表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
105/198

5−2

 竜騎士が来ると知らせを聞いたアレスフレイムはようやく立ち止まり、歯を食いしばりながら前方と後方を見つめた。前方には父親を撃ち落とそうとしたセティー、後方にはゲルーからの竜騎士。どちらも平和を脅かす存在だ。

「くそっ……今は引き返すか!」

 自分の父親だけでなく仲間にも危険が及ぶ。アレスフレイムは今度は転移魔法で草原へと戻ろうとするが、

「っ!? 使えない!?」

「どうかなさいましたか!?」

「転移魔法が使えない。この森では制限されるのか…!? チッ!」

 転移魔法を使う際の身体に流れる魔力がまるで感じない。アレスフレイムは汗を拭う暇もなく、全速力で森の外へと引き返すことにしたのだった。




 一方薔薇の迷宮では、

「ニックたちにも知らせなきゃ! ニックたちの所には行けますか!? 竜が来るなんて!! ゲルーが攻めて来るってことですよね!?!?」

 浮かぶカジュの葉をきゅっと掴み、ココがすっかり取り乱していた。

「…………」

 方やリリーナは冷静。自分も行って参戦すべきか考えていた。

 竜騎士がどれ程の強さなのかはわからない。行ったところで足手まといになれば身も蓋もない。何よりも戦争好きな愚王が直ぐ側にいるのが厄介だ。リリーナが今時分が行ったところで役に立つとは限らないと判断し、このまま状況を見守ろうとした。

 白薔薇姫がほんの少しだけ低い声で答える。茎を僅かに横に傾けながら。

「坊やに知らせなくても、彼のことだから自分で気付くわよ」


「竜が来る………」


 白薔薇姫の推測通り、ニックは向かい風に立ちながら呟き、腰の鞭を握った。

「竜騎士か!? この風は竜の羽風によるものか!?」

 セティーも立ち上がり、風を手で触り、異質な疾風にマントが広がる。マントの端は警戒するかのようにピリッピリと張っていた。

「行くぞセティー。ココの故郷を守るんだ」

 ニックが鞭を木の枝に絡ませ、セティーは魔法で浮かぼうとしたその時、


 グルゥゥゥルゥウウウウウ


 背後から聞こえるのは唸り声。そして猛獣の熱い息遣い。

 彼等が振り返ると、木の間から高く飛び立って来たのは、聖獣ケルベロス。胴体が一つに対して頭を三つ持つ犬で、影に溶け込むような黒き獣毛を逆立っている。体も成人男性より遥かに大きく、高さなら人の三倍もありそうだ。

「まずい! よりにもよってココが居ない時にッ! 気を付けろ、襲われるぞ!」

 セティーが手を前に構えて魔法を放とうとするが、

「乗るぞ!」

 ニックに後ろから首根っこを捕まれ、勢い良く二人でケルベロスの背中に飛び乗ったのだ。

「おま、おまっ、おまえっ……何考えてんだ!?」

 予想外過ぎる行動にセティーは口をパクパクとしながら混乱をするも、

「行くぞ。しっかり捕まれ」

 ニックは前を見つめ、ケルベロスの毛をぐっと掴みながら森の中を駆け抜ける。倒木を跳ぶ際等、二人は振り落とされぬ様、がしっと掴んだ。

 木々が揺れ動く。さぁ急ぎなさい、と。




「何だって!? 竜が来る!?」

 草原ではエドガーの胸ポケットに身を潜めていたカジュが竜到来を告げた。

「竜だと…!?」

 騎士団の団長のアンティスと副団長のエレン、そしてオスカーがエドガーの言葉に驚愕。プロディオや他の王専属の騎士たちも聞こえたらしく、困惑した。

「何故今…!? まるでここに陛下や私達が居ると知っているみたいじゃない……!?」

「エレン! プロディオと距離を置け!」

 アンティスが叫ぶのと同時に、プロディオは剣を振り上げ、エレンの胸元に縦に切り傷が走った。

「ぐぁ………っ!? な、何を…っ」

 エレンは片手で傷を抑えて出血を止めようとするも、傷口が長く、手で覆い隠しきることが出来ない。

魔法円盾(グライスシールド)!」

 オスカーが慌ててエレンを透明な盾で包んで保護をした。その中でエレンが膝を付き、息遣いが乱れ、額から汗を落としながらただただぐっと傷口を抑え込む。だが、じんわりと服には鮮血が広がっていく。

