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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
170/198

4−4

 最近気温も穏やかなため、水遣りも頻繁に行う必要も無い。リリーナは中庭にある茨の小屋、薔薇の迷宮へ向かった。

「いらっしゃい、リリーナターシャ」

 純白の一輪薔薇、白薔薇姫が出迎えた。

「国境の畑の様子を見に行ってきます。今日中には戻って来る予定です」

「こっちのことは気にしなくて良いわよ。どうぞごゆっくり」

 フフッと笑い声を漏らし、手を振るかのように葉を揺らす白薔薇姫。リリーナは一礼し、その場で転移魔法を唱えようとした。

 私の庭(・・・)の植物達と何があったのかしら、質問を投げかけてもみたいがリリーナは止めた。別に周囲を巻き込む喧嘩をしているわけでもない。

「行ってきます。転移魔法(テレポート)

 静かに薔薇の迷宮から姿を消したのだった。


「………うん、良い所に飛べたわね」

 リリーナが去った後、広大な大地に神経を巡らせてリリーナの魔力を追う白薔薇姫。集中しながら彼女を観察していると、


 ふわっと甘酸っぱい匂いが漂った。


「あら、珍しいお客様だこと」

 黄色の魔法陣が宙に浮かぶと、魔法陣の持ち主の声が中から聞こえた。白薔薇姫は優美に魔法陣に微笑みかける。

「お久し振りです」

「堅苦しい話し方なんてよして。フランクでいいわよ」

「…………貴女は」

「ん?」

 絶えず微笑みを魔法陣に向ける白薔薇姫だが、魔法陣の主は変わらず緊張した声色を放つ。

「彼女にどのような感情を抱いているのですか」

「彼女って誰のこと〜?」

 緊迫した声色に対し、白薔薇姫は(とぼ)けたような態度を見せた。

「誤魔化さないでよ。貴女の目的はリリーナでは無い。フローラのはずだ」

「そうねぇ……感情か……」

 僅かに声色が低くなる。白薔薇姫は茎を少し傾けて考え、葉を花弁に添えてみた。

「白薔薇姫として、世界で一番憎んでいるわ」

「…………っ」

 2000年前、フローラによって白薔薇姫は母親を殺された。焼け野原となった大地の犠牲となった者の一つである。

「そして」

 二つの葉を魔法陣に向けて前に差し出した。まるで両肩にそっと手を添えて目線を合わせて語りかけるかのように。

「あなたと同じ感情も抱いているわ、シトロン」

「…………」

 懐かしい名前。まさかその名で呼ばれるとは予想外で、魔法陣の主は震えそうになっていた。

「そう…ですか………」

 何か言いたげではあったが、魔法陣の主はそれ以上何も問わず、魔法陣を消したのだった。


「………愛しているわ。誰よりもあなた達を」


 儚げに呟くも彼女は気高い。決して(こうべ)を垂れず、茎をしゃんと立たせ、純白の輝きを放ち続ける。

「……よろしかったのですが、その名で呼んで」

 白薔薇姫の隣に立つ赤い一輪薔薇ナイトが不安そうに声をかけた。

「ごめんなさい、ちょっと我慢出来なかったわ」

「……無理もございません」

「あら、珍しくお咎め無しなの? 今日は大雪でも降るのかしらね」

 その言葉が本当に起こるとは、白薔薇姫もナイトも夢にも思っていなかったのだった。

 



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