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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
130/198

2−4

「お嬢様、生きた心地がしませんでしたよ。勝手な行動は慎んでください。ご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございませんでした」

 何度も何度もノインに頭を下げているのはカロリーナの侍女。

「もう、ロザリーは気にしなくていいのに」

「お嬢様が言うセリフではございません!」

 ご尤も。それは本来、謝られているノインが言える言葉だ。それをカロリーナが言うものだから侍女のロザリーはさらに令嬢に叱る。

「謝らないで下さい。カロリーナお嬢様とのお話は楽しかったでしたよ」

 ノインが柔らかな口調でフォローをするも、ロザリーはハッとしてカロリーナを見て、

「まさかお名前を教えたのですか!?」

 と尚も気が気でない表情を浮かべていた。

「カロリーナってだけよ」

 カロリーナの返事を聞くと侍女は少しほっとしたようにも見える。ロズウェル家の令嬢であることを黙っていて欲しいということか……? とノインは心の中で疑問を抱いていた。


「お嬢様、正門までご一緒致します」


 背後から声がしてノインが振り向くと声の主はリリーナだった。

「まぁ、アジュール。嬉しいわ、ぜひ!」

 カロリーナが目を輝かせている一方、侍女は不安で仕方がなさそうにも見える。


 どういうことだ………? 彼女らが会うことがそれ程までに禁止されているのか………?


 ノインはこの三人の関係性について疑問ばかりが浮かんでしまう。単に領主令嬢と領地娘が仲が良いだけという訳でもなさそうだ。

「ではノイン様、失礼致します」

 リリーナが丁寧に礼をすると、カロリーナと侍女も続いて頭を下げた。そして彼女たちはノインに背を向け、城を発ったのだった。




「お嬢様、大丈夫でしたか……?」

 三人で並んで歩き、ロザリーが小声で話しかけた。

「大丈夫よ。トレスは汚れちゃったけど、怪我はしていないわ!」

「カロリーナターシャ様ではございません」

「心配しないでロザリー。カロと一緒にいるだけなら疑われたりしないわ」

「うんうん」

 全く反省の色が無いカロリーナに対して、リリーナとロザリーの眉がぴくりと震える。

「お父様の耳には城に来ることを言ってあるの?」

「いいえ。城都へ買い物へ行くと言って無理矢理城の方まで来たのですよね」

 二人に責められて流石にカロリーナも肩身が狭くなり、

「ごめんなさいったら〜! だってお姉様に最近全然会えていないんですものっ!」

 気まずそうな表情をしながらも反論をした。

「そうね、もう少し屋敷にも帰るようにするわ」

 ふっと微笑みながらリリーナが返事をすると、その美しさにカロリーナは頬を赤らめた。

「お姉様、庭師になってから変わられましたね」

「変わった?」

「植物以外にも笑顔を見せてくれるようになりましたわ。お姉様の笑顔を毎日拝める草花はしあわせ者ね!」

 ふふんっとカロリーナは上機嫌にスキップをし、ロザリーがすかさず「人前ですよ」と注意をする。


 変わった…………。


 フローラや世界情勢のことで目まぐるしい月日を送っていたリリーナは自身の内面の変化など全く考えたこともなかった。カロリーナはお転婆だが、リリーナとは違う視点をいつも気付かせてくれる。

 久々に再会したと思えばあっという間に正門に到着。

「ではロザリーさん、お嬢様をよろしくお願いします」

「はい」

 正門を守る番兵の手前、三人はリリーナを領地の娘としての話し方となる。

「お嬢様、お館様にもよろしくお伝え下さい」

「ええ、わかったわ。あ、そうだ」

 余計なことはしないで、とリリーナとロザリーは冷や冷やした。

「アレスフレイム様、にもよろしく伝えてね」

 カロリーナは自分の首筋をちょんちょんと指で軽く押し、リリーナに彼に首筋に付けられた印を思い出させようとした。

 が、

「畏まりました」

 表情一つ変えずに淡々と返事をするリリーナ。無理してそうしているわけではない。カロリーナの動作を見ても特に何かを思い出しもしないのだ。熱い情を唇から肌へと伝えたられたというのに。

「アジュールもお元気で」

 ロザリーが別れの挨拶をし、リリーナも頷いて応える。

「ま、あの戦争好きだった前国王がいなくなってくれたおかげでアジュールが一人でこっちに来ても前より安心に思えるようにもなったわ。お優しいマルスブルー様が新国王になられたし、ようやく平和になったわよね」

 空は青い。爽やかに平和を象徴するかのように。

 けれども世界には征服をしようと企む者もいる。

 カロリーナたちはそんな極秘情報を知るわけもなく、だからといってリリーナも伝える気持ちは無い。不安を煽らせるだけに過ぎないから。

「そうですね」

 一言そう返事をし、リリーナはカロリーナたちに頭を下げて見送った。

 本当に平和だったら良いのに、と切実な願いを胸に秘めながら。




「カロリーナターシャ様、お転婆もほどほどになさって下さいませ」

 馬車箱の中ではロザリーのお説教が再び始まった。

「はいはい、ごめんなさ〜い」

 しかし当のカロリーナは窓を見ながらツーンとしている。

 

 また会いたいな。


 その相手は姉であるリリーナと、そして……………。


「それにしても…」

 男にキスマークを付けられてどうしてあんなに無頓着なんだ!? とカロリーナは不思議で堪らなかった。

 人に対して笑顔も増えた、てっきり恋愛をしているのかと思ったがそうでもなさそう。

 恋愛に関して余りにも姉は無関心過ぎる。露骨にアプローチをされているのにもだ。


「お姉様は魔女の呪いでもかけられたのかしら」


 カロリーナはぽそっと呟く。

 じゃじゃ馬令嬢は窓からの穏やかな景色を眺めながら、屋敷へと連れ戻されるのだった。



 

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