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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
106/198

5−3

「セティー…!?」

 まさか先程裏切ったばかりのセティーがカヴィタス等を助けたことにアレスフレイムは目を見開いた。

「あの男はセティーの仲間か…!?」

 もはや竜騎士にプロディオにセティーたちにと敵に囲まれているようで、アレスフレイムは炎の剣を構えながら周囲を警戒していた。

「彼は味方だ!」

 すると、胸元から急いで飛び出したカジュの葉が、アレスフレイムに彼の顔の眼の前に浮かび訴えるように葉を広げる。

「彼には決して攻撃をするな!」

「カジュ…?」

 いつもとどことなく雰囲気が違う。まるで両手を大きく広げるようにしてアレスフレイムの前で立ちはだかるような、強い意志を感じる。

 だが、よそ見をする暇もなく、頭上から竜たちが火を吹き、竜騎士も魔法で攻撃の雨を降らした。

「クッ…ッ! 魔法円盾(グライスシールド)!」

 竜も7匹居れば、竜騎士も7人、合わせて14体分の強敵に立ち向かわなければならない。そしてロナール側は、10人。その内1名は負傷者で、4名は上級魔法が使えない。セティーと謎の男を加えたら12人にはなるが。


 戦力が足りない。


 アレスフレイムは歯を食いしばりながら攻撃から盾で仲間を守っていた。守ってばかりいては魔力が消耗するばかりで最終的には撃ち落とされるだろう。

 ここでロナールの戦力が滅んでは国が竜の軍隊に乗っ取られ、世界平和の均衡が崩される。何としてでも食い止めたい。アレスフレイムやノインたちは反撃のタイミングを窺いながら防御魔法で身を防いでいた。

「副団長!」

 斬られて蹲るエレンを見つけ、ニックが声を上げる。

「セティー、副団長を転送神術であいつのところに送ってくれ!」

「は!? あの子は回復魔法を使えないぞ!」

 名前を伏せているがセティーはニックが負傷して血を流しているエレンを送る先をココにしてくれということは察した。

「今あいつが居る場所に使えるヤツが居る。急いでくれ!」

 セティーはケルベロスから飛び立ち、疾風の速さでエレンの前に浮かぶ。

「セティー!?」

 エレンを魔法で守っていたオスカーが次に彼が何をしでかすのかとエレンの前に立とうと走り出すが、

「安心しろ。治療先に送るだけだ。転送(ディーヴィ)神術(ソーマタージー)!!」

 セティーが無色の風を巻き起こし、エレンを包み込むと一瞬で彼女は消えたのだった。


「ひっ………っっっ!?!?」

 突然薔薇の迷宮に血塗れのエレンが現れ、ココは引きつった。たとえカジュから向こうの状況を把握していても。

「ここ………は………?」

 うつ伏せに倒れながらもエレンは初めて訪れる場所を見回した。

「エレン副団長」

「その声は………リリーナターシャ………?」

 苦しそうに声を発するエレン。リリーナはしゃがんでそっと彼女に触れ、

「今治しますね」


 薔薇ノ治癒(ロサ・セラヴィ)


 本当は白薔薇姫が唱えた治癒魔法をさも自分が唱えたように見せ、植物が魔法を使えることを隠した。白薔薇姫の葉から生まれた光を灯る薔薇はやがて光の粉を吹かせ、エレンの傷を忽ち癒やしたのだった。

「あなた………光魔法……!?」

 リリーナは人差し指を唇に当てると、微笑に見えなくもない顔を浮かべた。まるで美しくも不気味にさえ感じる魔女のように。


 薔薇ノ転送(ロサ・ディーヴィ)


