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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
164/198

2−3

「さぁ、まずは埋める場所を決めましょう」

 リリーナが庭を見渡し、どの場所が適切か見極めている。

「日陰よりも、日当たりの良いところが育つかしら」

 何せ見たこともない植物の種だ。知識ではなく直感で環境を整えていかなければならない。

「ユズ、花だったら私達の近くの方が良いかもしれないわ! 虫達も集まりやすいし」

 ツル性植物のサージが黄色の花を弾ませ、持ち前の明るさで意見を積極的に言う。

「慎重に選ばないと。この種も特に魔力が強い」

 植物たちもまた悩ましそうに茎などを傾けていた。


「強いからこそ正しく育つ。種の生命力を信じて欲しい」 


 リリーナにそう種を差し出したのはニックだった。

 リリーナは少し驚いた顔を一瞬したが、リリーナは決意を込めて頷き、ニックから種を受け取る。

「あなたが託されたのだから、きっと日当たりと風通しの良い場所を好むかもしれないわ」

 煉瓦で囲まれた花壇の方へ行き、リリーナはあまり密集しないように埋めようかと見下ろした。


 すると、ある事に気づく。

 リリーナでさえ見に覚えのない新芽が隠れるように生えていたのだった。濃い緑の葉にプラチナブロンドが混じった美しい芽が。


「この子は…………?」

 しゃがんでそっと手を新芽に添える。すると新芽はびくっとリリーナの手を避け、葉を隣に生えているリンドウに隠そうとした。

「彼女はマリア。鳥がどこかから種を運んできて、ここでずっと眠っていたんだ。目が覚めたのも最近だよ」

 ユズに紹介してもらい、リリーナは触れようとした手を引っ込める。

「マリア、勝手に触ろうとしてごめんなさい。私はリリーナターシャ・ロズウェル。庭師よ」

 すると、


 トクン…………………。


 ニックの手の平で小さく心臓が鳴る音が聞こえた。竜の残した種がマリアの新芽に共鳴しているのだろうか。

「……………ユズ、この種をマリアの近くに植えてもいいかしら」

 庭の主、ユズの木に確認をするリリーナ。ユズは慎重に考え込み、黙っている。

「ユズ、私はリリーナの意見に賛成よ! マリアはまだ植物として幼いけれど、きっと上手くいくと思うわ」

 賛同を声に出すのはサージ。他の植物達はユズの結論を緊張しながら待っていた。

「……………わかった。リリーナの直感を信じよう」

 そう言うとユズは一本の枝を下ろし、愛おしそうに葉でリリーナの頭を撫でる。妹を信頼する兄のように。

「ありがとう、ユズ。さあ、種を植えよ! まずはこの子達のために最高のベッドを用意しましょう」

 そう言うとリリーナは白いシャツの袖を捲り、素手で花壇の土に触れた。土を握って掘っては、空気が入るようにふんわりとばらばらに落としていく。

「名前は何て言うのかしらね。芽が出るのが楽しみだわ」

「リリーナの水があれば無事に育つさ」

 他の植物達も楽しそうにリリーナの様子を見守っていた。リリーナは慣れた手付きで土を素手で掘ると、あっという間に2つの凹みを用意した。

「とりあえず花壇に植えるけれど、とても大きくなりそうだったらすぐに植え替えに来るわ。ユズなら白薔薇姫にすぐに伝達出来るかしら?」

 白薔薇姫、その名を出した途端、何となく空気が一瞬緊迫した、ように思えた。

「ユズ………?」

「…………ああ、わかったよ」

 何となく笑顔を繕っていそうな声色にリリーナは不思議そうに彼を見上げた。だが、すぐにニックの方へ向き、

「さぁ、あなたがこの中に種を」

 庭師として瞳に強さを宿しながら彼に告げた。

「え、俺でいいの? ただ入れるだけ?」

「いいえ」

 リリーナはニックに近寄ると、種が乗った彼の手の平をふんわりと両手で包む。

「この種は特別。種類としての意味も、あなたに安らぎを覚えている意味でも。土を被さる前に言葉をかけてあげて。あなたの声かけが、何よりも素晴らしい栄養のはずだから」

「…………」

 そう言うとリリーナはそっと手を離した。ぎゅっと暖かく種を握るニック。丁重に指先で摘み、リリーナが用意した凹みに優しく入れ、軽く指先で押す。


「日を浴びる時が訪れるのを俺は待っているよ、二人共」


 ポワァッ………。

 ニックの言葉にほんわりと白い光を灯した種。

「ありがとう。では、土のベッドを被せていただきますね」

 リリーナはニックと種のやり取りに満足そうに微笑み、優しく土を被せていった。

「時々来て声をかけてあげて、ぜひ。ここに来るのに私の許可なんて要らないわ。家の者たちに伝えておくから」

「マジで勝手に来て大丈夫なのかよ」

「ええ。今日だって私の友達と土いじりと聞いて、私と同じくらいにあなたも究極の土いじり好きだと思われたはずよ」

 土いじりのこととなれば少し茶目っ気に微笑む彼女を見て、ニックは視線を反らしてぽりぽりと頭を掻き、

「まぁ、時間があった時にな」

 とぶっきらぼうに答えた。

 それを見てリリーナは、サボり魔騎士で名高いのに、とクスリと笑うのだった。

「さて、最後に水撒きね。ここに居るとあなたも濡ちゃうわよ」

「構わない。今日も日も出てるし」

 ニックに言われ、リリーナが空を仰げば雲一つ無い青空が広がっていた。快晴だ。

 リリーナは立ち上がり、庭の中心に立つ。そして両腕を横に広げ、

聖水(アスモス・)散開(スケドフィリック)!」

 空に唄うように魔法を唱えた。忽ち彼女の手から聖水の粒が放たれ、植物達は歓喜に揺れる。

 そして彼は植えた場所に微笑みながら静かに見下ろす。

 その庭はまるで雲のない天気に雨が降り注がれる太陽が燦々と照る真夏のようだった。




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