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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第七章 ゲルー国との決戦
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1−1 国際作戦会議

 本来なら収穫祭で人も大地も歓喜する季節。さぁ唄え、踊れ、実りを喜び合おう。笛が鳴り、煉瓦畳に靴でリズムを刻みながら。

 しかし、喜びの時期が一変し、世界は混乱の最中にある。

 最北の国ゲルーの竜騎士襲来により、荒れ果ててはいないものの大地は傷付き、自信達の回復で手一杯となり、再び襲われぬ様、対策を練ろうとした。


 アンセクト国筆頭魔道士マリクよりゲルー国の最後の竜騎士四天王にロナール筆頭魔道士セティーが攫われたと報告を受ければ、忽ち城内に激震が走った。

「ノイン、直ちにマルスと上級魔法使用者をここに呼べ! エドガー、アレーニとレジウム王に連絡を繋いでくれ」

「畏まりました!」

「わかった、すぐに通信を繋げる!」

 慌ただしくノインが執務室から飛び出し、エドガーも機械を作動し、二人の国王に連絡を取っている。

 指示を出したのはアレスフレイム。襲来の対応を終えたばかりの彼の赤髪からは汗の雫が散り、苦しそうに歯を食いしばっていた。

「で、お前はさっきまで一緒にウチの王城庭師と共にいたのか」

「ええ、彼女に危機が迫っていると、我が国の陛下のご友人、いえ、ご友蟲(・・・)より知らせが来たので急遽派遣された次第です。今回の襲来は植物達の生命力を弱らせることが狙いでしょう、と。その為に貴殿の方に植物から連絡が届かなかったのだと思われます」

 緊迫した報告内容だがにこにこと朗らかに語るのはアンセクト国筆頭魔道士マリク。天然のパーマはブラウンカラー、彼の物腰の柔らかさがまるで髪にも表れている。

「彼女に怪我は?」

「かすり傷程度です」

 かすり傷と言えどもリリーナに怪我を負って欲しくなかった。彼女をこの手で守れなかった自身への怒りにアレスフレイムはグッと手を握りしめる。

「カジュ」

「あいよ!」

 しゅるりとアレスフレイムの胸元から飛び出したのは中庭の大木の葉、カジュ。先程まで動けなかったカジュの葉に再び生命力が戻り、応答した。

「…………リリーナを、ここに呼んでくれ。彼女からも話しを聞く必要がある」

 本当は戦いになど巻き込みたくない。

 ただただ平穏に植物の世話をして日々暮らして欲しい。王城庭師として、植物達を愛でる日々を………。

 アレスフレイムはリリーナに穏やかな日常を望むが、彼女がゲルーに知られてしまった以上、そうもいかない。


 リリーナターシャは、2000年前に生きて死んだ歴代最強の魔女フローラが彼女の中に棲み着いているのだから……。


「アレスフレイム、そう自分を責めんな。リリーナも戦う覚悟は出来ている、むしろ」

「アレス、繋がったぞ!」

 カジュがアレスフレイムに話しかけている途中にエドガーが通信機の接続を完了し、部屋にアレーニとレジウム国王が映し出された。レジウム国王は本性は女性だが、今は表向きの男性の姿で謁見の間の玉座に座っていた。

「緊急会議を行う。まずは各国の被害は」

 彼等が映し出されると、挨拶もせずに会議を始めるアレスフレイム。

「我が国にも竜が来て、まるで異常気象を起こしたが、被害は無い」

 淡々と答えるのはレジウム国王。

「ボクの国でも同じサ。見た目では大きな被害は無い。だが、植物達の生命力を浪費させた。ボクの友達は冬が来る前に根から枯れるのではないかと心配している」

 アレーニ達が話している間にロナール国王のマルスブルーと王妃のスティラフィリーが執務室に到着し、彼等のやり取りをまずは見ていた。

「ロナールも王都で同様の被害を受けた。さらに筆頭魔道士が攫われ、隠していた巨大な魔力を秘めた庭師の存在も奴等に気付かれてしまった」

「う〜ん、イタイねぇ………」

 アレーニは頬杖してため息を漏らした。走行しているうちに騎士団団長のアンティスと副団長のエレンも執務室へと到着。

「おっと、そろそろ全員揃ったかな」

「いや、まだだ」

 アレスフレイムが答えたと同時に執務室の端に魔法陣が浮かんだ。ライトグリーンの魔法陣が。

「リリーナターシャ!」

 リリーナの姿が現れるとアレーニが身を乗り出して彼女に手を振った。リリーナは会釈をし、応える。

「これで全員ダネ。さぁ、始めよう。ゲルー国より明日、ロナールが襲撃される」

「明日!?」

 思わず声を荒げたのはロナール国の若き王マルスブルー。自身が統治する国が世界最大の戦力を誇る国に攻められると聞かされれば動揺も無理もない。

「ボクのトモダチから聞いた話しだとネ……」

 本当は太陽の丘の魔女の生き残りであるココの記憶を頼りに知り得た情報。だが、太陽の丘の魔女の存在についてなるべく伏せたいと願うアレーニは自身の能力、蟲との会話を活かして蟲から聞いたとでっち上げた。

