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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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3−4

「クソッ! あいつ飛んでねぇな。どこだ」

 セティーの魔力の気配がしない。ニックは息を切らしながら転移魔法を繰り返していた。木の上に立ち、遠くを見回す。

 風属性の魔法が使えれば飛ぶことが出来るが、ニックの属性は風ではない。

 空を見上げれば、群れを成して飛ぶ渡り鳥たち。

「………さらに南か」

 ニックはそう呟くと再び転移魔法を唱えてセティーを追うのだった。


 ―――――お前のことも、我が子のように思っているよ。大切な息子だ。


「あのクソ兄貴、会ったらぜってーぶん殴る」




「全く、筆頭魔道士の継ぐ力がお前だけとは非常に残念だ。お前の父親はもっと子を作れば良かったものを」

 愚王カヴィタスの横に座るのは筆頭魔道士のセティー。王の言葉に「ははっ」と軽く笑い、

「女なら誰でもいいと思うタイプでは無かったのかもしれません」

「お前はその力を沢山継がせろよ。婚姻なんかどうでもいい。太陽の丘の魔女を捕えたら、まずはお前との最強の魔力の子どもを作るのだ」

 愚王からの品の欠片も無い発言にも笑って聞き流すのだった。決して目に笑みを浮かべることもなく。

「カヴィタス陛下、間もなく到着しますよ!」

 先頭で爆撃機を操縦するジーブルが興奮した様子で報告をした。

 眼下に広がるのは同色の木々が広がる森と森の入口とも言える草原。二機の爆撃機は草原に着陸をした。

「では、全員降りろ。太陽の丘の魔女を手に入れるまで決して戻って来るなよ」

 自分は降りずに高みの見物をしようと、カヴィタスは胸元から双眼鏡を取り出す。

「陛下」

 席から立ち上がると、セティーが微笑みながら見下ろした。

「ぜひ近くからご覧下さい。私が居るので陛下が危険に合う心配など必要ございません。ぜひ森の真上から、我々の勇姿をご覧下さい。太陽の丘の魔女を捕えた瞬間を、ぜひ近くで見たいでしょう? 何でしたらその場ですぐに彼女を抱いてみせますよ」

 セティーの誘いにカヴィタスは震えながら興奮をし、

「ジーブル、全員降ろした後、機体を森の真上に」

「承知しました、陛下」

 セティーに言われるがままにジーブルに命令をした。

「ほら、さっさと降りろ! 人質が死にたくなかったらなぁ!」

 ジーブルは後ろに座る王専属の騎士団に乱暴に声を荒らげ、降りると後ろに停まっている機体の扉を開き、同様に彼等を降ろしていった。

 アレスフレイムたちも全員降りると、まず彼はエドガーを目で探す。顔色が悪そうだが彼が無事であることにほっと胸を撫で下ろした。

 アレスフレイムたちの前にマントを靡かせながらセティーが立つ。


「ロナール国の貴重な上級魔法使用者の皆さん。迷いの森へ入るのは不安が多いと思います。まずは筆頭魔道士である私が行きましょう。合図を送りますので、その後に続いて森へ来てください」


 不気味なほどに美しく微笑む彼にアレスフレイムは苛つきながら舌打ちをした。

 セティーが彼等に背を向けて迷いの森へと歩むと、ジーブルが再び爆撃機に乗り込み、機体を浮かした。森の真上と。

 それをセティーが眩しそうに見つめる。口の端を上げながら。


「妙だな」

 アレスフレイムが呟く。

「確かに。何を企んでいるのか全くわからない」

 続いてアンティスも呟く。

 勝手に後を付ければ気付かれる。そう思うと迂闊な行動も出来ない。

 アレスフレイムは王専属騎士団に近寄り、

「信じてもらえないかもしれないが、王城から人質を救出した知らせを受けた。あとは俺だけが森へと入るから、お前たちは家族や大切な人の元へ帰って欲しい。信じてくれ、人質はマルスが保護している」

 人質が無事であることを誠心誠意伝えた。

「アレスフレイム殿下がそう言うなら…」

 と王専属騎士団たちがほっとしたり戸惑ったような表情を見せる中、

「彼女の無事をこの目で確かめるまでは、私はこの場から逃げられません」

 リーダーのプロディオだけが頑固として拒んだ。

「森に入るのは自殺行為だ。大切な人に再び会うためにも己の命を粗末にしないで欲しい」

「それで彼女の居る牢屋が爆発されれば後悔しか残りません。私は誰に何と言われようとも任務を全うします!」

 第二王子の説得にも応じない。リーダーがそう言うなら、と他の騎士たちも森へ行こうと留まっている。

「カジュ、転送神術は使えるか」

 ノインが小声でカジュの葉に話しかけた。

「ああ、姫様のようにいくつも魔法陣を同時には出せないが」

 いざとなればカジュに強制的に王城へ戻してもらおうと考え、アレスフレイムに目を合わすと、彼も頷いて応えた。


 その時だった。


 巨大な魔力を感じたかと思ったら、森から黒い風の砲弾が一直線に打ち上がった。


 愚王カヴィタスが乗る爆撃機を目掛けて。


「親父ぃいいいいいいいい!!!!!」

 魔法で守りたくても風の速さに頭も追いつくことが出来ず、アレスフレイムはただ叫び声を上げることしか出来なかった。


 一方、直前の森では。


 セティーの周りに渦を巻くのは黒い風。

「父上の仇………っ! 破壊(ディストラクション)ノ風(ウィンド)!!!!!」

 正に5年前と同じ方法で、彼は森から破壊兵器を打ち壊そうとした。不要な戦争と引き換えに、命を失った父親の敵討ちのために。

「死ねええええええ!!!!!!」

 憎しみの叫びは森中に響き渡り、木々を荒々しく揺らした。


 風が機体を撃ち落とそうとした瞬間、


 ドゴォォオ!! バチバチバチバチバチバチィィ!!!!!


 天空より幾つもの雷が落ち、憎しみの風を光らせながら蹴散らした。


「何で…………何でだよぉおおおお!!!!!」


 彼は知っている。筆頭魔道士である自身の力に唯一勝る彼の存在を。


 ローブとマスクで身を隠した青年が息を切らしながら機体の上に立っていた。




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