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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
143/198

5−3

 ロナール国にて。リリーナは庭師の仕事を淡々とこなしていく。だが、ココやエレン、マルスブルー、スティラフィリーは落ち着きが無かった。仕事中も考え事をしたり、アンセクト国へ応戦に行った者たちの安否が気になって仕方がない。

 リリーナも淡々としてはいるが、内心もどかしかった。

「何か私にも出来るかしら……」

 自身の手の平を見つめる。2000年前に生きた魔女フローラの力を借りた魔力ではあるが、遠い地から役に立てることはないだろうか。

「…………」

 植物は人間や竜を殺せない。殺す力はあるが、命を奪えば植物たちが神と崇める存在を穢すことになるらしい。となれば、戦場で植物たちが彼等に手を貸すことなどしないだろう。自分たちが焼かれぬ様守ることで精一杯になるのかもしれない。

 尊い命が消えないことを、リリーナは空を見上げて祈るばかりだった。




 彼もまた大きな窓から空を眺めていた。

 アンセクト国の空はロナールよりも少しばかり霞んでいるようにも見えた。

 自国の空が青々としているのは当たり前だと気にもとめていなかったがこんなにも美しいとは、と切なさを抱いていたのはアレスフレイム。

「お待たせ〜♪」

 何ともこれからデートにでも行くような登場の仕方をしたのはアレーニ。巨大化した蜂から降りると、蜂を元の大きさに戻し、小さな箱に入れた。セティーもふわりと飛んでニックの横に着地。

「では、陛下と皆様はこちらへ。出来る限りお近くにまとまって下さい」

 魔道士に促され、アレスフレイムたちは彼等の前に集まった。

 そしてアレスフレイムはベルトに引っ掛けてある水筒を軽く手でポンと触る。リリーナを愛おしく思い返すように。

「必ず生きて帰る」

 ―――――君の元へ。

 小さな呟きだが、大きな誓い。

 アレスフレイム、ノイン、アンティス、アレーニ、そしてレジウムから来た女性…皆、揺るぎない決意を瞳に宿し、北へと向かおうとした。

「転送神術!!」

 アンセクト国の魔道士たちが唱え、彼等は北の戦場へと発ったのだった。

 

「行きましたね」

 自国の王が行くのを見つめたのはマリク。

「ええ、お兄様なら竜騎士なんてすぐに片付けるわ!」

 強気な雰囲気を崩さないのはハニビ。

「セティー、どうしたんだ、それ」

 ニックがセティーの指に嵌まった指輪を見て聞いた。セティーは少しだけ考え、

「アレーニ国王からいただいたんだ」

 指輪を大事そうに触れた。ほんのりと頬を染めながら。敢えて指輪の特性を隠すために。

「…………マジか」

 何を馬鹿な想像をしているんだ、この野生児! とセティーはニックに反論をしたいがぐっと堪えた。

「おやおや、良いものを頂きましたね。では、僕たちも早目に出向きましょうか」

「えっ!? まさか魔法が使えないコイツも連れて行くの!?」

 にこやかにニックたちを引率しようとしたマリクだが、ハニビに止められた。

「僕はそのつもりですが?」

 不機嫌なハニビにも全く揺らがされず、常にマリクは柔らかな表情を向ける。

「それは流石に危険過ぎでは…」

 ハニビの側近のシャドもマリクに反対をした。

「う〜ん」

 するとマリクはニックの正面に立ち、ニックの首辺りをじっと見つめる。彼のシャツの下に隠れている風色の宝石のネックレスを見つめるかのように。

「姫様、むしろ彼がいなかったら僕たちが死ぬかもしれませんよ?」

「はぁ!?」

 マリクが余りにもにこやかにさらっと言うため、ハニビもシャドも言葉に信憑性を感じられない。

「アレーニ陛下も少人数で激戦地に差し出すなんて鬼だなと思っていたのですが、流石陛下ですね。編成に手腕を感じます。姫様も魔力がお強いのにまだまだですね」

 言い方は厭味ったらしくないのに、ハニビの感情を逆撫でるには効果抜群。

「何よ何よ!! 私を馬鹿にするならお兄様に給料下げさせてやるんだから!」

「おお怖い怖い。そうしたら他国へ転職しましょうかね」

 ムキーッと顔を赤くして怒るハニビに対し、マリクは子どもの遊びに付き合うかのようににこにこと微笑んでいる。これから戦場へ向かうとは思えない程緊張感がまるで感じられない。

「アンセクト国の奴等ってクセ強くないか…?」

「奇遇だな、同感だ」

 ニックとセティーがやや呆れ気味で眺めていた。二人の視線にマリクが気付き、

「ではでは、お戯れはこれくらいにして、行きましょうか」

 先程アレスフレイムたちが魔道士たちに魔法で送られた場所へと歩み始めた。

「ご準備はよろしいですか? 厳しい戦いになると思いますよ」

 先頭を歩きながらマリクがにこやかに振り返って忠告。ニックたちに迷いなど無かった。

「ご忠告有難うございます。私は風、前へと吹き抜けるだけ」

「怖くはない。守り抜くだけだ」

 逞しい二人の姿にマリクは柔和に微笑んだ。

「では行きましょう。僕の魔法で皆さんをご一緒にお連れすることも出来ますが、少しでも省エネにしますね。安心して我が国の魔道士たちの魔力に乗って飛んで下さい」

 ニック、セティー、ハニビ、シャド、そしてマリクが魔道士たちの前に立つ。

 魔道士たちが転送神術を唱え、彼等も戦場へと発った。

 アンセクト国の南へと。




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