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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
151/198

7−4

 岸壁の窪みにある洞穴にセティーが飛びながら入ると、風ノ魔鎖で繋がれたニックは引っ張られ、雑に地面に振り落とされた。

「ってぇ!」

「簡易的だが応急処置をしておく。やらないよりかはマシだろ」

「だったらもっと優しく降ろせ!」

「あ?」

 バチィイン!!! セティーが容赦なく痛々しい切り傷のあるニックの肩に平手打ちをした。

「何しやがるんだよ!?」

「痛くも痒くもないだろ。よくわからないが、防御魔法のようだし、コレ」

「あ」

 ライトグリーンとローズピンクの光の鎧。ニックは自身を見てまだ魔法にかけられていることに気が付いた。

「防御は出来るが回復効果は無さそうだな」

 するとセティーが白いマントを脱いでビリビリと破り始めた。

「何しているんだ!?」

「包帯代わりだ、クソ野生児」

 手先が器用なセティーは手早く特に傷口が酷い箇所にマントの切れ端を巻いていく。

「ったく、一人で突っ走りやがって」

「…………セティー、さっき、とにかくアイツを殺したくなったんだ。冷静さなんて全部吹き飛ばすくらいの殺意の渦が俺の中で湧き上がった」

「………………」

 彼は傷口を巻きながら黙ってニックの呟きに耳を傾けた。記憶失う前の自我が目覚めたのではないか………そう予測をするも決して言葉には出さない。記憶を取り戻した方が良いとも思うが、彼には残酷な過去があるのではないか…そう苦慮したからだ。

「ココが呼びかけてくれて返って来れた」

 ぎゅっと風色の首飾りを掴む。ニックはしばらくじっと外を見つめた。荒々しい波の音、風、人間の叫び声、そして竜の鳴き声が聞こえる。

「俺が、あの竜をどうにかしないといけない」

「どうにかって」

 首飾りを掴んでいた手が鞭の持ち手に移る。

「葬らないといけない。あれは竜ではない生き物になっちまった。それに」

 そして彼はゆっくりと立ち上がった。

「俺に殺されたいと願っていた」

 後から追いかけたカジュの葉がしゅるりとニックの前に浮かぶ。暖かくぽわぁと光り、巻かれたマントの切れ端の下で傷口も光りながら癒やされていった。

「グゥウウウ!」

 洞窟の入り口では先程ニックが乗っていた一匹の竜が飛びながら待ち構えていた。

「待ってくれていたのか、悪いな。セティー、行こう」

「お前……………」

 当たり前のように葉に治癒をしてもらい、竜にも服従される堂々たる彼の姿にセティーは驚きを隠せずにいたが、

「今度こそ自我を失うなよ、野生児」

 彼を今まで同様“ニック”として見る様努めたのだった。

 さっきはニックをリードの様に繋いで引っ張っていたセティーだったが、大地の王に導かれるようにして彼の横を歩んで行く。




「クソッ!? 属性に統一もねぇし、どうなっていやがるんだ!?」

 一方アレスフレイム達が戦う北の地。カルーロの土属性の魔法と竜が放つ光の火の球が不規則に現れる魔法陣から放たれる魔法によって打ち砕かれていく。

岩石落下(ストーンフォール)ッ!!」

 ならばとカルーロは大量の岩を頭上に召喚。謎の魔法陣が出没するのは1個だけ、数が多ければ魔法陣で全てを防ぐのは無理だと考えたのだ。

 だが、

旋風葉舞(ウインドフィロロンド)! 転送(ディーヴィ)神術(ソーマタージー)!」

 国境を越えたロナールの地で懸命に魔法を送り続けるリリーナ。普段なら庭の落ち葉をまとめるための風属性魔法、今回は魔力を強くし、重みのある岩をも散らばろうとするのを風を舞わせてひとつにまとめた。

