表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第六章 リリーナと庭
159/198

1−1 恋か友情か

「カブ、おはようございます」

 木枯らしが吹き始め、王城庭師リリーナは白いシャツの袖を普段捲ることが少なくなってきた。赤や茶、黄に染まった落ち葉が敷地内を彩る。リリーナは今日も朝早くに裏庭に入ると最敬礼をした。雲の無い空でも、早朝だから薄暗い。

「どうかしら。今日も巻いたままにしておきましょうか」

 白銀の切り株カブの前にリリーナは膝を付き、藁囲みをそっと撫でた。

「うむ……」

 相変わらず言葉数が少ない。リリーナは静かに立ち上がり、

「水撒き致しますね」

 今度は貯水槽に向かった。横に置いてあるのはライトグリーンのジョーロ。彼女の髪と同じ色だ。そして瞳も……。


 先日、彼女は夢を見た。


 無機質な空間にぽつんと立ち、数本の茨に縛られた白い扉をぼんやりと眺めている。


 ―――――茨、少なくなったわね。


「リリーナ?」

 植物達に声をかけられ、リリーナはハッと我に返った。

「疲れてる?」

「大丈夫?」

 肌寒くなった風に揺られながら優しく声をかけてくれる植物達。彼等の言葉を聞けばリリーナも心がほっこりと温まる。

「ありがとう。少し考え事をしていただけよ」

 裏庭の植物達に安心感を与えるように柔らかな口調で返事をするリリーナ。

 ジョーロの首をそっと撫でる。彼女はこれを贈ってくれた相手のことを考えていた。

 アレスフレイムのことを。

 くすぐったくなるような、それでいて欲深さもある未知な感情が芽生えようとした時、彼女の中に棲む2000年前の魔女、フローラに止められた感覚があった。


 フローラと共にこれからも生きていけるのだろうか。


 数色に紅葉しかける葉のように、彼女の瞳はライトグリーンとそしてローズピンクが今日も入り混じる。




「ええええええええええ!?!?!? おめでとう!!!!」

 その日の朝食は、いつにも増してヴィックが野太い声を張り上げた。厨房の食器が彼の声の振動で僅かに揺れる程。リリーナもいつも無表情に近いが目を見開いて口を半開きにして驚いていた。ヴィックの大声が原因ではなく、その前のココの報告に。

「愛しのアンティス様とお付き合い始めるなんて、良かったじゃない!!!!」

「は、はい………」

 ずっと騎士団団長のアンティスに片想いをしていたココ。ついに実ったという話だがココ本人は浮かない顔をしている。

「あら、あんた嬉しくないの? ずっと好きだったんでしょ、団長様のこと」

「そうですけど…」

 はっきりしないココにヴィックがぐいぐいと突っ込む。

「まさか、やっぱり自分には不釣り合いだとか自信喪失しちゃったりとかしてないでしょうね!?」

「それもありますけど…」

「あんたのことだから団長から告ったんでしょ!? ちゃ〜んと団長はココのことを見初めたのよ! 団長の気持ちを信じなさい!」

「そうなんですけど……」

 全くはっきりしないココを相手にヴィックは混乱中。何故両想いになったというのに何故ココは幸せオーラ零なのか不思議でならなかった。

「何か他に不安なことがあるのかしら?」

「…………」

 コーヒーカップに手を添えながら静かな声色で聞くリリーナ。ココは黙って俯いてしまい、ヴィックも心配そうに見つめている。

「………ニックが……」

 ようやくココから何かを話すのかと思えばアンティスではない他の異性の名。ヴィックは思わず首を傾げてしまう。

「ニックって…あんたと同じ教会出身の子のこと?」

「……ニックが……もう俺に気安く声をかけるなって……」

 今にも泣きそうな顔をするココ。ヴィックが少し考えて言葉を選んだ。

「………彼なりの気遣いだと思うわよ。ココだって、もしアンティス様が副団長のエレン様と親しく話していたら、団長と副団長の関係だと知っていても良い気分にはならないでしょ? アンティス様とあんたの恋仲を壊さないように身を引いているのよ。ちょっと言葉選びが乱暴だけどね」

「…………」

 するとポロポロとココは大粒の涙をこぼし始めてしまったのだった。

「あらやだっ、ワタシの言い方キツかった? ごめんね」

「違うんです……ずっと一緒に居られると思ってたから……」

「え? ずっとって? アンティス様と結婚を夢見てたこと?」

 ココは黙って首を少し横に振った。

 言葉の意味を理解したヴィックとリリーナだが、どんな言葉を掛ければいいのか思わず躊躇ってしまう。

「ごちそうさまでした……」

 ほとんど朝食に手を付けずココは食器を片付けて仕事場へと去ってしまった。

「……大丈夫かしら」

「そうねぇ、あの子も何かと不器用だから」

「お昼までに持つかしら、お腹。彼女、力仕事するのに」

 そっちかよ、とヴィックはリリーナに苦笑。

 そしてヴィックは内心こう思った、二人共、恋の重症患者ね、と。

 



数ある作品の中からご覧いただきありがとうございます!


第六章の幕開けです。

ちょっと複雑な男女関係が交差しつつ、植物とフローラの関係性に迫る章になる予定です。

良かったら最後までご覧いただけると幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