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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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9−1 新たな風

 騎士団の訓練場に機体が着陸すると、既に戻って来ていた騎士達が出迎えた。

「マルスブルー王太子殿下から話は聞きました。アレスフレイム殿下、アンティス団長…っ…皆様、ご無事で何よりです!」

 心底心配し続けていたのだろう。涙ぐむ者もいれば、安堵した者もいた。

 ちなみにニックはと言うと、勝手に抜け出したことからトイレ掃除を命じられ、訓練場のトイレを清掃中。国を守るために果敢に闘ったのにと理不尽にも思うが、表向きは彼は魔法を使えないことになっているため歯を食いしばりながら清掃に没頭していた。

 リリーナもまた普段は単なる庭師として勤めているため、この機体の中に彼女が居ることが不自然だ。

「私はここで身を潜めてます」

 座席の陰に隠れるとアレスフレイムは彼女の頭を少し撫でてから一人で降機した。先に別の機体から降りていたエドガーがそれを見てこっそりとリリーナがまだ残る機体に乗ってみる。

 迫る足音にリリーナはひたすらに座席の陰に身体を縮めていると

「居るかい?」

 聞こえてきたのはエドガーの声。

 少しだけ顔を出して様子を覗うと

「あ、中にまだ居たんだね。転移魔法でここから出れそう?」

「申し訳ございません。まだ体力が回復しておりません」

「いいよいいよ休んでな。一旦ジーブル邸にこれごと戻るけど、その後に送り届けるから」

「お手数かけて申し訳ないです」

「いいって。オヤジや俺のことを守ってくれた恩返し。それに、それくらいしないと後から怒り出す赤頭の友人がいるからさ」

 エドガーの冗談に思わずリリーナもふっと笑みが溢れた。黒いつなぎ服が座席で隠れているためか、彼女の美しい顔が映える。美しき蝶のように。


「母さん!」

「ノイン!!」

 一方訓練場では人質となった家族や恋人との再会に皆抱き合っていた。双方の無事を肌で感じ、安堵して嗚咽する者もいる。

 そんな最中、ふわりと一人の人物が空中から舞い降りた。筆頭魔道士、セティーである。ストンと地に着くと、まだ縛られて眠る愚王カヴィタス等の方へ歩む。

「一緒に居たアイツに頼まれておりまして。ジーブル殿の胸ポケットにある物を空に映せと」

 セティーがジーブルが着用をしていたチョッキの下にあるシャツに手を入れ、ポケットから手の平サイズの箱を取り出した。窓のない部屋でジーブルから人質の様子を映し出したあの箱だ。

 セティーが箱を風に乗せて空へ浮かべると、どこかからバチバチと静電気のような音が広範囲に広がり、壊れた牢屋の前で立つマルスブルーと人質にされていた王太子妃のスティラフィリーの姿が徐々に映し出された。

「あ、装置が光ったからどこかで映ってるのかな。ごほんっ。ロナール国民の皆さま、大変苦しい知らせではございますが現国王であり私の父のカヴィタス・ロナールが家族を人質に騎士達を危険な場所へ送らせるという大きな過ちを侵してしまいました。私としても、許し難く見過ごすわけにはいきません。騎士達の家族や恋人を人質に捕らえられたことも遺憾ですが、王太子妃のスティラフィリーまでもが人質とされていました」

 映像には映っていないが、震えるマルスブルーの手をそっとスティラフィリーが手で包む。マルスブルーは息を吐いて吸うと決意を瞳に宿し

「誠に急ではございますが、本日より、私、マルスブルー・ロナールがロナール国の国王として即位することを宣言致します」

 新たなロナール国王誕生を告げた。 

 空に映し出された宣言に国中に静けさが一瞬あった。が、すぐにワァアアアアッッ!!! と国民たちの歓喜の叫び声が上がり、熱気に包まれた。

 そして風に乗った空の映像は、キラキラと光の粒の煌めきを放っていく、祝福を上げているかのように。


「ハ~イ、新ロナール国とアンセクト国が友好国になることもついでに宣言しちゃうヨ〜♪」


 突如前触れもなく転移魔法で現れたのはアレーニ。困惑するマルスブルーの横に立ち、彼の手を握って高く上げてぶんぶんと振り回している。

「他の国と万が一ケンカになっちゃった時とか、困った時はお互いに助け合える関係を結びたいと思いま〜す」

 案に大国ゲルーと戦争が起きたり襲われた際には助け合う。そして、ゲルーに対抗するために手を組むことを他国に見せつけるのも彼の狙いだ。言い方はなんとも緩いが。

「というわけで、お仲間になりたい国があったらいつでもウェルカムよ〜。ではでは、新国王クン、これからよろしくネ〜」

 彼はマルスブルーに返事をする暇を与えることもなく、魔法で姿を消して帰国してしまったのだった。




「俺も宣言しよう」

 エドガーが機体から降りてジーブルの騎士達の前に立つ。

「本日より、ジーブル領地の新当主となることを宣言する。我々の技術をもっと人々の生活に役立てる物に活かしていこう。争いの為に使う兵器作りは必要最小限だ。これからは平和のためのジーブル領として技術を駆使していこう!」

 エドガーの宣言に騎士達は拍手をして応えた。

「一旦領地に戻る。悪いがオヤジはそっちで預かってもらってもいいか」

 エドガーは大罪をした父ジーブルをアレスフレイムに託した。

「構わん。着いてやることが済んだらさっさと戻って来いよ」

 リリーナをすぐに戻してくれってことか。

 エドガーは彼の心中にふっと笑いが込み上がりそうになったが我慢をし、急いで機体に乗り、もう一機に騎士と家族を乗せ、ジーブル領地へと飛び立った。




「あら、いい風が吹いてきたわね」


 中庭では薔薇の迷宮にて白薔薇姫が風に揺られながら微笑む。


「おい白ババア」


 無断で薔薇の迷宮に入って来たのは一人の騎士。

「まあ、相変わらず口が悪いのね」

「あいつにあまり無茶させるんじゃねーよ」

 それだけ告げると彼は白薔薇姫に背を向けて薔薇の迷宮を後にしたのだった。




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