「竜騎士の最後の一人が桁違いに強い。竜の血肉を得て不老不死となった太陽の丘の魔女さ」

「太陽の丘の魔女!?」

 流石のアレスフレイムも動揺を隠せない。これまでリリーナと彼女の中に棲み着く魔女フローラについて調べてきたが、まさか大地を守る民が敵になるとは想像もしていなかった。

「そいつがキミの筆頭魔道士クンを攫った。禁断の魔法、魅了を使ってネ」

「…………ッ」

 筆頭魔道士セティーが攫われたと聞き、今度は強い衝撃に駆られたのはアンティス。彼の恋仲のココはセティーの異母兄妹。彼はココとセティーとでココの母親の墓参りに行くのを見送ったのだ。先程ココに会い、彼女からもセティーがゲルー国に攫われたと聞いたが、どんなに彼女が怖い思いをしてしまったのかと胸を痛めていた。

「セティーでさえやられたのか。俺も魅了を使われたら餌食になるだろうな」

 アレスフレイムがそう言うとアレーニが頷く。

「その通り。ボクでさえも太陽の丘の魔女の魔力に敵うとは思えない。ここに居る男全員はそいつと戦ったらマズイってわけだ」

「魅了は女性相手には使えない。その魔女を相手するのは女性、ということになりますか」

 確認をしたのは騎士団副団長で女性のエレン。

「ああ。戦力としてボクの妹のハニビを応援に出そう」

 アレーニが話を進める中、片手を上げて意見を出すのはレジウム国王。

「待てアンセクト王、私も女性で対太陽の丘の魔女のチームに入るが、それでも勝算なんかどこにもない。お前は太陽の丘の魔女の力を甘く見すぎだ」

「対魔女チームのメンバーは五名。ハニビ、レジウム国王サマ、そちらの騎士サン、そしてリリーナターシャ」

 アレスフレイムがリリーナを見つめる。リリーナは恐れもせず映像のアレーニを背筋を正して見つめていた。

「アンセクト王、数も数えられなくなったのか。それでは四名だ」

「最後の一人は魔女が筆頭魔道士クンに殺せと命令されてるコ。そのコの最期を高みの見物をしようと魔女が付いてくるハズ。筆頭魔道士クン奪還と魔女の相手をそっちで同時にする感じカナ」

「その子とはッ!? 彼女に危険な目に合わせるわけにはいきません!」

 声を荒げたのはアンティス。アレーニは人差し指を唇に当て、さも黙れと言わんばかりに見せつけた。

「キミが彼女の近くに行けば漏れなく魔女も付いてくる。魅了で犯されてキミも彼女を殺したいかい?」

「…………失礼致しました」

「アンセクト王、それでもこちらに分が悪い。お前は私達を見殺しにするつもりか」

「まさか。リリーナターシャはボクが絶賛求婚中のお姫サマだよ? ボクだって苦渋の決断さ。でも、キミのことだから既に対策は打ってある、そうなんだろう?」

 アレーニに振られ、室内にいる全ての人がリリーナに視線を向けた。

 コツンコツン、編み上げの黒いブーツを響かせながら二歩前へ出る。

「狙われている彼女にも私の力が使えるようにしました。あとは彼女の勇気次第で筆頭魔道士様を戻せるかと」

「スバラシイ! 増々惚れ直しちゃうヨ」

 アレーニが微笑みながら拍手をする。


 だが、リリーナが微笑むような雰囲気は皆無。


「魔女スカーレットはフローラの知人。フローラは不安定になりかけていますが」

 優しくそっと自身の胸元をぽんと叩く。フローラに安心させるように。

「捕えて徹底的に猛省してもらいます。大地を傷付けた代償はあまりにも大きく、絶対に許されません」


 植物が傷付いて怒り心頭にならないわけがない。


 アレスフレイムとノインはリリーナの植物愛を再認識したのだった。

 リリーナを巻き込みたくない、そう切なく願っていたアレスフレイムだったが、彼女の立ち向かう勇ましさに自身も共に戦おうと奮い立つのだった。 




数ある作品の中からご覧いただきありがとうございます!


第七章の幕開けです。

戦います。戦います。めっちゃ戦います。

ぽんこつココの成長も果たして現れるのでしょうか!?


良かったら最後までご覧いただけると幸いです

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