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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
102/198

4−2

 ニックがセスナと出会った次の日の深夜、セスナに呼ばれてニックはあるところへ連れ出された。転送神術で見知らぬ場所へと。


 広大な草原だった。


 草原の他には鬱蒼とした森しか見当たらなく、人が暮らす場所からもかなり離れていそうだった。

 風が草を駆け抜ける音が深夜の静けさに妙に響く。


 森の前にニックと同い年ぐらいの少年が立っていた。

「ココは眠ったかい」

「はい」

「セティー、紹介をしよう。この子はニック。私達が不在時にココを守って欲しいと頼んだ。ニック、セティーだ。私の息子だよ」

「こんな子どもにココを守れるのですか」

 開口一番にセティーに蔑まされ、ニックは「お前も子どもだろ」と思いながら彼に睨みつけた。

「お前ならそう言うと思ったよ。だから試験だ。セティー、ニック、今から魔法で全力で戦いなさい」

「なっ!?」

 突然の試合を促すセスナは笑みすら浮かべているが、セティーもニックも戸惑いを隠せない。

「おっさん、俺魔法で戦ったことなんかねーよ!」

「そんなの試合にもなりません! 父上、やるならハンデを付けるべきです」

「いいや、とにかくやってみてくれ。危険を感じたら即座に私が防御魔法で守ることを約束しよう」

「……わかりました」

 ニックは会話中にも乱れるセティーの魔力を探っていた。今から注意すべき魔力の流れを。

「ニック、娘が狙われた時の実践テストだと思って欲しい。全力でいきなさい」

「……わかった」

 草原に対峙する二人の少年。長い前髪の隙間から、ニックはセティーに視線を送り続けた。完全に捕えたかのように。


「はじめ!!」


 セスナの合図と共に二人は身構え、

風ノ強刃(ウインドカッター)!!」

 セティーは容赦無く先制攻撃を仕向けた。風の刃がニックを襲いかかる。


 目に見える物に集中力を奪われるな。魔力の流れを掴むことに研ぎ澄ませろ。


 ニックは両腕をクロスさせると、正面から襲いかかる風を受け止め、腕を広げて弾き返した。

「素手で弾き返すだと!?」

 セティーはこの一発で終わると思っていたため、予想外の展開に動揺を露わにした。

 ならば、とセティーはマントを広げて宙に浮いた。

風ノ強刃(ウインドカッター)!!」

 上から無数の風の刃を振り落とす。ニックは流石に違う形で防がねばならないと咄嗟に判断し、腰に留めていた巻かれた綱をびゅん! と広げ、

雷光(サンダー)ノ鞭(マスティギオ)!」

 雷の鞭に変え、空中に向かって振り回すと、次々と風を払い落としていった。

「くッ……ッ!?」

 ビチッッバチィィッッ!!!

 彼が握る雷属性の鞭は、常に稲妻が辺りを鋭く光らせている。薔薇の茨のように鋭利に。

 セティーは鞭が届かない距離まで身体を浮かせ、

竜巻(トルネイド)封込(ブロキュス)!!」

 と唱え、ニックを竜巻に飲み込ませた。

 忽ちニックは荒風に巻き込まれ、渦に飲まれる。

 風で視界にはほとんど何も映らない。

 だが、魔力は感じる。

 竜巻の向こうに浮かぶセティーの魔力が。

稲光(アストゥラピ)螺旋(スピラ)!!」

 ニックは風の竜巻の内側に稲妻の渦を上に向かって走らせた。そして雷の鞭をぎゅっと握りしめると、力強く振り上げたのだった。

 渦の中の電撃に鞭が絡まる。ニックはぐっと引っ張り、身体を回らせながら竜巻の上へと舞い上がった。日頃ロープで木登りをしながら遊ぶのと同じ要領で。

「抜け出しただと!?」

 セティーが見上げると、闇夜に逆さに浮かぶ少年の姿があった。魔力からセティーの居る正確な場所を察知したニックには、迷う事無くセティーの真上に飛び立った。雲一つ無い夜空から雷鳴が唸る。宙に浮かび、彼の前髪も逆さに上がる。


 セティーもセスナも彼の瞳に吸い込まれ、思考も身体も停止した。闇にも溶け込まない黄金色の瞳に。


 するとすぐに彼の右手がバチバチと音を立てながら光り始め、


雷光(サンダー)ノ矢(ヴェロス)ッッッ!!!」


 一筋の(いかずち)を落とした。

「しまっ……魔法円盾(グライスシールド)!!」

 ハッと我を取り戻したセスナが慌ててセティーの上に魔法の盾を召喚した。間一髪で雷槌が魔法円盾から跳ね返る。

「勝負あり!」

 セスナが試合を終わらせようと声を上げるが、

「落ちる―――――っっっ!!!!!」

 勝者ともあろうことが、ニックが叫びながら落下していく。

「バカか!?」

 セティーが腕を伸ばして風を舞わせ、ニックをふわっと浮かせてゆっくりと草原に降ろした。

「飛べないくせに飛ぶとかバカなのか!? 着地も出来ないくせに何故あんなに高く飛んだ!? バカ!!」

 セティーがニックの横で説教をかます。

「うっせーな! お前の上に行かないと勝てねーと思ったんだよ!」

「それで着地が出来ないとか本末転倒だろう!?」

「俺が勝ったんだから良いだろう!?」

「良くねーよ! 頭を使え、この野生児!!」

 初対面なのに激しく言い合いをする二人の少年を見て、セスナはくくくっと笑い声を上げた。

「お前がこんなに声を荒げる姿なんて初めて見たな」

「はっ、申し訳ございません、父上」

「いやいい、弟がいたらこんな感じだったのかもな」

 セスナは、二人に近づくと、ポケットからある物を取り出した。セスナやセティーの髪と同じ緑色の宝石の首飾り。

「本当は娘に渡そうと思っていたが、君にも必要だ」

 セスナはそっとニックの首にそれをかけてやった。

 すると、セスナは彼の前髪をかき上げ、

「うん、茶色に変わった。これなら前髪を切っても目立たない」

「ほんとか!?」

 ニックの表情がぱぁああっと明るくなると、セスナもにこやかになる。

「ああ。それは魔力の放出を抑える効果がある」

「へぇ」

 ニックはそっと風色の宝石を摘んだ。

「だが、僅かだが、魔法も弱まる。本気で戦わなければならなくなった時は、首飾りを引き千切って開放しなさい」

「おっけーおっけー。なぁセティー、風ノ強刃をちょっとだけ出して俺の前髪を切ってくれよ」

「はぁ? お前父上の話を真面目に聞いているのか」

「聞いてるって。全力で戦う時はコレを捨てろってことだろ。自分で切ると失敗しそうだから切ってくれよ。器用そうだし」

「私は美容師ではないんだぞ!?」

「知ってるよ。次期筆頭魔道士ってやつだっけ?」

「知ってはいるけれど、解ってはいなさそうだな」

「何? 筆頭魔道士様は器用に髪を切る繊細な魔法も使えないんですか?」

 むむむっと意地になったセティーは指先を軽く横に振り、ニックの前髪を美しく切り揃えてやった。

「うぉおおおおっっ! 見易い!」

「ふんっ、有り難く思え」

「ありがとうな! セティー!」

「っ、どーいたしまして!」

 二人のやり取りを見守っていたセスナは手で口元を抑えて笑い声を上げるのを堪えている。まるで兄弟のじゃれ合いを見ている父親のように。



 

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