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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
122/198

9−2

 すっかり日が暮れた。

 風の音、草の揺れる音、虫の音。場所は違えど、彼等が初めて出会った夜を彷彿とさせる。


 城から少し離れた所に小高い丘があり、墓地がある。穏やかな風が通る中、王族や騎士等特別な者達が眠っている。


 セスナ・ウィーディーと書かれた墓石の前に立っていたのはニック。

 カーゴパンツのポケットに手を突っ込み、黙って墓石に視線を落としていた。


「来ていたのか」


 後からやってきたのはセティー。

「セティー」

「トイレ掃除は済んだのか」

「テキトーに終わらせた」

「……国中が賑わっているな」

 街から離れていても聞こえてくる人々の歓喜の声。好戦家の王が失脚し、平和を望む新たな王が誕生した。街では歌声も上がり、花火を打ち上げる程に誰もが新国王の即位に祝福している。

「今、お前と同じ事を思っているよ」

 セティーが言い、ニックと目を合わせた。


 もう少し早ければ、セスナはまだ生きていたかもしれない。


「ココの母親のことと言い、憎いよ。新たな国王が即位しても、私は喜べない。永遠に」

 セスナの死んだ理由は戦死。カヴィタスか不必要に戦争に参加をし、体制が整っていないまま乗り込んだせいでセスナや他の魔法士や騎士が犠牲となった。

「ニック、自分に血の繋がりが無いから私達の方が悲しいとか思っていないか?」

 セティーが言ったことは図星だ。ニックは自分の両親の記憶が全く無い分、親の記憶が有りながら親を失う方が悲しいと思っているし、セスナを失って自分よりも実の子どもであるセティーやココの方が辛いと思っていた。

「悲しみは比べるものではない。父上は私と二人で居るときに、帰ったら弟とまた勝負するのかい、とよく言っていたものだよ」

 ニックはポケットの中で拳をぎゅっと握り締めた。

「…………生前に呼んでいたらどんな反応をしたのかな。父さんって」

 涙を堪えているニックの横顔を見て、セティーはしゃがんで墓石と視線を合わせながら少し間を置いた。

「何だ息子よ、と笑いながら言ったと思うよ」

 セティーに悟られまいとニックはそっと目頭に溜まった涙を手で拭う。だが次第に鼻をすすってしまっていた。セティーはゆっくりと立ち上がり、力強くニックの肩を抱いた。

「止めてくれて有り難う、ニック。ココのことも、私のことも守ってくれた」

 セティーはふぅと軽く熱い吐息を吹き、

「父上、兄弟力合わせて生きてますよ」

 と墓石に向かって語りかけた。

「二人だけのときなら兄さんと呼んでも良いんだぞ?」

 腹黒く笑うセティーにニックは涙を止め、

「ぜってー呼ばねー」

 セティーの腰を抱き、背筋を伸ばして立ち並んだ。


 彼等の父親の前で。




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