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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
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3 針の城

 どこまでも続く灰色の空。

 まるで青さを忘れ、上に浮かぶ灰色は雲なのかさえわからない。土は割れ、裂け、雑草も無い。乾いた大地の上を竜が飛び、他国から表向き輸入としてあるが恐喝した食料が細長い城に運び込まれる。

 細長く尖り、まるで針の城。

「あーあ、カルーロも居なくなっちゃったし、欲求不満」

 大きなソファーで寝転ぶ長髪の女。髪を耳に掛け、厚みのある唇が妙に色気がある。

「ねぇ、ラノ。そろそろロナールに行ってみない? 宝探しに」

 ラノと呼ばれた者は窓際に片膝を立てて座り、外を眺めながら生肉を素手で喰らっていた。手は真っ赤になり、口の周りも鮮血で染まっている。

「まだ行かない。邪魔が多過ぎる」

 長髪の女に目を向けず肉を貪りながら答えた。

 長髪の女はふぅとため息をつき、肩肘を立て、指で毛先をくるくると巻き付けている。

「あなたって本当に石橋を叩いて渡るタイプね。アンセクト国攻めで全員で討ち滅ぼせば良かったのに」

「向こうの戦力がわからない。ロナールとレジウムの国境に埋めた仕掛けも奴らは突破した」

「そうねぇ。強い上に賢い子が混じってはいそうね」

 すると長髪の女は上半身を起こして腕を上げて背中を伸ばし、

「ちょっと暇つぶしに行って来るわ」

 悪戯な笑みでラノに告げた。

「勝手な行動は慎め」

「ちょっと里帰りするだけよ。今はもぬけの殻だって聞いたし、手がかりを探してみるわ」

 立ち上がり、ゆらゆらとウェーブのかかった美しい髪が揺れる。

「あなたも欲しいでしょ? フローラの血肉が」

 ギンッ!!

 ラノは爪を伸ばし、肉をザクッと貫いた。興奮した様に目をギラつかせて血だらけの口元を手で拭う。それも血だらけの手で。

「ああ欲しいとも……! 完全な無敵の身体を作るために」

 長髪の女はクスッと微笑み、革のブーツをコツコツと鳴らしながら窓辺に立った。

「竜の鳴き声って素敵ね。迫力があるのにどこか孤独感が滲んでいて。太陽の陽も当たらず、草の一本も生えてないこの地が私は大好きよ」

 唄声のような美しい声、透明感のある肌、花のように瑞々しい唇。その者はまるで天女のように美しい。

「行って来るわね、ラノ。あなたも気が向いたら幻影で散歩にでも出かけたら?」


 不気味なくらい美しく歩くのは、ゲルー竜騎士四天王の最後の一人。黄金色の瞳と髪を煌めかせ、陽の無い針の城から光の速さで消えたのだった。




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