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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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8−1 太陽の丘

 丘と呼ぶにはあまりにも高い。

 風がひゅうひゅうと自由に舞い、眼下には世界の大陸が見渡せる。

 そして何よりも太陽に1番近い。

 だが彼方にある太陽にはまだまだ果てしなく遠く、太陽から見れは丘のよう低いことから命名された場所の名。


「お母さん、来たよ」


 ココとセティーがまず集落の墓地へ行き、しゃがんで手を合わせる。

「すごいね、今日からまたこの場所が賑やかになった」

 空には何匹もの竜。ゲルーの戦争の道具とされてしまった彼等は解放され、羽根を羽撃かせて自由に飛んでいた。

「外から見れば魔法で姿が見られない。竜も安心だな」

 セティーも見上げながらココの隣に立ち、ココは兄の横顔を見て微笑んだ。

「家の掃除しちゃうねっ」

「ああ。他の墓石の掃除をしておくよ」

 二人が血の繋がった兄妹であることは秘密。セティーは筆頭魔道士として普段国の各地へ飛んで城を不在にしていることが多く、ココに会えるのも年に1回程度。その度にこっそり抜け出して太陽の丘へ上り、墓参り等をしていたのだった。


「わ、竜が飛んでるからすごい風。あとでセティーに家の防御魔法をお願いしておこうっと」

 生前の母親と暮らしていた小さな家の掃除を済ませ、ココは次に良くしてもらったお隣さん夫婦の家を掃除をしに家に入る。

風・(ウィンド・)光ノ浄化(フォス・エーセリアル)

 風色の瞳を光らせ、家中に風を行き渡らせた。ぱちっぱちっと埃は光となって弾ける。


 妙に今日は何だか風通しが良い。


 ココは違和感を感じ、家の中を歩くと書斎に着いた。身長よりも高い本棚の後ろから風を感じる。竜の羽撃きに吹き上がった風が。

 本棚を横にスライドさせてみる。

 小さな力でも容易く動き、扉は開かれた。


「隠し部屋………?」


 恐る恐る中に入ると木製の玩具が転がっていた。つみ木、怪獣の人形、不思議な乗り物、トンボ、魚、ケルベロス。

 部屋の中心に置かれていたのは開きっぱなしのスケッチブック。

 木の実や落ちた花を潰して色を作り、指で描いたのだろう。様々な色の小さな指の跡が幾つも付いていた。その絵らしきものは、細長く畝っている。

「ヘビ………?」

「ココー?」

 スケッチブックを手に持って眺めると家の入口からセティーの声が聞こえてきた。

「こっち〜!」

 声を張り上げて呼ぶと、セティーも部屋に入ってきて

「何だ、こんな部屋があったのか」

「うん。これヘビかなぁ」

 ココはスケッチブックの絵を彼に見せた。

「竜じゃないか? 周りが青いから、空を飛んでいるようにも見える」

「なるほど〜」


 ―――――キャハハハハハッ!


 突然、あどけない笑い声がココの脳内に聞こえてきた。


 ―――――この竜が、みんなをたすけるの!

 ―――――世界中をとべるからな! いっしょにのってたすけにいこうな、ココ。

 ―――――うんっ! ふたりならこわくないもんね、ライアン。

 

「ココ?」

「えっ!?」

 スケッチブックを握ったままココはぼーっとしてしまっていた。

「どうしたの?」

「ううん、ちょっとぼーっとしちゃって」


 何かを思い出した気がする。けれど、何だったっけ。


 ココはそっとスケッチブックを閉じて、壁に立て掛けた。

「竜の風すごいから、一応私とこっちの家にも保護魔法をしてもらってもいい?」

「もちろんさ。お安い御用だよ」


 二人の間に吹くのは朗らかな風。

 再び本棚の扉で部屋を閉ざし、二人は太陽の丘を静かに降りようとしたのだった。




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