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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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7−1 魔女の試練

「チッ、あの蟲キング、ふざけた真似をしやがって!」

 舌打ちをしながらアレーニを恨むのは、草原に魔法で強制送還されたアレスフレイム。父親である愚王の対処などまるで無視するかのように、一目散に再び森へ入ろうと走り出したその時

「アレス! 駄目だ! 俺達が太刀打ち出来るような相手じゃない!」

 彼の友人のエドガーが彼の手首をがしっと掴んだ。ついさっきまで苔に飲み込まれそうになった者同士、行ったところで敵う相手ではないことは解っている。

 けれども

「彼女を置いて行くなど出来るか! 命に変えても守りたい人を!」

 エドガーよりも強い力で振り払った。

「ノイン!」

「ハッ」

 ノインは呼ばれてすぐに前へ出た。ノインも解っている、リリーナのためならば、初めて愛した女性のためならば、身を挺しても守りたいという主君のことを。

「親父たちのことはエドガーと任せた。殺す以外なら何をしても構わない。ただ再び森に入るのだけは阻止してくれ」

「畏まりました。お気をつけて」

 そして、ノインも森へ行った所で自分が荷物になることも理解していた。ノインとリリーナの両方が同時に危険に晒された時、アレスフレイムは迷うだろう。ならば、全力で彼女を守って欲しい、と見送る。だがそれも苦渋の決断だ。

「アレス!!!! 絶対に戻って来いよ!!!!」

 アレスフレイムは仲間に背を向けて森へと駆け出す。同時にエドガーに潜んでいたカジュの葉もアレスフレイムの後を追ってヒュンッ! と鋭く飛ぶ。背後からエドガーの叫び声が聞こえると、アレスフレイムは右腕を少し上げて拳を見せた。

 必ず戻って来る、と。



 

「キュイイイッッッ!!!!」

 リリーナが苔から魔法を受けた瞬間、森の真上に浮かんでいた子ども竜が叫び声を上げた。

「っ!?」

 その声にいち早く反応をしたのはニック。泉からかなり距離は離れていたが、鳴き声は十分に聞こえた。

 そして森中がざわめく。蟲たちが災いを察知したかのように泉の反対側へと一斉に動き出す。

「彼女に何があった!?」

 アレーニも異変に察知し、同時に巨大蜂に跨った。


「太陽の丘の民の生き残りたちよ、試練だ」


 ニックたちの足元に生えている苔から声がした。

「試練って何!?」

 植物の声を聞き、怯えながら返事をするのは太陽の丘の魔女であるココ。

「太陽の丘から降りた魔女の災いが近年再び起こるだろう。フローラの半分にも満たない力を解放した。お前たちに止めることが出来るのか。人間として生きることを選んだお前たちに」

「フローラの力を解放したって何!? わかんないよ!」

 その言葉を聞いただけでアレーニは巨大蜂を直ぐ様に飛ばした。遠い祖先の血の力を頼りに、彼は太陽の丘の民の末裔としてリリーナの元へと急ぐ。

「ココ、植物が何て話しているんだい」

 ココを落ち着かせるように敢えて柔らかな口調で話しかけるセティー。内心、彼もこの異常事態に恐怖を抱いていないわけではない。

「フローラって歴代の太陽の丘の魔女の中でもダントツ強くて、亡骸もみんなで探し続けていた人で……リリーナさんの中に何故かフローラさんの魔力が棲み着いているみたいで、オババ様がその魔力を解放したって言っててっ」

 すると、ニックが上空に一筋の電撃を打ち上げた。

「ここだ! 連れて行ってくれ!」

 バッサバッサと音が上空から次第に大きくなると、赤い子ども竜が降り立ち、乗るようにと伏せた。

 ニックは急いで飛び乗り、

「俺が行く。セティーはココを頼む」

「わかった」

 と飛び立とうとした瞬間、


「待ってっ!!」


 ココが呼び止めた。

「私も行く!」

「バカ言うな、死ぬかもしれないんだぞ!!」

 ニックに強く言われてもココは首を横に振って怯まなかった。


『何も出来ないことはないわ。私はいつもあなたに助けてもらっている』


 淡々とだけれど、そう言ってくれたリリーナを放っておくことなど出来ない。

 どんなに自分がフヌケでもマヌケでも、リリーナは見下したりなど一切しなかった。


 それに


「ここは私が守る森だもん!!」


 母に抱かれながら植物たちと散歩をしたり、仲間と果実を集めたりした思い出の場所。そして母に最期に守られた場所。


「太陽の丘の魔女として、使命を果たしたい…っ!」


 涙目になりながらニックに訴えるココ。

 それでもココの安全を最優先にしたい彼は再び断ろうとしたが、

「ニック、ココを連れて行こう」

 ココの決意を汲もうとしたのは異母兄妹のセティーだった。

「はぁ!? 何言っているんだよ、セティー!」

「状況が予想以上に危険なら私が無理矢理にでもココを連れて逃げる。それでどうだ」

「危険じゃないわけないだろ!」

「ココは太陽の丘の魔女だ。魔女を治めるのに必要性が高いのはココだと考えても不自然ではない。先程植物が試練と言ったのなら、私達全員が対象ではないのか。勿論、ココも含めた」

「くっ……っ」

 セティーの推理は正論だ。だが迷ってる時間は無い。

「俺が竜に乗って先に行く。セティーたちは自力で飛んで後から来る。それで良いか」

「野生児にしては慎重な策だな。気を付けて行けよ」

 ニックとセティーが軽く頷き合い、そしてココもニックと視線を合わせる。

「片付いたら、三人でメシでも食おうな」

 竜に乗ったまま腕を伸ばし、ニックはココの頭を軽くぽんぽんと撫でた。

「あ」

 ココが何か言いかけたが、ニックはすぐに上空に上がり飛んで行った。


 触れられた頭にそっと手で触れる。

 この感覚は何…? さっき記憶消しの魔法を使ったのを見たときとは違う、不思議な感情に包まれていくみたい。

 何だろう、何でだろう。わからない、ううん…思い出せない…?


「ココ」

 セティーに呼ばれてハッと我に返った。

「飛ぼう」

 兄が木々の間に浮かぶ。

 ココは目に溜まった涙を拭い、父から受け継がれた強き風の魔力を漲らせ、彼女もまた地から浮く。

「リリーナさんの元へ…!」

 二人は風色の瞳を煌めかせ木々の間をすり抜けて行く。光と風の速さで。

 



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