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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
158/198

8−5

「はいは〜い、みんな忘れ物はないね〜? じゃあ、ロナールに飛ぶヨ〜!」

 宴の翌朝、アンセクト国城内の広間にてアレスフレイム達は集まり、アレーニの魔法で一気にロナール国へ帰国した。

 どこまでも続いていそうな青空。

 木々は清々しく揺れて葉を鳴らし、虫達も葉から葉へと力強く跳ねる。

「相変わらず。自然が豊かだ」

 ロナールに到着すると、アレーニが鼻から空気を吸った。

「じゃ、やること多いからボクはすぐに帰るヨ」

「手間かけたな」

「ぜ〜んぜん♪ こちらこそ助かりましたヨ。じゃあね〜♪」

 戦争を終えた国の長とは思えない程飄々とし、アレーニはすぐに転移魔法で国へと帰ったのだった。


 帰国し、すぐにでも会いたい人がいる。


 青々とした秋晴れの空とは裏腹にアレスフレイム達はもどかしさで互いを見ていなかった。それぞれ心にあるのは一人の女性。

 だがアレスフレイムは歯を食いしばり、会いたい欲求を押し殺した。

「俺はこのまま執務を行う。皆、無事に帰って来れて良かった。しばらく休んでくれ。解散」

 アレスフレイムを合図をきっかけにセティー達は輪から離れた。ノインだけがアレスフレイムの側を離れない。

 ノインも本音はすぐに会いたい人がいる。

 だが王族の側近故にその想いも蓋をした。

「アレス!」

 アレスフレイムの気配を察した兄のマルスブルーが駆け寄った。彼の後ろには側近のオスカーもいる。

「おかえり! 怪我はない? 疲れたでしょ。良く無事で戻って来れたね! アンセクトの被害は無い? 向こうの魔導士達も皆無事?」

「全て滞り無く済んだ。喋ってる暇があったら執務の一つを終わらせるぞ」

 マルスブルーの質問攻めに一言で返し、アレスフレイムはさっさと城内に入ろうとする。

「あ、いいよ! 今日ぐらいゆっくり休んで!」

「あ? 今日の仕事が明日に延びるだけなら今日片付ける」

 するとマルスブルーがアレスフレイムの正面に回り、ガシッと肩を掴んだ。

「執務をやるのは僕等だけじゃない。オスカーやスティラや他の皆とも協力している。ははっ、実はスティラに叱られたんだ。アレスに頼り過ぎだって」

 あのどっちつかずだった令嬢が立派に王妃を務めているのかとアレスフレイムもノインも内心驚く。

「皆で協力し合っているから大丈夫だよ。だから安心して。それに、王族としてではなく、君個人が会いたい人がいるだろ?」

 柔和に微笑みながらマルスブルーは優しく肩をぽんぽんと叩く。行っておいでと言わんばかりに。

「ノインだってそうでしょ? ロズウェル嬢に会いたいんじゃない?」

「え」

 悪意なく爆弾を投下するマルスブルー。ノインはカロリーナターシャと恋仲になった事はアレスフレイムにさえも打ち明けていない。

「ロズウェル嬢? どういうことだ?」

「や、その」

「噂話で聞いたよ〜。小庭でこっそり会ってるんだって? ロズウェル家の次女の方と」

「えっと…」

「そう言えばいつの間に転移魔法を習得していたが、まさか彼女に会いたいためにか?」

 前髪で片目が隠れているノインは恥ずかしさや後ろめたさに顔色が悪くなっていく。不純な動機で魔法を習得出来たとは主人に言い辛い。

「良いんじゃないか。自分を成長出来る相手に出会えた事は」

 だが、そんな不安も優しさの灯火を灯るアレスフレイムに掻き消されていく。

「昔なら恋愛をくだらんと思っていたが、今はそうは思わない。人を想う気持ちは、生きようとする意志の源にもなる」

 マルスブルーにはスティラフィリーが、ノインにはカロリーナターシャが、そしてまだ片想いではあるがアレスフレイムにはリリーナが居る。喜びは倍となり、悲しみは分け合う大事な人が…。

「ほら、二人共今日は自由に過ごして! 国王命令だよ!」

 空のように青き髪を風に揺らしながら爽やかな笑顔でマルスブルーは送り出した。そして、転移魔法を使い、アレスフレイムとノインはそれぞれ想い人の元へと飛んだのだった。


 アレスフレイムが行き着いた場所は裏庭。リリーナと初めて出逢ったはじまりの場所。

 ライトグリーンのジョウロを抱えながら、転移魔法で姿を現す彼を出迎えた。

「おかえりなさいませ」

 ほぼ無表情だがどこか安堵したようにも見える彼女の表情。

「ただいま」

 彼は庭の土をゆっくりと踏みしめながら彼女に歩み寄る。そして、そっと片腕を上げるのだ。彼女の頬に手を添えるために。


 だが、彼女は不自然に目を逸らした。


「どうした」

「いえ………」

 ふと思い出してしまう。彼以外の男に唇を許してしまったことを。あれは特別な挨拶ではなく人命救助だと頭では理解しているが、心がまるで受け入れようとしない。


 リリーナは思った。


 いつから私はこんなにも貴方に貪欲になってしまったのだろう、と。


 貴方だけに特別な挨拶をされたい。

 貴方だけに触れられたい。

 貴方だけに抱き締められたい。

 貴方だけの温もりを知りたい。


「リリーナ」

 彼に腰を抱き寄せられ、大きな手で頬に添えられ、ほんの僅かに彼の親指が彼女の唇に触れる。

 それだけで蕩けてしまいそうだった。


 貴方だけに、身も心も委ねたい………この感情を何と呼ぶべきか…………。


『ユルサナイ』


 ドクンッッ!!!!!!!

 美しく怖い、怖いくらいに美しい声色。

 まるで声に心臓を握り潰されたかのような感覚。リリーナは胸が苦しくなり、胸元を手で抑え、その場にしゃがみ込んでしまった。

「リリーナ!」

 アレスフレイムも膝を付いて彼女を支えた。しかし、彼女は震えた手で彼を軽く突き放した。

「リリーナ………?」


『いいかいリリーナ、恋をしてはいけないよ』


 幼い頃からの植物達からの言葉が彼女の脳内で反芻する。フローラと共に生きることを決めた以上、きっとこれだけは避けられないのだろう。フローラは恋により、大地を崩壊させてしまったのだから。

「…………申し訳ございません。もう、貴方と特別な挨拶は出来ません………」

 空は青いというのにぽつんと雨粒が落ちてきた。雨粒が順々に落ちて葉を揺らしたかと思えば、一気に視界を遮る程の大雨が降り落ちる。大きな音を立てて。

 植物達はけらけらと無邪気に笑う。蟲や鳥は慌てながら逃げ場に急ぐ。


 雨がもたらすのは恵みか、それとも涙か。




数ある作品の中からご覧下さりありがとうございます!

これにて第五章が終わりです。

もはや主人公誰だよって感じですが、後半はがっつりリリーナ視点になります。

作者大好きなアレーニさんもしばらく出ません。悲しみ。(何度もリリーナとくっつけてしまいたいと葛藤しました)

皆さまはフローラの亡骸の場所はどこだと思いますか?

第六章はフローラ及び太陽の丘の民についてのスポットと、ココ&アンティス&シスコンについて描きたいと思います。


6月20日現在ブックマーク50名の方々、本当にありがとうございます!嬉しいです。不定期連載なのに登録していただけて有り難い限りです。


ご感想等をいただけたら本当に嬉しいです。お気軽に書いていただけると助かります。


では、また第六章もよろしくお願い致します。

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