6−2
「グッ……ッ!」
「シャド……!?」
手始めに仕えていたハニビの命を奪おうとしたが、呆気なく失敗し、シャドは目をひん剥き、歯をギリギリと軋らせていた。
欲望に堕ちた顔は正に彼の前世の強欲な国王と瓜二つ。
だが、今回は前世の人格では無い。
シャドだ。今を生きる彼の本性である。
「落としてもいいか」
鞭でギリギリと彼の手首を引っ張りながらニックが淡々とマリクに聞く。
「構いません」
にこやかに放った返事を聞くと即座にニックが鞭を振り上げてシャドを放り上げ、海へと投げ飛ばした。
「うぁああぁあああ!!!!」
シャドは叫び声を上げながら落下していくも、目にも止まらない速さの影に救われた。竜だ。ゲルー国の竜騎士が落下するシャドを自身の竜に乗せ、上空していく。
「チッ!」
ニックは舌打ちし、見上げた。竜は5匹。その背中に1名ずつの竜騎士、そしてシャドが乗っていた。
竜の首に何やら宝石が埋め込まれた首輪が付けられている。
各竜に付けられた首輪の宝石の色は、赤・青・茶・水色・黄色、と竜によって異なっていた。
「魔力を感じますね、首のアレ」
マリクが目を細めて竜を見つめる傍ら、バチィィィンッ!! と鞭を地面に強く打ち鳴らすのはニック。
「やめろ! お前達の命を落とす気はない!」
だが、竜たちは「グゥゥゥゥ」と唸り、竜騎士たちは一斉に笑い出した。
「殺せないのに来たのかよ!」
「少人数な上にこんなへっぽこが混じってたら、命を落とすのはそっちだろう!」
ニックは竜騎士たちの嘲笑を無視するかのようにもう一度鞭を打ち鳴らした。が、竜たちは敵意を剥き出しにしたままだ。
「あの首のヤツに操られている」
人間が竜の意志を乗っ取る卑劣な行為にニックは鞭を握り締める力が増してくる。
「この場所を予測したのは褒めてやろう! だが、すぐに海のクズになるがな!」
竜が口を開き、各属性の魔力の息を吐き出そうとした。咄嗟にマリクが一歩前に出て、
「魔法円盾!」
即座に防御魔法を唱え、8匹の竜の強烈な息吹を防いだ。息吹が収まると彼はすぐに
「水ノ波導!」
躊躇うこと無く反撃の魔法を唱え、空中に何筋もの水の撃破が放たれ竜へと襲いかかろうとした。
が、その筋は全て別方向に突如曲がっていく。
マリクの意志を無視し、水魔法は青の宝石の首輪の竜にまるで吸い込まれのだ。竜にダメージは無い。
「ふははははっっ!! 残念ですね、マリクさん! 魔法は効かないんですよ。ゲルー国と僕が作り出した最強の鎧ですから!!」
勝ち誇りながらシャドがマリクを見下ろして笑う。
「クッ…魔法が使えないのは厄介ですね」
あのマリクの顔から余裕が消えていった。常ににこやかな彼の顔は、ついに目が釣り上がる。
「魔法を使わなければいいだけだ」
戦いの場では雷に変えた鞭も、素の状態で握り締め、一歩前に踏み出すニック。
「特別な鎧があるのは竜だけの様子ですしね」
魔法で瞬間移動をすると竜騎士の背後に現れ、剣を引き抜いて奪い斬りつけらるセティー。
ニックは断崖絶壁から飛び降り、
「なっっ!?!?」
マリクやハニビは目も口も開いて驚愕をしたが、
ビュゥウウウウウウウウウッッッ!!!
イルカの群れがニックの真下に構え、頭を出して口を上に向けると一斉に水を吹き出した。水の勢いにニックは乗り、宙に浮くと鞭を操り、竜に巻かれた首輪の宝石を強く叩いたが僅かにひびが入った。
「魔法だけに頼って育った訳じゃないですからね」
「自分の手で守り抜く」
「幼い頃から訓練されてきたんだからな!!」
セティーはシュンシュンと目にも止まらぬ速さで瞬間移動を繰り返して竜騎士を斬り、マリクも隙を見ては傷ついた竜騎士を首都の牢獄へと転送をしていく。
「ちょこまかと! 焼き払え!」
竜たちがニック等に息吹を燃やすが、彼等は躱していく。セティーは風に乗り、ニックは海からはイルカの噴水を足場とし空からは大型の鳥の脚を掴んで飛び回った。
だが、ある一筋の攻撃がニックたちではない別の方へ向けられた。ハニビだ。ニックたちばかり狙っていると油断をさせ、不意に敵の魔法が放たれる。
「ハニビ様!?」
マリクが咄嗟に護ろうとしたが、
「馬鹿にするんじゃないわよ!!」
彼女の背後から無数の槍が現れ、次から次へと放たれていく。黄色と黒の縞模様と槍。彼女の沸々とした怒りを象徴するかのように何本も何本も放たれて刺すように攻撃を相殺。彼女に向けられた攻撃をした主は、またしてもシャドだったのだ。
「この私を良くも騙したわね! 不敬罪として、私がこの場で貴方を死刑執行するわ!」
側近に裏切られ悲観するかと思えば全くその様子も無く殺意を抱くハニビの勇ましさに、誰もが彼女を「あの国王の妹だな」と強く思うのだった。
「アンセクト国の王族として、全ての敵を射落とすわ! 貴方に奪われていいものなんて何もないから!」
彼女の心の決意に天から陽光が差し込む。
ハニビの瞳が黄金色に輝きを放ち、彼女は無数の槍の中から一つ握りとると、それが瞬く間に槍が伸びて大槍となり刃先に鋭さを増した。
その時、国土の方から飛んで来たのは大量の援軍。
彼女が国を守る真の女王と成長をしたのを喜ぶかのように、羽音が拍手にさえも聞こえてくる。
「目覚めたわね」
「太陽の力」
「女王の力」
援軍は雌の蜂たち。その中に一際美しく体格が大きな蜂が一匹飛び、ハニビの背中をそっと抱き締めた。
女王蜂だ。
「飛びましょう、マイプリンセス」
ハニビは大槍の先をかつての側近に向けた。
「行くわよ、マイクイーン!」




