7−1 国を越えて、時を越えて
アンセクト国の北、アレスフレイムやアレーニ達はゲルー四天王の一人の登場を草原に立って身構えた。
「我が名はゲルー竜騎士四天王、カルーロ! アンセクト国を滅ぼす者なり!」
白と橙の縞模様の竜。その上に灰色の髪色のスキンヘッドの長身の男が仁王立ちしていた。
竜の顔は白の宝石と鎧が被されている。
「何だ、あの装備は…!?」
アレスフレイムが警戒していると、
「声が聞こえない。恐らく支配されているわ」
レジウムの女が静かに答えた。
「さあ! 口を開け! 全てを焼き尽くせ!!」
男に片足で力強く竜を踏みつけられ、口を大きく開く竜。口からは眩い光が集まり、
「マズイ!」
ドゴォオオオオオオ!!!!!
強烈な光の撃砲を放った。
間一髪で直前にアレーニが巨大な防御魔法を張り、アレスフレイムたちは無事だったが、草や土が振動で掘り返されてしまっている。
「今のは光属性…っ!?」
レジウムの女が信じられないと声に動揺が表れ、一同は冷や汗を流しながら竜を見上げた。
「太陽の丘の民の血肉から得た力なり! アレーニとそこの女! お前等も竜の餌となれ!」
大きな笑い声を上げる四天王カルーロ。
「太陽の丘の民を……喰ったのか…っ!?」
非道なゲルーのやり方にアレスフレイムは怒りで手を握り締める。
アレーニもまた、中性的な美しい微笑を浮かべてはいるが、沸々と魔力を怒りで燃やしていた。
「品の無い食い意地ダネ。ボクが食生活を改善させてあげるヨ」
アレーニがヤンマに乗り、攻撃のタイミングを窺いながら飛んでいると、
「大地震撼!!」
カルーロが魔法を唱え、鋭利な土の針が地面から次々に噴出し、ヤンマに乗るアレーニたちに襲いかかった。流石四天王を名乗るだけあって威力も強く、噴出する土の針の数も多い。
が、カルーロは頭上に竜を羽ばたかせ、上から光の撃砲を打放った。
「魔法円盾!!」
アレスフレイムとノインが防御魔法を使うが、仲間がヤンマに飛びながら散らばっているために自身だけを守るしか出来ない。
「氷覆広範!!」
アンティスが地面に向かい、草原一帯を硬い氷で覆い尽くした。カルーロが新たに土の針を起こそうとするも、氷に覆われた土は硬く身動きが取れずにいる。
「クソッ、上級魔法の氷使いがいやがるのか。地味に邪魔だな」
その時、カルーロが竜から飛び降りた。
「!?」
予想外の行動に思わず誰もが視線を向けるだけで何も手出しをせずにいると、
「岩ノ乱弾!」
カルーロは落ちながら手を向けた先はアンティス。無数の岩の弾丸が放たれた。アンティスの心臓を目掛けて。
「しまった!」
アレーニが慌てて指をアンティスに向けて魔法円を描こうとしたが、頭上から光の砲撃が竜の口から何発も放たれ、咄嗟に避けた。
「アンティス!!!」
四天王の攻撃は優れ、岩の弾丸は綺麗に命中された。
彼の心臓へと。
シャァアアアアアッッッッッ!!!!!
血が散ったのではない。アンティスの胸元からは白き光が放たれ、葉色の風が岩の弾丸を跳ね返した。
―――――盾となることを誓いましょう。
太陽の丘を守りし森の植物が盾となり、アンティスの心臓を守る。胸元の光の正体はココからもらったハンカチ。カラムシとシロタエギクが包み込むようにしてアンティスを守り抜いたのだった。
「これは………!?」
アンティス自身も何が起きているのかわからない。胸元を見ればハンカチが光っている。
彼女が守ってくれたのか…………。
小さな身体でせっせとひたむきに掃除をし、空を見上げては微笑む彼女。アンティスはココを想いながらぎゅっと胸元を握り、反撃の決意を燃やした。
「氷柱流星!」
氷の長槍を振りかざして氷柱を大量に落下させ、カルーロを狙う。が、縞模様の竜が一瞬の速さで飛び、彼を背中で受け止め、アンティスの攻撃を尻尾で容易く払ったのだった。そしてさらに竜は強く羽ばたかせると、光の火の玉を何個も作り、アンティス達を目掛けて飛ばしていく。
「魔法円盾!!」
各々が防御魔法で自己防衛。だが、竜だけでなく竜騎士のカルーロも攻撃し、アレスフレイム達は反撃するタイミングも掴めず、ただ魔力が消耗していく。
「クッ……!」
一か八か。アレスフレイムは片手で腰に付けてある水筒の蓋を緩めた。リリーナに呪いをかけられた聖水が湧き続ける水筒を。
ノインは主であるアレスフレイムの手の動きを見逃さず、彼の意図を理解した。あまりにも無茶なことをしようとしているが、主の賭けに協力しようとする。
以前ならノインは自身を犠牲にしてでも彼を孤高に守ろうとしただろう。だが今は違う。死ぬわけにはいかない、愛する人と再び生きて会うために。
生き抜こうとする欲が力となる。
『出来たら良いなと思ったのを形にしただけです』
魔法の知識が皆無なのに幾つものオリジナル魔法を操るリリーナが以前言っていた言葉。
一瞬でもいい、竜騎士と竜の動きを止めたい!
「魔鎖ノ呪縛!!」
ヤンマに乗って飛びながらノインが両手を前にかざして魔法を唱えると、二本の水ノ魔鎖が回転しながらカルーロの上半身と竜の羽を縛り上げていく。
「カジュ!!」
「あいよ!」
ノインが友の葉の名前を呼べば、男の手の大きさ程のカジュの葉がノインとアレスフレイムの胸元からそれぞれ現れ、
「葉ノ加護!」
緑の光がノインとアレスフレイムを包み込んだ。
すぐに竜が口を開けようとした。
アレスフレイムは当にその竜の口の前にヤンマを飛ばした。
「アレスフレイム様!!!」
全く意図が読めないアンティスが叫ぶようにして声を上げる。
彼は蓋を外した。
ゲルー国から意思を奪われた竜を救いたい一心で。
そして、大地を守るために。
「いけぇえええええ!!!!」
全力で水筒の口を前に突き出し、聖水を竜の口に放り込んだのだ。
「グッッッ……ゥゥゥ……ッッッ!!!」
聖水が口に入ると、竜は苦しそうに唸り声を上げた。
羽を藻掻き、ノインの鎖を力強く解くと、また羽から何発も光の炎の球を飛ばしていった。上に乗るカルーロが敢えて光の炎に自身を当て、鎖を打ち消していく。
「何を飲ませやがった!?」
カルーロは怒り、土魔法で岩や砂をアレスフレイムたちに向けたが、ヤンマの素早さには敵わなく命中しない。
「………………殺してと言ってる」
静かに呟いたのはレジウムの女。
「このカラダを生かしては大地に災いが起きる……殺してくれ……」
レジウムの女が竜の言葉をアレスフレイム達に伝えると、「グゥオオオオオオオオ!!!!!」と竜は叫んだ。
そして、先程よりも桁違いに威力も速さもある光の火の球を幾つも幾つも解き放ち、アレスフレイム達を襲った。
勝てないかもしれない、彼等が僅かながら死を覚悟するのだった。




