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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第五章 誰がために
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1−1 青空よ、続け

 木に数枚程葉が緑から赤や黄色に色付き始めた頃、王城庭師のリリーナは彼女の髪と同じ色のライトグリーンのジョウロを持ちながら早朝の水遣りをしていた。ジョウロを傾けばちゃぽんと水音がする。空を見上げれば白い雲が平和に浮かぶ。

 今日も日陰の裏庭で水音や足音が静かに響く。

「お水ありがとう、リリーナ!」

「どういたしまして」

 背の低い草が揺れながらリリーナに声を上げ、彼女はゆっくりと裏庭の主の前に膝を付きそっと木肌を撫でた。真っ黒いつなぎ服に白い襟付きのシャツ、そして透明感のある彼女の手。隠れ令嬢の彼女はそんな素振りでさえ美しかった。

「カブ、冬に向けて藁囲みを用意致しますね」

「うむ」

 カブとは裏庭の主である樹齢3000年のため切り株。人間に例えれば仙人のような面持ちで、口数も少なく荘厳な雰囲気を漂わせている。

「この空がいつまでも続くといいのだけれど…」

 平和な青空がいつまでも、どこまでも…。




 昨日の昼前の出来事だ。

 新王の弟であるアレスフレイムが側近のノインと共に執務室で仕事に取り組んでいた最中、突如部屋の中心に魔法陣が浮かび上がった。

 通常ならそう簡単に魔法で侵入出来るわけがない。だが、魔力が飛び抜けて強い者ならば話が別。

「今日は何の用だ」

 アレスフレイムが椅子に座りながら彼女に話しかける。魔法陣から浮かび上がったのはリリーナ。

 彼女は理由がわからないが身体に2000年前に生きた魔女フローラが棲み着いている。そのおかげで魔力がずば抜けて強く、リリーナは幼い頃から植物たちと会話が出来た。だがフローラは2000年前に大地よりも恋を選び、戦争を引き起こしてしまったとも言われている。普段リリーナとフローラは接点は無いが、魔力をかなり消耗した際にリリーナが深層心理でフローラと接触することもある。

 そんな彼女は執務室に張られた結界を通ることなど容易く、転移魔法で登場。

「お願いがございまして参りました。もし近日中にアンセクト国へ行かれることがございましたら、私も連れて行ってもらえないでしょうか」

 アンセクト国は魔法に強化した国。若き国王であるアレーニは以前ここロナール国へ訪問に来たこともあり、その際にリリーナに求婚をした。いわばアレスフレイムにとっては恋敵。机にあったカップのコーヒーを啜り、なるべく落ち着かせて話をすることに努めた。

「アンセクト国へ行きたいのなら、旅行でも自分の好きなタイミングで行けば良いだろう。旅費がないのか」

「私が用があるのはアレーニ国王です」

 アレスフレイムの持つカップがカタカタと揺れ始める。ノインは少し離れた席から中腰になって二人の会話を見守った。どうかアレスフレイムの逆鱗に触れることのない様願いながら。

「ハッ、あの蟲キングにか?」

「はい、私一人では会いに行っても守衛に門前払いされるでしょう。殿下に同行をするのが確実にお会いできると思いまして」

「そんなに会いたいのか、あいつに」

「はい」

 アレスフレイムが握るカップから熱でコーヒーから湯気がたった。彼の魔法の属性は火。にじみ出る魔力でコーヒーは燃え上がろうとしている。

「あいつじゃないといけないのか?」

「はい、アレーニ様にお声掛けいただいたので、甘えたいことがございますので」

 コーヒーがマグマのように噴き上がった。ノインは立ち上がり、どこかから布巾を手に取り、机を拭きつつアレスフレイムの顔色を覗う。


 アレーニからの求婚に応える気になったのか!?


 アレスフレイムの額からは汗が滝のように流れ落ち、ノインは彼が言葉にしなくても何を思っているのか察した。

「アジュール、一体どのような用事があるのか?」

 ノインは咄嗟にリリーナからアンセクト国へ行きたい理由を問いただした。アレーニが関わるから話がややこしくなるのであって、理由を明白にすればアレスフレイムも落ち着きを取り戻すだろうと思ったからだ。それにリリーナは恋に関して無頓着なため、ノインとしては今更求婚に応えようとは思っていないだろうと推測をしていた。

「生まれ変わりのことで聞きたいこととがあるからです。アレーニ様が以前アンセクト国に生まれ変わりに詳しい方がいらっしゃって紹介出来ると仰っていたので」

 なるほど、とアレスフレイムとノインは安堵した。

「生まれ変わりのことを聞いてどうするんだ?」

「…………確かめたいことがございます」

「それはまだ言えないのか?」

「はい……」

 フローラもリリーナが見聞きしたことを深層心理で聞いている。彼女を暴走させないためにもリリーナは慎重になりやすい。


「そんなにボクに会いたいのかい、愛するリリーナターシャ!」


 するとまた室内に魔法陣が浮かび上がり、何とアレーニ本人が登場したのだ。

 きょとんとするリリーナ、あからさまに苛つくアレスフレイム、そして嫌な予感しかしないため胃をキリキリと傷んでいるノイン。

 そんな中、アレーニはふふんと上機嫌にリリーナの横に立つ。

 ややこしい三角関係に当事者でないはずのノインが1番悩ませる時間の幕開けだ。




数ある作品の中からご覧いただきありがとうございます!


第五章の幕開けです。

恋愛が絡みつつ、バトルもありつつな章となる予定。

良かったら最後までご覧いただけると幸いです。

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