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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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5−1 兄弟喧嘩

 遥か高い上空に浮かぶ爆撃機の上に佇む青年と森から見上げたセティーの目が合う。


 何で、何で邪魔をするんだよ………ッッ!! ニック!!


 セティーは歯をギリギリと噛みしめながら彼を睨みつける。

 すると、筆頭魔道士の裏切りを目の当たりにした愚王が激昂し、

「裏切り者を撃てぇええええ!!!! 森諸共焼き尽くせええええ!!!!」

 叫び声と共に二機の爆撃機から砲弾が次々と撃ち落とされていった。

「ク……ッ!!」

 5年前と同じ様に、爆撃の雨が森に振り落とされようとする。


 しかしその時、

雷光(サンダー)ノ鞭(マスティギオ)

 腰に掛けてあった単なる鞭を雷の鞭に変えたニックが、地面を背に機体から落ち、鞭を疾風の速さで操りながら砲弾を空中で爆発させていった。

「あっっの、バカッ!! 飛べないくせに!! 魔法円盾(グライスシールド)!!」

 セティーは片手で魔法の盾をニックに覆うと、もう片方の手で風を操り、ニックの落下を調整。ニックは砲弾の爆発をセティーの風に乗って上手く避けつつ、一つも森へ撃ち落とされることなく撃破していく。

「誰だあれは!? あの者を捕らえよ! 我が国の戦力にしてやるのだ!」

「畏まりました!」

 爆撃機の中で愚王カヴィタスが大声を上げて指示を出すと、操縦していたジーブルが爆撃機から巨大な網をニックに向かって広げた。

「っ!?」

 ニックとセティーが何か抵抗をしようと思ったその時、


魔氷弾丸(アイスガン)!!」


 銀の拳銃から氷の魔力が込められた弾丸が放たれ、網を氷漬けにして動きを止める。


「親父!! もう止めろよ!」


 草原から声を張り上げたのはエドガー。

「俺たちの領地で働く者たちは、国を壊すために汗水を垂らしているわけではないはずだ! ましてや人を殺したり罪の無い人間を捕らえようとするなんて」

「黙れ! 愚息がぁあああ!!!!」

「森や大地も生きている! 親父の行為は虐殺だ!」

「黙れ黙れ黙れえええええ!!!」

 ジーブルはもう一機の無人の爆撃機を操作し、息子のエドガーに向かって墜落させようと急降下させた。

 人前だがやむを得ないと彼のポケットに潜むカジュが舞い出ようと覚悟をした時、


土ノ大斧(ソイルアックス)!!」


 土の大斧が回転しながら空を舞うと、爆撃機を真っ二つに割り、持ち主の背中に戻った。エレンの元に。

「エレン副団長!」

「空っぽの戦闘機なんて、さっさと壊すに限るわ!」

「グゥゥッッッ!!!!」

 苛立つカヴィタスと悔しく唸るジーブル。

「陛下に当たったらどうするつもりか!?」

 だが、地上では王専属騎士団のリーダーのプロディオがエレンに向かって剣を抜いた。

「陛下をお守りする代償が大き過ぎる。私達だって家族や恋人を奪われるところだったのよ!?」

 背中の大斧の持ち手をぐっと握り、いつでも振ろうと身構えるエレン。

「まだ助かっているとは確定していない! 副団長で有りながら見捨てる気か!?」

「違うわ! 私はアレスフレイム殿下を信じている!」

 そのアレスフレイムはセティーがカヴィタスを撃ち落とそうとした直後に森へと駆けて行ってしまったのだった。後からノインも追いかけて。「行くな! アレスフレイム!」と叫ぶカジュの声も聞かずに。