 白薔薇姫が魔法を唱え、エレンは強制的に再び戦場へと送られた。

「頑張ってね〜、今度は斬られるんじゃないわよ〜」

 葉を揺らしてヒラヒラと見送る白薔薇姫だが、ココはすっかり震えていた。血を見たからだ。

「あ、あんなに、痛そうな傷を負ったのに…また怖い所へ行かせたのですか…!?」

 涙目で白薔薇姫に訴えると、

「ここで彼等が堕ちたら世界はゲルーの支配下になるわ。一人でも戦力を送るべきよ」

 リリーナが落ち着き払った声でココに説明をした。

 そう、きっと太陽の丘の民たちも、北の地で血を流したのだろう。世界の大地を守るために。


 迷いの森の前の草原では、

「あのマントの男と聖獣に跨がる男には気を付けろ! 魔力が頭一つ抜きん出て強い! 生きて捕らえよ!」

 竜騎士四天王のアランボウが司令を出した。

「セティー! 俺を飛ばしながら飛べるか!?」

「今の聞こえなかったのかよ。私達はすっかり狙われたのだぞ!?」

 軽く二人は言い合いをするも、ニックは空を見上げながらケルベロスの背で立ち上がる。腰の鞭をぎゅっと掴みながら。


「竜に罪は無い。殺すのは上に乗っかってるクズな人間共だけだ」


 この状況で何を無茶な事を言っているのだと誰もが言葉を失う。

「フッハハハハハッ! 出来るモノならやってみろ! 丸焦げになる前にな!」

 アランボウが嘲笑すると、7匹の竜と竜騎士は一斉にニックに体を向けた。そしてアンティスと戦っていたプロディオも剣先をニックに向けようとする。


「おい赤髪!」


 この場に赤い髪はアレスフレイムのみで、突然謎の男に自分が呼ばれ、アレスフレイムは体を強張らせた。

「てめぇのクソ親父と狸親父を見張ってろ! 森へ入らせるな!」

 竜騎士にばかり気を取られていたが、カヴィタスたちを探すとこっそりジーブルと二人で森へ向かおうとしていた。それを見たアレスフレイムとノインとエドガーが慌てて彼等の方へと駆けて行き、王専属の騎士たちも付いて行く。

「くたばれぇぇ!!」

 プロディオがケルベロスに剣を突こうとし、

「グルゥゥゥウ!!!」

 ケルベロスの強靭な前足に蹴られ、呆気なく飛ばされ、腹を抱えながら倒れた。

 7人の竜騎士に立ち向かうのは、ニック、セティー、アンティス、オスカーの4人だけになってしまった。だが、

「上等だ。行くぜ」

 ニックはセティーと視線を合わせると、二人は笑みさえ浮かべた。

風浮(フロウ)!!」

 竜の羽撃きにも抗う風が舞い上がる。ニックは再び腰の鞭を雷の鞭に変え、二人は一気に竜騎士より上に上昇。

「我々は援護しよう。二人に攻撃が当たらぬ様、防御に徹底を」

 地上ではアンティスが冷静にオスカーに指示をし、いつでも魔法を出せるように空に向かって手を構えた。


 陽射しが強い。


 ニックは天に円を描くように雷の鞭を回し、バチバチィと鋭く弾ける音が轟く。


「自由になれ! 背中に跨ぐ荷物を振り落とすんだ!」


 自分等の上に浮かぶ彼に狙いを定め、竜騎士等は手綱を引くが、竜が動かない。

「行け! あんな小僧に怯むな!」

 アランボウも乱暴に手綱を引き、足先で竜を蹴るが、四天王と誇る彼でさえも竜を飛ばすことが出来なくなってしまった。

「チッ!!」

 仕方無しに竜騎士たちはその場でニックに向けて魔法を唱えようとする。

 水の攻撃、火の攻撃、様々な魔法がニックに向けられるがセティーが風を操り、巧みに躱していく。そして、地上からも魔法円盾を唱えて二人を守るアンティスとオスカー。

「舐めるな小僧!!」

 すると不意にアランボウがセティーに火の槍を投げた。そのスピードは四天王の名に相応しく、矢のように目で追うことも難しい程一直線に放つ。防御が間に合わない。アンティスとオスカーが歯を食いしばったその時、


土ノ魔壁(ソイルウォール)!!」


 大地から盛り上がった土壁がセティーの盾となった。

「エレン!?」

「待たせたわね! もう一人いたのをお忘れなく」

 酷い傷を負っていたはずが跡形もなく消えたエレンが再び草原に現れる。彼女のホワイトブロンドの長い髪が扇のように広がり、生き生きと復活したことを告げた。


「お前達の羽根は空を翔けるためにある! 今、解き放て!」


 ニックが再び鞭をバチバチと音をさせながら声を上げると、一匹の竜が巨体を揺らし始めた。そして、二匹、三匹と続いていく。

 争いの道具にした人間を落とせ、と。

「やめろ! お前等! 主に向かって何をするんだ!?」

 躾のために刃物を竜の首に刺そうとする輩を見つけ、セティーは竜の背中に飛び移り、竜騎士を蹴り上げて地上へ落としていった。ニックも鞭を操り、竜騎士達を落としていく。

 だが、一匹だけ人間を振り落とそうとしない竜がいた。他よりも体が小さく、どうやら子ども。「キュイ、キュイィィ」と怖いよと鳴きながら戸惑って浮かび続けている。そのため、子どもの竜に乗る人間はバランスが保たれ、ニックたちに攻撃を仕向け続けていた。

 竜を守りながら攻撃を避け続けるのは決して容易くはない。

 アランボウもまだ竜の背中にしがみついていたが、炎の矢をニックに放ち、ニックの背後からは子ども竜に乗った人間が土の矢を放つ。ニックは挟み打ちにされ、他に逃げれば竜が危なくなり、逃げ場を失った。

「っっ!!!」

 間に合え!!

 セティーが疾風を放つ。が、距離が遠く間に合わない。

 その時、


 ニックの前後に黄色の円が現れ、魔法が中へと吸い込まれていった。


「ふぅ、危機一髪だったネェ」


 草原の揺れに馴染むかのようにイエローカラーの長い髪がさらさらと揺れる。

 守りの森を背にして現れたのは魔法強国アンセクト国の王、アレーニだった。


 


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