「なっ!?」

 どんな攻撃をしても得たいの知れない何かに掻き消されてしまう。カルーロは歯を食いしばり、爪を立てて龍の背中を掻きむしり、

「死ねぇえええええ!!!」

 竜に息吹と光の火の球を同時に出させた。

光ノ魔盾(フォスアイギス)

 レジウムの女が円盤の輝く盾を出し、光の火の球が飲み込まれるように消えていく。

 問題は光の息吹。間もなくアレスフレイムたちが飲み込まれようとした。リリーナによる鎧を纏っているが果たして完全に防げるのだろうか。

 その時、


聖水(アスモス)!」


 遠い異国からのリリーナの呼び声にも応えたのはアレスフレイムの腰に付けられた水筒の中身。リリーナが滾々と永遠に湧き出るように魔法をかけた聖水だ。

 片手を前に出し、ぐっと握り締める所作をするリリーナ。

 以前、ニックが爆破の渦を自身の魔力で丸めて収めたのを頭の中で思い出し、イメージを形にしようとしたのだ。ニックなら余裕の笑みさえ浮かべていたがリリーナは片腕をバキバキに硬直させながらやっとの力で封じ込もうとする。

 アレスフレイムの水筒では聖水が勢い良く湧き上がり、水筒から飛び出して渦を巻きながら竜の息吹を取り囲んだ。

「消えて……………っ!」

 そしてビチャンと聖水で抑え込むと、息吹は消えてそこから聖水だけが降り落ちたのだった。

「なっ……なっ………っ!?」

 余りにも予想外過ぎる反撃にカルーロは冷静さを失いつつあり、

「そいつをぶち壊してやる!!」

 爪をギンッ! と伸ばしてアレスフレイムに襲いかかろうと竜を急降下させていく。

蜘蛛ノ(アレニ・)神糸(テオスフィル)!」

 竜の右羽を捕らえるのはアレーニ。蜘蛛の糸を操り、羽の動きを封じ込めた。

「ならば左羽は!」

 魔法出そうと構えるのはノイン。だが、

「させるかよ!」

 竜の口をカルーロはノインに向けさせた。

「ノイン!!!」

 アレスフレイムが彼の危機に叫んだ。無惨にも一瞬で竜の息吹は放たれる。

 が、

転移魔法(テレポート)!」

 と長年使えなかった瞬間移動の魔法で間一髪で躱した。彼が乗っていたヤンマも目にも止まらない速さで飛び、移動先のノインをも見事に背中に乗せたのだ。

水ノ魔鎖(アクア・チェーン)!」

 そして竜の左羽を抑えたのはノイン。二人が竜を捉えたことを確認すると、

光ノ強化(フォスリーインフォー)

 両手を広げ、アレーニとノインに強化魔法で力をさらに湧き上がらせるレジウムの女。

拘束氷漬(アイスフェッセルン)!!」

 ビキビキと音を放ちながらカルーロの両手首を氷で固めるアンティス。


 まるですぐ後ろにリリーナがいるかのような感覚。アレスフレイムは勇ましく剣をカルーロに向けた。

「大地に脅威を与える者よ!」

「私は戦う。たとえ地の果てでも」

「今ここに貫かれよ!」

「一人じゃない。手を取り合い守り抜く」

 リリーナはそっと瞳を閉じた。


 ―――――アレスフレイム様は私を信じてる。大地を共に守る者として、矛先に私の力が加わることを…!


「「聖水・(アスモス・)炎ノ魔剣(フレイムソード)!!」」


 同時に二人の声が重なる。螺旋状に剣に巻く聖水、そして炎。

 火と接しても蒸発などしない命の聖水。

 水に被さられても鎮火などしない魂の炎。

 二人の平和な大地を願う心が剣に奇跡をもたらした。

 アレスフレイムはヤンマを急上昇させ、

「大地の脅威よ、永遠に去れ!!!」

 飛び降り、剣を地に向け落下の勢いに全力で委ね、カルーロそして竜を突き刺したのだった。


 


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