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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
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4−1 届かぬ想い

「はぁ……」

「……………」

 これで12回目。今朝もリリーナとココとヴィックの三人で厨房にて朝食を済ましていると、何度も何度もため息をつくのはココ。

 はは〜ん、初めての恋人に喜び反面戸惑いや疲れもあるのね、と苦笑するヴィック。

 仕事の疲れが取れていないのかしら、と体調を心配するリリーナ。

「あんた、上手くいってないの?」

 ついにヴィックが話を切り出す。

「ふぇっ!?」

 それだけでココは肩をビクンッと上がり、きょろきょろと目が泳いでいた。

「いえ、あの、その、勿体ないくらいに、想いの言葉は毎日いただいていてっ」

「あらぁ、いいじゃ〜ん♪ 何て何て?」

 恋バナを楽しむヴィックに顔を真っ赤に染めるココ、そしてきょとんと話に付いて行けていないリリーナ。


 ココの恋人であるアンティスは毎日欠かさずほんの僅かでも彼女と会う時間を作っていた。

『今日も愛する君の顔を一目見られて俺は幸せ者だ』

『愛してるよ、ココ』

『恋愛に緊張するところも君らしくて愛らしい』

 ココにかける彼の言葉は何もかもが恥ずかしさやときめきなど乙女心をわしゃわしゃに掻き回していくものばかり。

『今日こそ………君の唇に触れたい…………』


「だめですぅ〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 ダンッ!と机を叩いて立ち上がるココを見て、ヴィックが引きつりながら、

「わ、わかったわよ。そ、そんなに嫌なら無理して話さなくても大丈夫よ」

 頭が沸騰中のココを落ち着かせようとした。

「いえっ、す、すみませんっ、取り乱してしまいました……っ」

 さっきのはヴィックに対してではない。キスを求めるアンティスに対し、彼女は毎回断っているのだ。ダメと言葉で伝える時もあれば、全速力で逃げ出す時さえある。

 そして、アンティスに会う度にあの()を思い出してしまう。距離を置かれた寂しさも同時に湧き上がる。眼の前に想い人が居ても………。


「そうそうリリー、噂で聞いたわよ? あなた最近騎士もどき君と二人で居ることが多いんですって?」


 ヴィックの言葉にココの胸は急に締め付けられた。

「ええ、そうね」

 全く感情を出さずに淡々と答えるリリーナ。彼女としてはロズウェル邸の庭に植えた種の事もあり、ニックと会うのが以前よりも増しただけ。

「どういう繋がり?」

「彼に頼まれたの。植物を育てるのを手伝って欲しいと」

 あながち嘘ではない。

「ニックが……植物を………?」

 信じられない、という顔で見つめるココ。今にも泣きそうで風色の瞳を潤ませているが、リリーナは静かにライトグリーンの瞳を開いている。

「ええ。たまたま手に入った種を育てたいって相談をされたのよ」

「種って何の……」

「わからないわ。私も初めて見る種類だったから」

「どこに埋めたんですか」

「私の実家の庭だけど」

 ココの声色が段々と張り詰めた様子を帯びていた。ヴィックも不安そうに二人の様子を見ている。リリーナは相変わらずマイペースに淡々としているが、問題はココだ。

「どうして、どうしてわざわざご自分の家に…っ?」

「どうしてって……王城敷地内で新種の植物を育てるわけにはいかないわ。他の植物に影響が出るかどうかわからないわけだし」

 淡々としているが、リリーナも内心動揺していた。ココもリリーナと同じく植物と会話が出来る身。魔力の高い可能性のある植物程育てる場所を慎重に選ぶのは理解しているはず。なのに何故種植えの場所選びに否定的な態度をされるのかリリーナは全く理解が出来なかった。

「ご自分のご両親に紹介したんですかっ」

「両親の知り合いになら…」

 正確に言えば使用人達。だが、ヴィックにはロズウェル家の令嬢であることを伏せているため、使用人が居る家だとは言えない。

「リリーナさんの特別な庭に、ニックを招待したんですかっ!」

「ちょっと! ちょーっと! ココ!」

 語気を強めるココを見て、堪らずヴィックがココの肩を抑え、仲裁に入った。

「いったいどうしたのよ!? 別にアンティス団長と二人で出かけたわけじゃないんだし良いでしょ? ココの幼馴染みが誰と居ようと彼の自由のはずよ」

「……………っっ」

 唇をきゅっと閉じて奮わせ、今にも泣きそうなココ。

「ココ……………」

 心配そうに見つめ、リリーナはそっと彼女の名前を呼んだ。

「…………っご馳走様でした」

 絞り出したような声で言うとココは厨房から飛び出すように出て行ってしまった。

「…………」

 追いかけようかとリリーナは椅子から腰を浮かしたが、彼女に追い付いたところで何をすれば良いのかわからず、その場に残った。

「気にすることないわ。ずっと付かず離れず一緒だった幼馴染みが盗られた気分なんでしょ」

「別に盗るつもりは」

「わかってるわよ。リリーに変な下心が無いことぐらい。だけどココは冷静でいられなくなっているのよ」

「どうしたら誤解が解けるのかしら」

「今のあの子にはリリーの言葉はきっと何も届かない。少し時間を置いた方が良いと思うわよ」

「そう…………」

 リリーナが植物や家族以外と日常的に話すようになったのは春から。夏が過ぎ、秋になって出会う人の数も増えた。

 人間関係が拗れた時の対処法が全くわからない。

 ココが何に怒っているのかヴィックの解説が無ければ予想すら出来ない。

 何に対して謝ればいいのか。

 どう謝ればいいのか。

 仲直りにはごめんなさいが付き物と聞くけれど、今回も…?


 ――――植物の心の方がわかりやすい。自分も人間なのに………。

 とリリーナは淋しげに俯くのだった。


 リリーナが気落ちしている姿を見てヴィックもふぅっと息を漏らし、

「出口の無いトンネルなんて無いわよ。光に届きたい意思が消えない限り」

 コップに牛乳を注ぎ、リリーナの前に置いて微笑む。

「ありがとう、ヴィー。あなたと1番最初に友達になれて本当に良かった」

 ほっとした様子でコップを両手に添えるリリーナを見て、ヴィックはニカッと歯を見せて笑った。

「ま、ワタシ、ココよりもどっちかと言うとアレスフレイム様を心配していて」

「アレスフレイム様を?」

 きょとんと首を傾げるリリーナを見てヴィックは苦笑を浮かべる。

「噂話が耳に入って発狂していなければ良いんだけど」


 


 

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