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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
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4−1 作戦

「あら」

 その日の朝、裏庭の貯水槽の縁に赤トンボが停まっていた。

「ここで卵を産まなければいいのだけれど…」

 リリーナが心配そうに見つめると、

「ボクたちから虫に伝えておくよ!」

 と側に生えている雑草たちが名乗り出てくれた。

「ありがとう、お願いするわ」

 リリーナはお礼を言い、作りかけの藁囲みを持ち、そっとカブに巻き付けた。

「丁度半分ぐらいね」

 採寸を終えると、手で木肌を撫でた。


 また少し、荒れた気がする………。


 リリーナは難しそうな顔をすると一礼し、裏庭を出たのだった。




「ではこれより、アンセクト国への応戦に関する作戦会議を行う」

 長い机が部屋を占める会議室して、アレスフレイムが議題を出した。

 出席しているのはアレスフレイム、ノイン、マルスブルー、オスカー、エドガー、アンティス、エレン、そしてセティー、以上8名だ。

「思った以上にゲルーは簡単に我が国にも侵入が出来る。万が一アンセクトと同時にロナールを攻められたことを想定し、戦力を二分化したい」

 アレスフレイムの提案に誰もが緊張しながら受け止めた。

「セティー」

「何でしょうか」

「あの身を隠した者たちとは接触出来るのか? 無理に紹介しろとは言わない。万一の時にロナールを共に守ってくれるのか教えろ」

「…………」

 出来ればニックとココには戦争に巻き込ませたくはない。そう願うセティーではあったが、アレスフレイムには大きな借りがある手前、抵抗をするのも躊躇った。

「私一人で守り切れないと悟った際に、力を貸してくれるかと思います」

「わかった。ではセティーはロナールに残れ」

 アレスフレイムに命令され、セティーは仕方なく頷く。

「騎士団は私かエレンのどちらかだけアンセクトに行った方が無難かと思われます」

 提案をしたのは騎士団団長のアンティス。

「竜騎士が攻めてきたら騎士団なんて戦力外です。どっちもアンセクトに行ってくれて構いませんよ」

「セティー殿は風の如く気ままだ。見張り役が居ては困るのか?」

 バチバチと冷戦を始めるセティーとアンティス。だがアレスフレイムはそんなことは無視し作戦を考えた。

「アンティスは氷属性、エレンは土属性……か。どっちをアンセクトに向かわせたら戦力になるのか…」

「氷属性ダネ!」

 急にアレスフレイムの背後に現れたのはアンセクト国王、アレーニ。

「氷魔法は竜の弱点さ! ぜひアンセクトに助っ人に来てヨ」

「お前はどうして勝手に!」

「ノンノン、ボクは君のお供クンに呼ばれて来たのダヨ」

 怒るアレスフレイムなんてすり抜け、アレーニはノインの肩をポンと叩いた。

「ノインに!?」

「ご報告有難う。あとは何とかしてみるヨ。一旦返してもらってもイイカナ」

 アレーニに手を差し出され、ノインは頼まれていた本を彼に返した。

「それと〜」

 アレーニは自由気ままに指で宙に送還円を描くと、そこに腕を突っ込んだ。

「痛ってぇ! 急に何しやがる!?」

 送還円の中から騒がしい声が聞こえる。

「はいは〜い、つべこべ言わずに来てネ〜」

 容赦無くアレーニが力づくで引っ張ると、中から出てきたのはニックだった。アレーニに後ろ襟を掴まれている。

「っ!?」

 セティーは彼の名前を呼びたがったが、表向きは接点が無いために気持ちを抑えた。

「ニック!? どうして彼を!?」

 だが代わりに彼の名を呼んだのは騎士団副団長で普段彼と関わりのあるエレンだ。

「彼も絶対に連れて来てネ」

「はあ!?」

 ニックが歯向かおうとすると、エレンが慌てて起立した。

「アレーニ国王、彼は魔法が使えません! 激戦区に連れて行くのはあまりにも酷です」

「へぇ、魔法が使えないネェ……」

 アレーニが悟ったような笑顔をニックに見せると、ニックは下手に抵抗も出来ずに歯を食いしばった。

 するとアレーニは急にニックの頬を撫で、興奮したような眼差しを見せつける。

「戦争なんてストレスじゃない? ボクさ、夜に彼に慰めてもらいたいんだよネ〜。一目惚れしちゃったからさ」

「なっ!?!?」

 誰もが予想もしていない要求に一同が立ち上がった。ニック本人も青ざめているからだ。

「そんなのお前の国の者に頼め!!」

 流石にアレスフレイムも止めに入ると、アレーニはふふんと微笑む。

「あれ〜? じゃあ代わりに、リリーナターシャに頼もうかなぁ」

「よし、この者を貸そう」

「俺を売るんじゃねえよ!!!」

 あっさりとアレスフレイムに身を差し出され、吠えるニック。その傍らで、心配そうに見続けているのはセティーだ。

「あと筆頭魔道士クンもネ」

 ウインクをしながらアレーニがセティーを指名すると、アレスフレイムが再び反論をした。

「筆頭魔道士にはロナールに残ってもらう。万一に我が国も攻められた時に備えてだ」

「ダイジョ〜ブ、反撃しなくても守ることなら出来る人が残ってるデショ。ロナールが攻められたと聞けば一気に転移魔法で飛べる人もいるわけだし」

「でも情報が遅れたら」

「いいからいいから、ボクを信じなさい」

 一瞬だけだがアレーニの視線がニックの首飾りに向けられた。ココと同じ石のネックレス。ココに危険が及べば石が共鳴することをさも知っているかのように。

「あとアレスフレイムも来てね、ハニビが喜ぶから。じゃ、ボク他にもスカウトしなくちゃいけないから。またネ!」

 そう言うとアレーニはあっという間に魔法で姿を消したのだった。

「あ、あの男は、マイペースにも程があるだろ…ッ!」

 アレスフレイムが明らかに苛立っているのをノインが心配そうに見守る。

「セティー、お前はロナールに残れ。わかったな」

 ココのことも気になるがニックのことも気がかりだ。ココにはリリーナや植物たちが味方になってくれるだろう。だが、ニックは魔法を使わずに襲われたらひとたまりもない。

「私も行きます、アンセクトへ」

 アレスフレイムの命令に反した。

「何を言っているんだ!? ロナールを見捨てる気か!?」

「アレーニ様にも考えがあるのでしょう。あのお方もああ見えて特別な血を継いでいらっしゃるわけですし」

 太陽の丘の民の血、セティーは遠回しにアレスフレイムに伝えた。

「でも何故セティー殿を指名したのだろうか…」

 アンティスが不思議そうに呟くと、「確かに」と皆口々に疑問を抱いていく。

 これ以上詮索されたくはない、とセティーはあることを決心した。この話題を避けるための覚悟だ。

「………私のことも夜伽の相手として見初めて下さったのでしょう。私もぜひアレーニ様でしたら全身全霊で応えたい限りです」

 全員が黙ってセティーを見ると、爽やかに微笑む彼に何も言えずにいた。

「マジかよ……」

 だがニックだけが青ざめながら呟く。


 んなわけないだろう、とセティーは全力で彼に突っ込みたかったがひたすら偽りの微笑みを放ち続けたのであった。 




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