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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
119/198

8−2

「やあやあ、挨拶に来てくれてありがとう。君も透明な翅が実に美しいヨ。すごい大歓迎ダネ。ボクのためにありがとう!」

 迷いの森にて。アレーニはスキップをしながら森を散歩していると、次から次へと彼の周りに集まって来たのは種々様々の蟲。アレーニは彼等に手を振りながらパレードの如く跳ね続けている。

「おや…?」

 硬い翅を羽撃かせて彼の前に舞い降りたのはナナホシテントウ。草の間から赤き前翅が映える。

「初めまして。ボクはアレーニ・アンセクト。君はこの森の案内役かい?」

 ナナホシテントウは彼に尻を向け、歩き始めた。飛ぶこともなく、ひたすら地面を。アレーニも彼に合わせて静かに後を付いて行く。


 天道虫、彼等は高き場所へ導くのだから。


 突如、視界がぶぁっと別空間が広がった。

 日差しが熱い。

 風が吹き渡り、竜たちが空を自由に舞う。

 二軒の小さな家が並んでひっそりと立ち、反対側には墓石らしき大きな石がいくつも立てられていた。

 そして真っ直ぐに進めば、世界が眼下に見渡せる。

「案内ありがとう。ステキな場所ダネ」

 アレーニはナナホシテントウに礼を言うと、崖の端にゆっくりと歩んだ。


 そこに咲くのは一本の向日葵。

 地上で咲く向日葵の倍以上高さがある。太陽に近いからだろうか。


「君がここの主ダネ。お招きありがとう」

 アレーニは胸にそっと手を当てて丁重に頭を下げた。

 すると、先程のナナホシテントウが彼の肩に留まり、囁くように話しかける。

「わかったヨ。でもその前にボクの遠い遠いご先祖様に挨拶をさせてネ」

 静かに草地を歩き、沢山の墓石が並べられた場所へと行き、先程と同じように胸に手を当てて頭を下げた。

「初めましてご先祖様方々。長い時を経てボクにも貴方方の血と力を受け継いでくださったこと、感謝致します」

 簡素ながら粛々と挨拶を済ませると、彼は肩に乗ったナナホシテントウにウインクをし、

「お待たせ」

 案内役に促されながらある家へと入って行ったのだった。


「何故貴様が!?」


 入った瞬間、マントをぶわっとはためかせ立ちはだかったのはセティー。後からココがやってくると、アレーニを見て慌ててフードを被り直した。

「素敵なナビゲーターが案内してくれたからネ。言いそびれていたけれど、ボクは太陽の丘の民の遠い遠い遠い遠〜〜〜〜ーーい子孫なんだ」

 アレーニが蟲を操ることが出来るのはこの目で見てきた、二人は驚きはあるものの彼の言葉をすぐに信じた。現に今も彼の肩には虫が停まっている。

 するとアレーニがココに視線を移すと、目が合ったココはビクッと震えた。

「あと君の正体を誰かに話すつもりもないし、君をどうこうしようとも思わないサ。ボクが興味あるのはリリーナターシャだけだからネ」

「えっ」

 どういう意味だろうとココは不思議に思うも、アレーニは変わらずマイペースに家の中に入って行く。

 そして彼が立ち止まったのは本棚の前。

 隠し部屋に行くのかな、とココが不安そうに見つめるも、アレーニがしたのは一冊の本を取り出すことだった。

 くすんだ黄色の硬い表紙の本。

「君が定期的に掃除をしてくれているのカナ。古そうだけど埃が被ってなくてキレイだ」

 本に視線を落としながらアレーニが穏やかに微笑む。だが、ココはおどおどと挙動不審になっている。

「その本…。どうしても開かないんです。どんなに力ずくでも…」

 アレーニはふっと微笑み、人差し指の先に魔力を集中させると

「透明な蜘蛛の糸で縛られているからネ」

 背表紙とは反対側の紙の方に指を下から突っ込むようにして、くっと上に持ち上げた。途端に透明だった蜘蛛の糸は黄色く光り、パラパラと落ちていく。

「この家は君の家?」

「いえっ。お隣さんの家です」

「ふ〜ん……ここの住民は蟲とも話せたのかもね」

 本をパラパラと捲りながらアレーニが呟くと、ココは「えっ?」と戸惑いを隠せずにいた。微かに残る記憶の中で、あのご夫婦はそんな素振りは無かったはずだと。

「これは……っ!?」

 突然、張り詰めた声を出したアレーニにセティーとココも緊張しながら彼を見つめた。

「読めない。何語だ、コレ」

 だが、大したことのない結果で二人はズルっと身体を傾ける。

「ねぇ君読める?」

 まずはココに見せる。

「も、申し訳ございません……」

 すると、ココの横からセティーが目を細めて本を見た。

「ロナール国の古代文字ですね。かなり古い書物かと」

「君は読めるかい?」

「いいえ」

 ココと違ってきっぱりと断言するセティー。

「うーん、困ったネェ。あ!」

 困った時間も束の間、アレーニはすぐに閃く。

「今度彼に頼もう! この間仲良くしておいて良かったぁ!」


 すると、草原でくしゅんとくしゃみをしたのはノインだった。


「良かった良かった。これで心置きなくお暇しよう」

 アレーニは大事そうに本を抱き抱えると、家を出ようとした。

「一国の王でいらっしゃいますからね。ぜひ早目にご帰国ください。この度はロナールを救ってくださり、ありがとうございます」

「ノンノン♪ さっきも言ったでしょ〜。ボクが居なくても国は回る。ちょっくら観光でもしてから帰るさ〜♪」

 スキップをしながら家を出たアレーニを見送りにセティーたちも外へ出たが、既に彼は巨大蜂に乗り、空を飛びながら去って行き、彼の後ろ姿が小さく見えた。

「…………アンセクト国の彼の部下はさぞ苦労しているだろうな」

 そう呟くセティーの後ろをひょこっと付いてくるココ。

「そろそろ私達も戻ろっか」

「そうだな」

 風で髪が靡き、ココが耳にかける。

「いい風だね」

「そうだな」

 そして彼女は唯一の家族と共に再び丘を降り立つのだ。竜たちが空を自由に舞いながらも、太陽の丘は再び人気の無い静かな日々を送っていく。




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