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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
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5−1 ゲルーの戯れ

「いやぁ! 実に便利な発明品だネ! ボクの魔力を使わなくても君と簡単に連絡が出来るなんて!」

 執務室にてアレスフレイムが椅子に腰掛けながら仏頂面で宙に浮かぶ映像を眺めていた。横にはノインだけでなくジーブル家の新当主エドガーが立っている。映像は小石ほどの大きさの球から空中に映し出されていた。

「以前は武器作りに特化していたが、技術を通信機や生活用具に注力するようにした。使い方がわからなければこの男に聞いてくれ」

「あ、ご紹介に預かりました。エドガー・ジーブルと申します」

 やや緊張をしているエドガー。今彼が開発した発明品で会話をしている相手は他国の国王、アレーニだからだ。

「うんうん、実に良く出来ている。通信機自体は小さくて持ち運びやすい。何よりも移動をしなくても会話が出来るのがスバラシイ!」

「勿体無いお言葉、有難う御座います」

「もうひとつもらってもいいかい? ぜひ使って欲しい相手がいるんダヨ」

「わかりま」

「誰だ、言ってみろ」

 エドガーが返事を言い終わる前に不機嫌な様子でアレスフレイムが口を挟む。

「え〜、彼がくれるって言うから別にイイデショ〜。顧客のプライバシーの侵害デ〜ス」

「あ? お前からリリーナに渡してこっそり連絡を取りたい魂胆が丸わかりなんだよ!!!」

 映像のアレーニの胸ぐらでも掴みたそうにアレスフレイムが手を握って腕を伸ばす。だが、アレーニは「ハッハッハ」と陽気に笑っている。

「流石アレスだネェ、御名答サン♪」

「返してもらうぞ!」

「イヤ〜ン。コレはもうボクのモノ〜」

「気色悪い声を出すな!」

 悪ふざけの連発をするアレーニだが、彼は政治家として切れ者。中性的な美しい顔立ちに黄色の長い髪を持ち、そして太陽の丘の民の血を継ぐ者でもある。太陽の丘の民は彼の遠い祖先ではあるものの、蟲と会話が出来る特殊脳力が継がれているのが特徴だ。今回の通信機も極秘に運ぶために蜂に託したところ、きちんと届けられ、アレスフレイムから送られてきたことも蜂から言葉として聞いていた。

「ま、冗談はさておき。レジウム国王にも渡して欲しいナ。ボクから渡そうか?」

「信頼出来るレジウム国の兵士に託してある」

「流石、仕事が早い。あとは君の国の筆頭魔道士クンにもお願いネ」

「セティーに?」

 意外な要望に口をぽかんと開けるアレスフレイム。アレーニはフフンと笑い、

「忘れたの? ボクは自室に彼を招くくらい溺愛しているヨ。互いに多忙な身だから直接連絡をして求め合いたいのさ。それとも、君の大切な部下だから都度君の許可を取った方がイイカイ?」

「やるからやるから。勝手に連絡しろ」

 アレスフレイムを見事に説得し、勝ち誇ったように微笑んだ。

 勿論、彼の本心は別。

 太陽の丘を密かに守る彼と何かあればすぐにコンタクトを取りたい。表立って協力は結べないからこそ裏で手を取り合うのが彼の企みだ。

「この間のウチの国での戦いでゲルーの戦力はかなり失ったハズ。そろそろ本腰入れて君の国を攻めるんじゃないかな」

「ああ」

 アレスフレイムにもその覚悟はあった。ゲルーが仕掛けた爆発物が発見された場所はロナールとレジウムの国境。もし爆発でもすれば二国に被害が出るのは勿論、ロナール国が当時戦争を引き起こしやすい状況であった。

「話しちょっと変わるんだけどサァ」

 アレーニが少し身を乗り出す。

「君はフローラの亡骸の居場所を知っているかい?」

「いや知らん。恐らくリリーナでさえも知っていない」

 何故急にフローラの話をと思ったアレスフレイムだが、すぐにハッとした。

「太陽の丘の民を貪る連中だ。フローラは最高のご馳走になるだろうネ」

 フローラを喰って最強の力を手に入れ、世界の覇者となる。それがゲルーの野望だろう。

 亡骸とは別にフローラの意志と魔力がリリーナの中に何故か棲み着いている。普段単なる王城庭師として土いじりに励み魔力持ちであることを隠す彼女だが、より一層厳重に保護する必要があるかもしれない。

「リリーナのことは気づかれていないはずだ。彼女のことを知られたら危険過ぎる」

「そうだネェ、ちゃんと守ってヨネ。ボクのお姫様を」

「お前の姫ではないだろう」


 突然、アレスフレイムから見てアレーニの映像が明るくなった。アレーニも執務室に居るらしく、窓の外を見た。

「何事? すごい日照り」

「おい、アレス。こっちは雪だぞ!」

 エドガーに呼ばれ、アレスフレイムは咄嗟に立ち上がる。ノインも異変に感じ、窓を急いで開けた。アレスフレイムの服に普段隠れている大木カジュの葉がひゅるりと外に飛び出す。

「上空から異質さを感じる!」

 カジュが叫ぶように知らせると、今度はアレーニの居るアンセクト国のように強い日照りの天気に変わった。

「こっちも雪に変わった! みんな、何事かわかるかい!?」

 アレーニも窓を開け、声を張り上げる。声をかけた相手は蟲である。無数の蜂が果敢に羽根を鳴らし、ぐんぐんと上昇。

「なんだなんだ、今日は可笑しな天気だな」

 国民達は不思議そうに空を見上げた。暑くなったり寒くなったりと忙しない天気だなと言いたげに。

 すると、今度はアレスフレイム達の居るロナールの空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。魔法陣の柄は薔薇である。

「ノイン、白薔薇の所へ行くぞ! エドガー、国民を避難させてくれ!」

「わかった!」

 アレスフレイムに指示され、エドガーは執務室を飛び出した。

「アレス! 原因がわかった! 竜が上空にこっちは二匹来ている! 氷竜と火竜が交互に息を吹きかけているらしい!」

「チッ、ゲルーか。アレーニ、また後でな!」

 アレスフレイムは舌打ちし、ノインと共に転移魔法を唱え、白薔薇姫が君臨する薔薇の迷宮へと急いだ。


「白薔薇! 状況はわかるか」

 薔薇の迷宮では一輪花の薔薇の騎士達が花弁を白薔薇姫へ向け、魔力を白薔薇姫へ流していた。白薔薇姫は花弁を天へと向け、純白の葉を両手を掲げるように上げている。

「竜の仕業よ! 著しい寒暖の差をつけやがろうとしている!」

「寒暖の差…?」

 ゲルーの企みがいまいちピンと来ないアレスフレイム。その様子を見兼ねて白薔薇姫の側近である赤薔薇のナイトが彼女を支えながら説明した。

「今は本来なら冬を迎える準備の穏やかな陽気。急な熱暑は植物の葉に火傷を与え、雪は痛みとなり根が腐ります。私達と付かず離れずの昆虫達も同様。土に眠る前に体内が狂わされ、体力が激しく消耗します」

「あなた達人間には異常気象で済む話だけど、こっちはかなりの死活問題なのよ!」

 まるで歯をギリギリと食いしばるような声色の白薔薇姫。

「まさかゲルーの目的は!?」

「大地への嫌がらせね…! かなり巧妙な手口だわ。あまり考えたくないけれど」

 白薔薇姫の声が少し低くなる。空を見上げ、白き花びらがまるで女性の長髪のように垂れる。


「考えたのは太陽の丘の魔女でしょうね」




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