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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第一章 庭師と王子
12/198

3−3

 ほんの一時間前に俺はこの新米庭師に剣を向けた。

 貴様の力は戦争に向いている、と魔法を無闇に使われないように冷たい言葉で釘を刺したはずだ。

 なのに何故、先程よりも近くに歩み寄り、生命力を宿った瞳で俺に仕事をさせろと依頼をしてくるのか。


「フンッ、どこから聞きつけたのか知らないが、貴様に同行をする様に予定を空けておけと伝えに来るところだった」

「まぁ、左様でございましたか。あと、もう一つお願いがございまして」

「あ?」


 表情があまり変わらないのもあり、リリーナの考えがいまいち読めない。国の英雄とも呼ばれるアレスフレイムでさえも、彼女の思考に付いていけていない。


「殿下が使われた瞬間移動の魔法を教えていただけませんか。地面に魔法陣が浮かんでも大地に影響は無さそうでしたので」

転移魔法(テレポート)のことか。無属性魔法の上級魔法だから訓練を受けてから…」

転移魔法(テレポート)!」

「おい! 異次元に放り込まれるぞ!」


 アレスフレイムの忠告も最後まで聞かずにリリーナは詠唱すると、アレスフレイムが使うときよりも速く姿を消し、ほんの数メートル先へ瞬時に姿を現した。

 呪文を教えただけなのにまさかの一発成功。

 そして魔法の発動が速い。

転移魔法(テレポート)!」

 再びリリーナは唱えると、魔法を使う前の場所に正確に戻って来た。

「ありがとうございます。あぁ、便利だわ」

 転移位置は正確。その上続けて上級魔法を使っても全く疲弊した素振りは無い。

 アレスフレイムは無性に苛つき、チッと舌打ちをし

「貴様、人の話は最後まで聞け。上級魔法は難易度も高く失敗したときのリスクも高い」

「上級魔法…………?」


 アレスフレイムは愕然とした。

 こいつは魔法の知識が皆無なのに、軽々とオリジナル上級魔法を使いこなしているのか。


「自由時間に少し魔法学を学べ。あとでノインに手配して王城図書館の利用カードを用意しておく」

「まあ! 王城内に図書館があるのですね!」


 目を輝かせるリリーナにアレスフレイムは念を押した。


「………………植物の本ばかり漁るんじゃないぞ」

「………………畏まりました」


 やけに小さな声でリリーナは返事をした。

 こいつ、魔法学の本を読む気無いだろ………! と心の中でアレスフレイムは舌打ちをしまくっていた。


「良いか! 出発は明日の正午だ! 最小限の荷物を用意して正門に来い!」


 忙しなく城へ歩いて戻ろうとするアレスフレイムに


「お戻りは歩きなんですか? 魔法を使った方が時間短縮になりませんか?」


 とリリーナが悪意は無く、純粋に疑問を抱き質問を投げかけると、アレスフレイムは彼の頭髪にやや近い色に顔を染め、


「俺の勝手だろ!」


 貴様と違って上級魔法を短時間に何度も使ったら身が持つわけないだろ!

 と心の中で言い返しながら足早に去って行くのだった。


 クソ、また名前を聞き忘れた。


 彼は苛立ちながら城へ入り、彼の通る先々で兵士や侍女などが慌てて頭を下げ、彼の怒りが静まることを願っていた。


「変なの」


 リリーナが呟くと周りの草木たちがクスクスクスと小さく揺れながら笑い声を上げていた。




 ようやく中庭に戻る頃には、これから行われる御三時の準備が始まっていた。

 庭の大きな木の下でホックがせっせと竹箒で掃き掃除をしている。


「ホックさん、まともに引き継ぎも出来ずに申し訳ございません」

「おおっ! リリーナターシャ! いや、君が悪いわけではない。続きは明日の朝にしよう。これからマルスブルー様とスティラフィリー様のお茶のお時間になる。今は執事たちがテーブルなど大きな物を運んでいるが、間もなくメイドの連中が来るだろうからな」


 納得はいかないが仕方がない、とリリーナは軽くため息をした。


「本当にごめんなさい」

「気にするな、リリーナターシャ」

「あと私、明日の昼からしばらく不在になってしまいまして、アレスフレイム殿下と王室管理の畑の再建に向かうことになりました」


 突然の報告にホックは「げっほ! げっほ!」と咽てしまった。


「あ、あのアレスフレイム様と!?」

「はい、畑の収穫が減ったらしいので」

「そ、そうか、気をつけてな。では、再来週のマルスブルー様のお誕生祭までを引き継ぎ期間としよう」

「なるべく早く戻って来れるよう努力します」

「いやいや! いい! それよりも殿下に失礼の無いようにな」


 あの人を寄せ付けない殿下と!? 特に女嫌いだと聞くのにどんな稀有なことか! とホックは驚愕をするも、目の前にいるリリーナターシャのボサボサな頭につなぎ姿を見て、殿下は彼女を全く女性として見ていないんだなと妙に納得したのだった。


「では、失礼します」

 とリリーナは軽くホックに頭を下げ、惜しそうにほんの少しだけ薔薇の迷宮を見る。


「月明かりの頃に会いましょう」


 中庭の主が約束を言い渡してくれ、リリーナは


「ええ、約束するわ」


 薔薇のように艷やかな唇で約束の言葉を結び、新緑の揺れる青々とした春の風に乗せて“姫君”の宮に届けるのであった。



ご覧いただきありがとうございます。

ご感想や叱咤激励をいただけたら嬉しいです。


では、また。

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