 足音が聞こえる。

「……ック、この魔力は殿下か!?」

 森でニックを浮かばせていたセティーはアレスフレイムの気配を察知し、一旦ニックを安全に草原に下ろそうと風で動かそうとした。

「そうはさせるかよ!!」

 だが、ニックは雷の鞭を通常の鞭に戻すと、勢い良く森の木の枝に目掛けて飛ばし、先を枝に巻き付け、勢い良く鞭を伝って森へと飛んできたのだった。

「なんたよ、あの野生児!!?」

 セティーは風の力で浮かび、森の中をニックと反対方向へ飛び抜ける。後ろからは次から次へと鞭を飛ばしてターザンのように追いかけて来るニック。

 必死に逃げ、それを追いかけていく二人の姿はどこか鬼ごっこのようにも見えた。


「ッチ!! 逃げられたか!」

 森へ無我夢中に入ったアレスフレイムだが、攻撃を撃ったであろう場所には既にセティーの姿は無かった。

「殿下! 引き返しましょう。森を出て、草原に。カジュからの警告をお忘れですか!?」

「セティーを捕らえるまでは戻らない!」

「殿下!!」

 ノインの説得にも全く耳を貸さず、彼等は森の奥へと進んで行ってしまったのだった。


「もう逃さねえぞぉおおお!!!!」

 枝に絡めた鞭を大きく振り、ついにニックがセティーを目掛けて飛び降りた。

「ぐぁっ!!! 重い! 降りろ、バカ!」

 見事にセティーの背中に着地。ニックは降りるとセティーの片方の足首に鞭を巻いた。

「ほ〜ら、もう逃げられないぜ。クソ兄貴」

「お前と兄弟になった覚えは無い!!」

 鞭を振り解こうとセティーは足を振るがびくともしない。

風ノ強刃(ウインドカッター)!」

 風の刃で鞭を切ろうとするが、

「させるかよ」

 ニックが巧みに操り、セティーを引きずらせながらも攻撃を避けたのだった。

「い………ってえな!!」

 自分に睨みつけるセティーの瞳をニックが見下ろすように見つめる。

「何故邪魔をする! 私とココの父親を奪ったやつなんだぞ! 父上だけじゃない、ココの母親も。他の騎士や魔道士たち、多くの尊い命をアイツは奪ったのだぞ! 嘆き悲しむ残された者の心情を……お前が理解なんて出来ない! 親の記憶の無いお前なんかに、親を奪われたことなど解るはずも無いよな!!!」

 恨みを吐き出すように叫ぶセティーの胸ぐらを掴むと、ニックは容赦無く本気で一発顔面を殴った。

「俺にとってもおっさんは父親だ。血の繋がりは無くても…ッ!」

「だったら何故殺すのを邪魔をするッ!?」

「あいつが泣くからに決まってるだろうが!! そんなこともわからなくなったのか!?」

 互いに胸ぐらを掴み、顔を至極接近し、声を張り上げて感情をぶつけ合う。

 あいつが泣く、ココが5年前に静かになった母親の前に座って泣いていたあの背中をセティーは思い返していた。

「お前が国の王を惨殺したら、捕まるか逃げるかしか未来はない! そうしたらあいつはどうなる!?」

「ココにはお前がッ」

 ニックはさらに強くセティーの胸ぐらを掴み上げた。

「ふざけるな!! お前はあいつにとって唯一残された、血の繋がった家族だろうが!!! あいつを殺人者の妹にするんじゃねぇよ!!!」

「ッッ」

「しかもお前、赤髪の前で殺そうとしただろ。お前の行動は、あのクソ国王と変わらなくなる! お前さっき言ったよな、俺に親を奪われたことなど解るはずもないって!? お前がしようとしたことも、親を奪う残酷な行為じゃないのか!?」

「……………ッ。くそぉおおおおおおっっっっ!!!!」

 セティーは顔を伏せて膝を付くと、握り拳で地面を殴り、爪を立ててぎゅっと土を握る。肩を震わせながら。

 その様子を見たニックは足首に絡めていた鞭を解き、巻いて腰に留めた。


「セティー、帰ろう。ココが待ってる」 


 セティーの前で彼が立ち上がるのを待つニック。

 すると突然、木々が強く揺れ始めた。不自然な風が流れてきたのだった。




「アレスくん!! アレスくん!! 止まって!! 止まりなさい!!」

 カジュの葉を通じて突然必死に呼びかける白薔薇姫。

「姫様、どうしたんですか!?」

 アレスフレイム本人は止まらないが、カジュが聞き、ノインも追いながら耳を傾ける。

「竜騎士がそっちに向かったわ! それも一匹じゃない。一気にロナール国の戦力を潰しにかかってきている!」

 大地の伝達を受けた白薔薇姫が叫びに近い声で警告をする。知らせを聞いた誰もが驚愕して硬直をした。アレスフレイムも、ノインも、カジュも、そして薔薇の迷宮に居るリリーナとココも。




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