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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
181/198

7−2

「よっ……し……!」

 最後の竜騎士を雷の送還円で送り付けた。

 上空から竜騎士の命令で火や雪の息吹を吐いていた竜達だが、その中の一匹、火竜の上に立っているのはニック。竜騎士全員が居なくなったところで顔を隠していたローブを外し、髪に付いた汗を手で振り払う。

「おやおや、やっぱり犯人はキミでしたか。アンセクトに無断でゲルーの奴等を送り付けたのって」

「あ、もじゃ頭」

 上空で青い魔法陣が浮かぶとそこから現れたのはアンセクト国筆頭魔道士のマリク。魔法陣を維持したままその上に立ち、ニックににこやかに語りかけたが、もじゃ頭と呼ばれて頭を横にがくっと傾けた。

「悪い。こっちよりそっちの方が急に送っても閉じ込めておけるだろうと思って」

「読みは合ってますよ。滞り無く収容してます」

 ニックは竜の背中に座ると、ゴツゴツとした鱗を撫でた。

「おや、手なづけたのですか」

「別に」

「この竜達もアンセクトに送りますか? いいですよ」 

「いや」

 ニックは周りに飛ぶ火竜と雪竜を見つめる。彼の茶色の瞳の奥に密かに黄金色を煌めかせながら。

「お前達、ゲルーにはもう行くな。仲間達は既に太陽の丘に帰っている。そこで安心して暮らすといい」

「あ、それそれ」

 マリクがニックに指を指して声を上げた。

「それです、太陽の丘。お宅の庭師の彼女が急に姿を消しちゃって探しているところなんですよ」

「太陽の丘がどうした!?」

 庭師、リリーナと太陽の丘の話題が同時に出てニックも急に緊張感が増す。

「彼女急にいなくなっちゃったんですよ。太陽の丘が危ないって」

「っ!?」

 ニックは即座に太陽の丘の入口である迷いの森に転移魔法で飛ぼうとした。が、同時にリリーナとココの魔力を感じた。城の敷地内に戻って来たのだ。だがセティーの魔力はどこにも感じない。

「坊や!」

 下から白薔薇姫の叫び声が聞こえる。

「ついでにその男も一緒に連れて来て! その方が都合が良いから!」

 もちろんマリクには白薔薇姫の声は聞こえない。

「まだ時間はあるか?」

「はい、もちろん」

 こんな状況でもマリクは終始にこやかだ。

「転移魔法を閉じてくれ。同時に周囲転送で案内する」

「わかりました。宜しくお願いします」

 全くニックを疑うこともなくマリクは自身の転移魔法を閉じた。途端に下へ落下しようとしていく。

周囲転送(エリア・テレポート)

 ニックはすぐに魔法を唱え、自身とマリクの姿を消した。残された竜たちは南へと飛んで行く。ニックの言いつけを守るかのように。




「さて、二人共、何かあったわね」

 非常に疲れた様子で、肩を揺らすように茎を揺らす白薔薇姫。ここはロナール国城敷地内の中庭に生える、薔薇の迷宮。そこにリリーナとココの二人が転移魔法で姿を現したこだった。

「白薔薇姫、大丈夫なの?」

 リリーナが心配そうに声をかけると

「いい。話を聞きながらゆっくりと根から水分補給をするから」

 少々ぶっきらぼうに白薔薇姫は答えた。丁度ニックが竜騎士を抑えたところでリリーナ達は戻って来たため、城で何が起きたのか彼女は知らなかったが、白薔薇姫の様子を見ればこちらでも非常事態が起きていたのがわかる。

