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「アレーニ国王!?」
オスカーが驚きの声を上げ、アレーニに会ったことのないセティーたちも急に現れた人物が他国の王であることを認識した。
アレーニはニックを挟み打ちにした攻撃を魔法で出した黄色の円に吸収していっただけでなく、頭上にも大きな円を描き、竜から落ちた騎士を吸収していった。
「こんなに美しい草原を血に染めるなんてナンセンス。アンセクト国の特別牢獄へご招待するヨ」
中性的な顔の彼は魅惑な微笑みを浮かべて超巨大な魔法の円を軽々と描いている。
「ちぃぃ!! 厄介な相手が来やがったな!」
アランボウは歯をギリギリと食いしばり、手綱を乱暴に引きさらに上空へ上ろうとした。
アレーニはポケットから金色のコンパクトを取り出して開き、黄金色の蜂を二匹飛ばした。
「蟲ノ巨大化!」
魔法唱えて二匹の蜂を巨大化し、その一匹に跨りぐんぐんと上昇。
「素性隠し君! 僕の友達に乗って! 自由に飛べた方が良い」
アレーニはニックに声をかけ、巨大な蜂を彼へと飛ばしていくと、ニックは軽々と飛び乗り、
「よろしくな」
ぽんぽんと頭を撫でた。
ニックとセティーに加わりアレーニも空中参戦。ゲルー側は四天王のアランボウと子どもの竜に乗る騎士が残っている。そして他の竜が人間を落としてその後どうすれば良いのかと浮いている。
「竜は聖なる生き物だ。汚い奴らを一人残らず僕の国へ強制送還してあげるヨ」
アレーニは両手を白く輝かせると
「蜘蛛ノ神糸!」
魔法を唱えて白銀の蜘蛛の糸を飛ばし、1人の騎士に目で追えない程の速さで巻き付け、竜から落下させ、魔法の円へと落としていった。
蜂に乗ったニックもぐんぐんと高く舞い上がる。一番高く飛んでいるアランボウは何本もの炎の矢を放った。
「魔法円盾!」
地上で応戦をするアンティス、オスカー、そしてエレンが防御魔法を唱えてニックたちや竜、そして草の海に火が落ちぬよう、防いでいく。
大地を守り抜くために。
「くそぉ!! 一旦引き上げるぞ!!!」
アランボウが竜を強く蹴り、全速力で飛ぶように命令をする。竜は苦しそうに悶えるも、仕方無しに北の国へと戻ろうとした。
すると、セティーが子どもの竜から鋭い風で騎士を落とした。「キュイ! キュイイ!!」と鳴きながら、慌てた様子でアランボウの竜の周りを飛び、北へ戻るのを必死に止めようとしている様子。
「邪魔だァァァッ!!!」
荒れたアランボウはついに子ども竜にも歯向かうものならばと攻撃を放とうとする。
「キュイ!?!?」
子ども竜は目を閉じ、恐怖のあまりに硬直をしてしまった。
「稲光螺旋!!」
子ども竜とアランボウの間に下から雷の渦が巻き上がる。ニックが放った雷の渦がアランボウの炎の矢を飲み込んだ。
「ぐぅぅっ!! クソォォォ!!!」
何発も何発も炎の矢をニックに放つ。蜂は羽を素早く羽撃かせ、器用に攻撃を避けていく。
「背後が隙だらけなんだよ。風ノ輪舞!!」
アランボウの背後を飛んでいたセティーが風でアランボウを押し出し、竜から無理矢理降ろした。
「まだまだァァァ!!!」
アランボウは落ちながらも彼等に攻撃を怠ろうとしなかった。
ニックは手に魔力を集中し、雲ひとつない快晴から雷鳴を轟かせる。
そして
「雷光ノ矢ッッッ!!!」
天から落ちた一筋の雷は容赦なくアランボウを一瞬でアンセクト国行きの円へと落下させた。アランボウが円に吸収されると、円がバチバチ!と鋭く静電気を起こすのだった。アレーニが両手を前に出し、強力な雷に何とか持ち堪えてみせる。
しばらくして辺りが静かになった。
「キュイ! キュイ〜〜ッッッ!」
子ども竜が高い鳴き声を上げながら、アランボウが乗っていた赤い竜の首元を甘えるように頭で擦っていた。
「親子なのかもな」
ニックの横を飛ぶセティーがぼそりと呟く。
「そうだな」
ニックが眩しそうな顔で親子の竜を見て返事をする。
「殺さなくてよかった」
それを聞いたニックは軽く鼻から安堵の息を漏らしたのだった。
「当たり前だ、クソ兄貴」
「黙れクソ弟」
空高く笑い合う二人。まるで本当の兄弟のように。
アレーニが描いていたアンセクト国行きの魔法の円も静かに消えていく。
「ふぅ。ちょっと〜、最後のドでかいの何さ〜。急だったから送還円崩さないようにするの死ぬ気でやったヨ」
笑いながらも文句を言うアレーニ。
「悪い悪い」
三人はゆっくりと地上へ降りた。アンティスたちが迎える。
「有難う。貴方がいなければ殲滅するところでした」
アンティスが率先して礼を述べ頭を下げると、続いてオスカーとエレンも頭を下げた。
上司に頭を下げられてニックとしてはあまり居心地が良くなかった。さらに言えばアンティスはココの……。
「別に」
顔を背けてニックは素っ気なく返事をする。
突然、地響きが起きた。
大地の怒りの合唱が。
震源地は迷いの森。
晴れた空の下に不釣り合いな紫色の靄が森全体から浮かび上がってくる。
森の祟がついに起きようとしているかのように。




