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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
115/198

7−3

「幾千の星って何…っ。わからないよ…」


 急にリリーナから大役を任され、ココはうるうると涙ぐみながら後退りをしていた。

「こっちに攻撃が向けられないように守るから、落ち着いて、考えてごらん」

 セティーが優しく声をかけ、彼は暴走をするリリーナの魔力、フローラの力に立ち向かうべく、疾風の速さでココの前を飛び立った。

「そんなこと言われても……私、リリーナさんのように特別な人じゃないし…っ」

「彼女も特別ではないヨ。フローラの魔力を抱いていること以外は」

 後ろ向きなココに声をかけたのはアレーニ。彼の声色は優しくもなく、淡々としていた。

「リリーナターシャは王城庭師。とびっきり植物を愛している女の子さ」

 そう言うと彼もまた一歩前へ出てココに背を向ける。そして

蟲ノ(インセクト・)巨大化(ハルクアウト)!」

 と唱え、彼の背後に控えて浮上をする何匹ものヤンマを巨大化させたのだ。透明な羽を羽撃かせ、尻尾のように長い腹部の付け根には青空のように美しい青が。アレーニは一匹に跨り、ヤンマの軍隊を先導したのだった。


 フローラに動きを奪われたリリーナは、泉の上に浮かんだ。泉に孤立したいかのように。

 リリーナの雑に結われたライトグリーンの髪は解かれ、泉の乱れた水面のように広がりながら揺れている。


「来ないでぇええええええっっ!!!!」

「次は風!!」

 内側から沸き起こるフローラの絶叫を感知し、リリーナは辛うじて繋ぎ止めてる意識の中、アレーニたちにフローラが繰り出すであろう魔法の属性を叫び上げる。

 リリーナを中心に現れたのは竜巻。

 泉の水、森の湿った土、木々に繁る葉…彼女の魔法によって植物たちが荒荒しい渦に巻き込まれていく。


 こんなの見たくない。


 リリーナも悲痛な思いに駆られたが、意識を保つことに集中するのを怠らなかった。

斬風(ウインドシュナイデン)ノ雷(・サンダラ)!!」

 筆頭魔道士セティーのオリジナル魔法。宙に浮きながら天に向かって魔法を唱えて振り下ろすと雷の如く鋭い風が何本も落ち、竜巻を切り刻んでいった。本来なら同時に敵をも射抜く強大な魔法だが、竜巻を打ち消すだけが限界だった。小さくなった竜巻の欠片はヤンマたちの旋風で消えていく。

 上にはニックたちが逃げ道を塞ぐ。ならば地上を走ってこの場から離れようとするはずだ。

 だが、考えは甘く、


 ドゴォオオオオオ!!!!!


 突如フローラは土の魔力を放出させ、地面を隆起して地割れを起こした。

風浮(フロウ)!!」

「きゃあああ!!!」

 戦闘の経験が全く無いココは硬直してしまい、セティーが慌てて彼女を地面から高く浮かせた。

 そして

「ウォンッッ!!!!」

 力強く跳びながら彼女を背中に乗せたのは聖獣ケルベロス。

「ケルちゃん!」

 ココは旧友のケルベロスにしがみつき、体制を整えた。


 彼女は見つけた。獣毛に絡まっているものを。


「これ……」

 リリーナから命懸けで頼まれたことがわからず、出口のない苦しみに光が差し込まれる。


 その様子を見たアレーニがふと微笑んだ。

蜘蛛ノ(アレニ・)神糸(テオスフィル)!」

 白き蜘蛛の糸を何本も放ち、木々の間に絡め、行く手を阻む。


 俺も飛びにくいが…これは地上に追い込もうとしている…?

 

 ニックはアレーニの動きから推測し、

雷ノ豪雨(サンダースコール)!!」

 上から泉に向かっておびただしい数の雷を撃ち落とした。

「あっぶね! 魔法円盾(グライスシールド)!」

 セティーは慌てて防御魔法で自身を保護。

 一方泉に浮かぶリリーナはフローラも泉の水に雷が落ちれば感電の危険を恐れ、離れようとする。


 辺りは熱く湿っている。

 ドクドクと勢力を増す苔がびっちりと広がっていた。


 リリーナの編み上げのブーツが泉から地面へと移ろうと脚が伸びる。


 スローモーションのようにその時は訪れた。


 リリーナの黒い靴の裏が湿って滑りを増した苔に擦られ、不意にバランスが崩れたのだ。


「今だ!!!!」


 アレーニの呼び声にココが反応をする。


「シロバナカモメヅル!! 彼女に巻き付いて!!」


 太陽の丘の魔女の声に応え、森中のシロバラカモメヅルが一瞬でリリーナの身体全体に巻き付いた。

 花弁は鋭く尖る星型。緑のツルが流星のように勢い良く流れ、まさに幾千もの星に彼女は身を拘束されたのだ。

「彼女を捉えよ!」

 今度はアレーニがヤンマを急降下させ、鋭いトゲのある脚でリリーナを捕まえさせると、泉の中央の真上に飛んだ。

 そして、

「泉へ沈めろ!!」

 アレーニの乗ったヤンマはツルに絡まれたリリーナを掴んだまま頭から直下した。美しき碧の深泉へと。


 


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