 そこへ周囲転送でニックとマリクもやってきた。

「おや、ここは…?」

 珍しい茨の小屋にマリクは興味深そうに見回す。

「ココ!?」

 少し衣服が汚れ、泣き腫らした瞳のココを見て、ニックは真っ先に彼女に駆け寄った。


 不謹慎にもニックに声をかけてきてもらえたことに安堵してしまうココ。


 セティーが連れ去られてしまったことだけでなく、久し振りに彼から話しかけてくれた安心感でみるみるうちに瞳がうるうると涙ぐんでしまう。

「ニッ…ク…………」

「どうしたんだよ!? お前怪我は!? それにセティーは!?」

「……連れて行かれちゃった………」

「え」

 震えながら言った彼女の言葉を彼はすぐには理解出来なかった。

「連れて行かれちゃったの……ゲルーに」

「転移魔…」

 一気に血の気の引いたニックは今すぐにゲルーに飛ぼうとした。だが、瞬時に白薔薇姫の根とマリクの水ノ魔鎖に巻き付かれ、止められた。

「単身で敵の本拠地に行くのは賢くないですね」

「落ち着きなさい。あなたまで捕まったら助けられるものも助からなくなるわ」

「落ち着けるか!? セティーが連れ去られたんだぞ!?」

 喚くニックを見てため息をつく白薔薇姫。

「気持ちが乱れるのもわかるわ。でも今彼は人質なのよ。わかる? それだけでこっちは不利なの。協力しないと」

「セティーが簡単に連れて行かれるわけがない…! ゲルーの国王か!?」

 ニックに聞かれてココはびくっと震えた。

「えっと…あの……」

「太陽の丘の魔女でありながらゲルー国竜騎士の者、さっきココがそう言っていたわ」

「!?」

「何ですって!?」

 震えて言葉が詰まるココの代わりに答えたリリーナ。

「私が太陽の丘に着いた頃には既にその魔女の姿は無かったわ。丘の主の向日葵が彼女に傷付けられていた」

「話を聞くより記憶を見た方が早そうね。記憶複製(メモリーコピー)

 白薔薇姫が純白の葉を前に出すとぽわっとした光がココの額に灯り、それからそれと同じ大きさの光が三つ生成され、その一つが白薔薇姫の花弁に飲み込まれる。

「…………………リリーナターシャ。しばらく席を外した方が良いかもしれないわ。色々決まったらまた声をかけるわ。ココ、あなたも少し休みなさい」

 記憶を見た白薔薇姫。リリーナに離れるように言ったのは、リリーナではなく中に居るフローラを配慮したのだろう。

「わかったわ」

 静かに薔薇の迷宮を出ていくリリーナ。不安そうにココが小走りで後を追った。

 リリーナ達が出て行くのを見送ると、白薔薇姫は先程のココの記憶の複製の光を一つ差し出し、

「一つはあなたに」

 ニックの額に光を飛ばすと、光はニックの頭の中に飲み込まれていった。

「何だ……こいつ………!?」

「スカーレット。彼女はフローラが生きていた時代の魔女よ。まさか竜を食べて不老不死になるなんて…」

 白薔薇姫が肘を着くように茎を曲げて花弁を垂れながら最後の光をぽわっと浮かばせる。

「そしてもう一つは……」

 一匹の蜘蛛が天井から糸を垂れ下げて姿を表すと

「届けなさい」

 白薔薇姫は蜘蛛に光を託し、薔薇の魔法陣を作って蜘蛛を潜らせた。

「あなたのことあんま好きじゃないんだけど、策士としては嫌いじゃないのよねぇ」

 白薔薇姫は葉で空中に別の魔法陣を描くと何やら映像が映し出されてきた。彼の国では、ロナール国から贈られた通信機が光る。


「急に何かと思えば、トンデモナイものを見せてくれるネェ」


 映像に映ったのはアンセクト国国王、アレーニ。

「さて、明日敵が出向くのなら時間がない。マリク」

「はい、陛下。何なりと」

 何をパシられるのだろうと思いつつもにこやかに返事をするマリク。こんな時でも彼は臨時給料を狙って朗らかな顔をしている。

「至急アレスフレイムの所へ行って欲しい。素性隠しくんと隠しちゃんのことは伏せておきたい。異変に気付いて太陽の丘に到着していた筆頭魔道士クンが一人で太陽の丘の魔女と戦っていたことにしよう。そこへリリーナが先に着いて目の当たりにして、君は後から彼女から話を聞いたことにするんだ。そうしたらアレスフレイムはすぐにリリーナから事情を聞く。彼女も馬鹿じゃない、話を合わせながら必要なことを彼に伝えてくれるはずだ」

「畏まりました」

 マリクは手を胸に添えて映像のアレーニに一礼をすると、すぐに薔薇の迷宮を出た。

「さて、この後アレスフレイムとも話をしないといけない。早目にボクとキミの秘密の作戦を立てよう」

 アレーニはココの記憶からスカーレットの残虐さや強さを見たはずなのに、ニックにウインクさえ見せる。

「随分余裕かましているんだな」

「そんなに余裕は無いヨ。だけど、魔女スカーレット単独ならボクらに勝算はある」

 アレーニは前のめりになり、両手を組んだ。

「キミがこの戦いの切り札だ」




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