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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
111/198

6−4

「あ、あの、私、白薔薇姫様に無理矢理送られて…っ」

 わなわなと震えるココを隠すようにニックが彼女の前に立つ。

 本物の太陽の丘の魔女を守るために。

「あなたは………」

 このタイミングで何故白薔薇姫が臆病な彼女を送ってきたのかリリーナは考えた。


 埃の洗浄………。


 これまで城の植物たちがメイドたちが窓から捨てた埃をいち早く短時間に清掃をし、陰ながら庭の手入れを手伝ってくれたのはココ。実際にはリリーナは清掃の様子を見たことは無いが、恐らく太陽の丘の魔女の代名詞でもある光魔法を使うのだろう。

「お願い、彼等にも埃が被さった城の植物たちと同じ様に清掃魔法をして欲しい」

 ニックの背後に隠れるココにリリーナは声をかけるが、

「無理です、無理です。私、人に魔法をかけたことなんて無いですし、私のせいでもっと悲惨なことになるかもしれないですし」

 ココは首を横に振り、立ち上がろうともしない。

 だが、その間に再び胞子が紫の光を放ちながら漂い、カヴィタスたちにまた苔で覆うとし始めた。アレーニの指示でダンゴムシたちは苔を貪るが、これでは埒が明かない。

「お前なら出来る。やってみろ」

「無理だよ。私、何も出来ないもん」

 5年前、母親を目の前で亡くした。魔法をろくに練習をしなかった彼女は母親が苦しむのをただ見てるしか出来なかった。この森で。

 ニックの声掛けにもココは頑なに首を横に振った。


「出来るかどうかは二の次よ。魔力の源は、叶えたい意志があるかどうか」


 隠れ令嬢であるリリーナの凛とした声が、どんな過酷な状況でも澄み渡る。

「人間も植物も変わらないわ。助けたい、あなたの優しさや願いが城の植物たちを救い続けてくれていたのよ」

「でもでも……私はあなたや皆のように強くない」

「恐怖を抱えていない生き物なんていないわ」

 ふとココの顔が上がる。

「それでも守るべき者のために立ち上がる。人も植物も、蟲も。失う悲しみを誰もが恐れているわ。強さは、誰かを守るための勇気。そして、守るだけでなく守られている、誰かに支えられているから奮い立てるのよ」

「守るだけでなく、守られている………」

 ココが呟いて見上げると、顔を隠しているがニックと目が合った。


 ずっとずっとニックに守ってもらってた。


 ニックだけじゃない、セティーにも、お父さんにも、そしてお母さんにも………ううん、もっと、シスター、丘の植物たち、ケルベロス、太陽。今は恐怖の対象になってしまったけれど、森。

「本当は、太陽の丘の魔女()が守るべき森………」

 ゆっくりと彼女の膝が立つ。膝はすっかり土まみれだったが、まっていた背中がやがて真っ直ぐに伸びる。

 そして、彼女の両手が前に出される。それだけで森中に風が駆け抜けた。


風・(ウィンド・)光ノ浄化(フォス・エーセリアル)!!」


 瞬く間に風が森中を吹き抜け、光の粒が空中を走る。カヴィタスたちに付着していた憎しみの胞子はパチパチと黄金色の光を放ちながら弾けて消えていった。木の陰が続いている森に太陽の光が溢れていく。


