10 太陽と風の三兄妹
あれからリリーナは体力が回復し、日常生活を取り戻した。早朝に目を覚まし、襟付きの白いシャツをシャンとさせ、黒のつなぎ服を着て、特注の黒い編み上げのブーツを履く。
「おはようございます、カブ」
まずは裏庭へ。裏庭の主の古株、カブに最敬礼で挨拶をし、静かな朝のひんやりとした空気の中、貯水槽からジョーロに水を汲み、水遣りをする。
最近、アレスフレイムにもあまり会えていない。
カヴィタスの対応やら兄のマルスブルーの即位に忙しさの極みなのだろう。
一方で中に棲み着くフローラは落ち着いているようにも思える。
フローラにも家族がいた。
当たり前のことなのに、すっかりそんなことを考えたことも無かった。亡き彼女を探すために、家族も道連れとなってしまったフローラの過去。ただ恋に溺れた魔女だと思っていたが、彼女の過去を知れば知るほど壮絶だということが突き付けられる。
そして、リリーナにはあれ以来気になることがあった。
「マルスブルー様が他国にご挨拶に行く際に連れて行ってもらおうかしら」
アレーニが君臨する、アンセクト国へ。
裏庭のすぐ側にある厨房からは朝から歓喜の叫び声が聞こえた。
「すっげぇ!! すっげぇぇえ!! なんて画期的!!」
乙女のようにはしゃぎながら野太い声をヴィックが放つ。武器の製造を主にしてきたジーブル領が当主がエドガーに変わり、その技術を新たな生活器具の製造へとシフトチェンジをし、厨房も新品の機材が置かれた。
人が変わり、この国も変わろうとしている。
「あ、セティー!」
夏の日差しが厳しい日中を避け、早朝の白の屋根に集まった三人。ココ、ニック、セティーだ。ピクニックのようにチェックのレジャーシートを広げて座っている。
「お待たせ」
転移魔法でセティーは現れると、ココを真ん中にして三人で並んで座った。
「はい、これ。どうぞ♪」
ココが用意したバスケットの中にサンドイッチが敷き詰められていた。ニックは既に食べ始めている。
「ありがとう、いただきます」
セティーがレタスとハムが挟んだサンドイッチを食べると、口の中でシャキッとレタスが弾き、噛む度に野菜の甘みが口に広がった。
「すごく野菜がおいしいでしょ?」
「うん、驚いた」
「リリーナさんからいただいたんだ。家庭菜園で育てた野菜を普段は教会にこっそり分けているの。私達が教会で食べた味をセティーにも知ってもらいたくて」
「美味しい……」
セティーはまた一口頬張ると、ココのプラチナブロンドの髪を優しく撫でた。
「今回のことはお咎めはナシだったのか?」
前国王の殺人未遂、セティーが犯したのは重罪だ。ココもごくりとつばを飲んでセティーの返答を不安そうに待っている。
「アレスフレイム殿下に言われたんだ」
『セティー、お前がやったことは許されないが、気持ちはわかる。俺もお前に親父が殺されそうになったときに、正直お前を殺して止めようと思った。お前は…奪われた。本当にすまなかった。ロナールの王族として、心から申し訳無く思う』
「寧ろ頭を下げられたよ。騎士団の連中たちも黙ってくれそうだし、私が一人反省して終わりだ」
「ふ〜ん」
返事を聞いたニックはほっとしてサンドイッチを持ってばくばくと食べ、ココは緊張の糸が解れてうるうると瞳を潤わせている。
「よかっ…たぁ……セティー……よかったぁぁ」
「泣かないでココ。大丈夫だから」
「トイレ掃除の刑ぐらいあってもいいのにな」
「トイレ掃除はお前の仕事だろ?」
「あ?」
「もぉ! 喧嘩しないでよ!」
「そうだな、少しぐらいの刑罰があった方が罪を償えたかもしれない」
セティーの切り替えの速さにニックは「こんのぉ、シスコン」というオーラを全面に出してセティーに睨みつけた。
「ああ良かった! またこうして屋根に集まって三人でおいしく食べることが出来るんだね」
静かな朝に山に隠れていた陽が姿を現していく。ココはプラチナブロンドのお団子頭を煌めかせ、風で前髪がふわりと浮いた。隣に片膝を立てて座るニックの金髪もサラサラと輝き、マントをはためかせながらセティーの緑の髪が揺れる。
ココは満面の笑みで天を見上げる、大きく手を広げ、腕を伸ばしながら。
「太陽と風の特等席!」
「だな」
「だね」
立場や出生など関係無い。三人は和気あいあいと一番高い場所で食事を楽しみ一日を迎えたのだった。家族として。
数ある作品の中からご覧下さりありがとうございます!
これにて第四章が終わりです。
四章でようやくメインキャラクターが出揃いました。
五章は少しほのぼの回になります、少し。
物語は丁度折り返し地点です。
最後までお付き合いいただけたら嬉しく思いますので、今後も頑張ります。
2月8日現在ブックマーク41名の方々、本当にありがとうございます!嬉しいです。
お気軽にご感想等をいただげましたらもっと嬉しいです。
では、また第五章もよろしくお願い致します。