「下では何やら揉めてるようですねぇ」

 ジーブルが怪訝そうに爆撃機を操縦していると、


 突如、辺り一帯が黒い影に覆われた。


 グゥゥゥゥウウウウ、唸り声。

 草が乱れ動かされる、強靭な羽風。

 一匹、二匹、いや、計七匹の竜たちが群れを成して上空を堂々と飛んでいた。

「アランボウ様!」

 歓喜に満ちた声で竜騎士の名を呼ぶのはプロディオ。

 一匹の橙色の竜に一人の男が立ち上がった。彼は長身で白と橙色が混ざった膝まで伸びた髪をひとまとめにし、ゲルーの黒い民族衣装を身に纏っている。

「我が名はアランボウ! ゲルー竜騎士四天王の一人。ロナールよ、今日が滅びの日となれ! 太陽の丘を新たなゲルーの拠点としよう!」

 彼は高らかに笑いながら草原の上を舞う。

「な……何事だ………!?」

 爆撃機に居るカヴィタスとジーブルも予想外の襲来に口を開いたまま硬直。だが、

「ふん、本当に見ただけではどこに太陽の丘があるのかわからないのだな。森しか見えん。お前ら! 太陽の丘の民は生きて捕らえよ! 他の雑魚は始末していいからな!」

 アランボウはまず愚王が乗る爆撃機の上に飛んだ。

「終わりだ、ロナール」

 ニヤリと笑みを浮かべながら、彼は炎の弓矢を魔法で出し、バチバチと音を立てながら弦を引いていく。突き刺すかのように真上から狙いを定め、炎の矢を放つと、


水ノ魔鎖(アクアチェーン)!!」


 森から出てきたノインが間一髪で長い鎖を放出し、矢の炎を消して無力化にした。

「チッ…! 今の魔法は先日逃げた奴の報告にもあったなぁ。ロナールで特に厄介な奴のお出ましかよ」

 尚もアレスフレイムとノインは走っていて、

「ジーブル機体を降ろせ! 魔法円盾を一箇所にまとめて保護をする!」

 アレスフレイムがそう叫ぶと

「させるかよ!」

 数匹の竜が忽ち爆撃機に集まり、鉤爪で捕らえようとする。爆撃機は逃げようと飛ぶが、竜から見ればまるでスローモーションに映るかのように、あっという間に前方が塞がれ、後方も塞がれ、身動きが取りづらくなっていった。

「くっ! 炎ノ魔剣(フレイムソード)!!」

 アレスフレイムが炎が螺旋状に渦巻く剣を振り上げ、炎を竜に放つが、呆気なく竜がぱくっと大きな口で食べてしまう。

 ノインが放った水ノ魔鎖も鋭利な先端を竜に目掛けて回転するが、複数の竜の口から火が吹かれると、忽ち威力を失ってしまった。

 アンティスも応戦しようとするが、

「お前の相手はこの俺だ!」

 とプロディオに憚れてしまった。

魔氷弾丸(アイスガン)!!」

 エドガーがプロディオに向かって銀銃から魔法弾を撃つも、呆気なく竜の尻尾に弾き返されてしまう。

「ははは!! 無駄だ!! この目で見るがいい! ロナールの終わりを!」

 アランボウが乗る竜を含む四匹の竜が一斉に口を開く。そして喉奥からメラメラと炎の力を蓄え、

「やめろぉおおおおお!!!!!!」

 アレスフレイムの叫び声と同時に炎の息を放った。

 炎がぶつかり合い、黒い大煙が立ち昇る。炎が消えて、竜の翼がはためく力で煙も消し去ると、そこには何も無かった。黒焦げになった機体さえも。


 しかし、突如草原に機体が姿を現した。


「何故だ!? 今仕留めたはずでは!?」

 アランボウが目を疑いながら機体を見たが、森からは二人の姿が現れた。聖獣ケルベロスに乗りし二人が。


「フンッ、奴の命を助けるなんて私としても不服だがな」


 咄嗟に転送神術を唱えて機体を瞬間移動させたセティーが不満そうな顔をさせ、その前には顔を隠した謎の男にしか見えないニックが必死に駆け抜けたケルベロスを褒めるように頭を撫でていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