んで下さるのかと」

「え。えへへぇ、まぁネェ。あんな強いコと知り合いだって知られたらみんなヤキモチ焼くかなぁってさ」

 全く嘘ではない。ニックが正体を他に曝そうとしないため、アレーニも彼のことを誰かに話すつもりはない。たとえ信頼しているアレスフレイムであっても。

「ヤキモチなぞ焼かん。変に隠される方が不快だ」

「同じく」

「ハイハイ、今度から気をつけますヨ」

 長い黄色の髪の毛先を指でくるくると巻きながら適当に答えるアレーニ。

 すると、

「では、私はこれで失礼致します」

 お辞儀をして一歩引いたのはリリーナ。

「おい、まだ作戦会議は終わってないぞ」

「調べたいことや、やりたいことが山程ございますので。就寝時間までに」

 こんな日でも就寝時間は守りたいのですね、とアンセクト国筆頭魔道士マリクが苦笑いを浮かべた。

「調べたいこと?」

 アレスフレイムが聞く。

「はい、鳥使いと仰っていたので鳥類のことを」

 淡々と答えるリリーナ。明日の事に全く関係は無さそうではあるがと皆が彼女を引き止めにくい。

「花の蕾を鳥に食べられた時は、なんて憎き相手だと思う事もありますが、彼女に操られた鳥を殺めるつもりはございません。習性を理解し、追い払ったり大人しくさせる方法を知っておいた方がよろしいかと思いまして」

「そうダネ。ボクもよく友達が喰われたりするけれど、自然界の弱肉強食は仕方が無い。けれど、身勝手な人間に操られた命を蔑ろにするわけにはいかないからネ。イイヨ、行っておいで。また明日ね、リリーナターシャ」

「では、皆様、失礼致します」

 リリーナは丁寧に最敬礼をすると、その後転移魔法で姿を消したのだった。

「………心配だな、随分マイペースにも見えるが」

 明日行動を共にするレジウム王が不安そうに呟く。

「マイペースではあるが、大地を愛する想いは誰にも敵わない。俺達が予想もしていないような戦術を考えているんだろう。強い、そして賢い」

 リリーナが消えた空間を憧れるように見つめるアレスフレイム。あのロナールの英雄がそんな顔をする相手がいたとは、とレジウム王は内心驚いていた。

「………無礼だった」

 他国と協力し合うことも増え、レジウム王も以前よりも心にゆとりが持てるようになれた。謝ることも、心労に感じない。

「さ、ボク達もさっさと終わらせて自国の整備をしよう。就寝時間は守らなくちゃネ」


 

 

「セティー………」

 ベッドから夜空を眺めているココ。月に雲がたなびき、風が速いせいか月明かりが明るくなっては暗くなると繰り返している。

「風が………吹いてる……………」

 不安で眠れないと思っていた彼女でも、自然と瞼が閉じ、眠りに落ちた。


 ―――――いよいよ明日は…………。


 各々胸に明日の思いを宿しながら横になり、眠るのだった。

 太陽が再び上る、その時まで。




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