「何故……何故……何故お前たちは人間の肩を持つ……」


 力無く嘆きながら森中に広がる苔が茶色く変色していった。

「えっ!? どうしよう、枯らしちゃった!?」

 途端に慌て始めるココだが、

「仮死状態になっただけよ」

 リリーナが落ち着き払った声で説明をした。

「あ、あの、仮死状態って」

 おろおろと尋ねるココ。

「蒸れるのを避けるために敢えて枯れたような状態になることよ。苔の種類によってはよくあることだわ。水を与えたら再び蘇る」

「そうなんですね」

 庭師であるリリーナの説明にココはほっとした。

 一方、アレーニが何やら考えながらカヴィタスたちの前に立ち、

「苔を蘇らせる前にコイツ等をどうにかしないとネ」

 と呟いた。

「同感だ。森から外に出してからの方が良い」

 相槌をするニック。

 すると

「追い出したところで再び森へ侵入するだろう。太陽の丘の魔女が居ることを知ってしまったのだから」

 ひゅぅっと浮かんでセティーも合流してきた。

「セティー!」

 思わずココが声を上げると、ニックが黙れと言わんばかりに彼女の前に立って姿を隠した。

「セティー!?」

 アレスフレイムは父親を暗殺しようとしたセティーの登場に身構え、剣を抜こうとした。

「殿下、私はもう誰も殺めるつもりはありませんよ。今はこの状況をどう解決をすべきかを優先するべきです」

 セティーに殺意が無いことを知ると、アレスフレイムよりもココの方が心中ほっとしたのだった。そんな彼女の表情を見て、ニックが僅かに振り返って軽く鼻息を漏らす。

「素性隠しちゃん、君、光魔法が使えるネ?」

 アレーニが身を隠したココに突如笑顔で話しかける。ニックだけでなくセティーも彼女を守るように身構えた。

「おっさん達の記憶を一部消して欲しいんだ。竜たちに一斉に火の息を吹きかけられた直後からの記憶を。竜に攻撃をされて死を覚悟したが生きていて、でも愚行したため囚えられましたって流れになるのが理想カナ」

「えっえっ」

 アレーニは言ってる内容と違い、ステップを踏みながらさも軽快に話す。軽いノリでとてつもない無茶振りをされ、ココは戸惑ってばかりで返事すらまともに出来ない。

 クシャッと彼のステップに踏まれ、葉が鳴る。


「記憶を消す魔法さ! 記憶消しは光属性の魔法だからネ」

 

 彼の言葉にニックがぴくりと反応をした。

「や、あの、私、そんな難しいこと出来ないです…っ」

 ようやく返事をしたかと思えば何とも弱気なココの発言に、

「ぇえ? さっき君、とてつもなく特殊で大きな魔力を使っていたのに〜!?」

 アレーニは大袈裟に身体ごと横に傾けた。

「私が試みるわ」

 ココの様子を見かねてリリーナがカヴィタスの方へと前へ出た。

「え、君が使えるのって水属性じゃないの?」

 このメンバーだから良いかとリリーナは被っていたフードを外した。ライトグリーンに混じるローズピンクの瞳が鋭く光る。質問をしてきたアレーニを少しだけ見る。

「全ての属性が使えます」

 アレスフレイムは周りの反応を気にしたが、全員驚くだけで利用しようだとかそんな邪心は無い気配。

 カジュの一葉がひゅるりとリリーナの前に舞い、彼女を導く。

「オレがフォローする。そっと両手をこいつらの額に触れるんだ」

「わかったわ」

 カジュに言われた通りに指先を伸ばしてカヴィタスとジーブルの額に触れる。

「よし、脳の奥まで魔力は注がない。ほんの手前だけで良い、そうだ、軽く撫でるような優しさで」


 撫でる…………記憶が消される…………。


 ふと自分の右手を額に覆ったのはニック。幼い頃、記憶が消されたのがまるで目の前で再現されたかのようで、彼にしては珍しく気分が滅入っている。

「呪文は覚えているかい?」

「ええ」

 ポワァッとカジュが橙の光を放ち、リリーナに援護する。


光失記憶(ライトロストメモリー)


 橙とローズピンクの光がリリーナの両手の平から放たれ、一瞬彼等の頭を優しく包んだと思ったら、すぐに風になって消えていった。


 記憶消しの魔法を見て、何か頭に違和感を感じたのはニックだけではなかった。

 ココ、そしてセティーも手を額に添えて少し俯いている。


 誰かによって、誰かだけを消された記憶。




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