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魔物討伐会終了(1)

 これにて魔物討伐会は無事終了いたしました。そして、私はソロでありながらトップの成績を収めることができました。


「ここに魔物討伐会の終了を宣言する!」


 団長様の終了宣言。そしてここからは終了と生き残ったことを称えるための宴が催されます。私は狩った魔物の肉を進呈します。勝者からの贈り物といったところでしょうか。それが優勝者の伝統のようなもの。お肉はもちろん、お酒も私は提供します。魔物討伐で支払われるお金をお酒類に変えていただきました。今夜は無礼講ですわ!


「今回の優勝者のアリスですわ。今回の狩りは例年より大変だったと聞いています。そんな中生き残った皆様の武運を称えて、私からはささやかな贈り物です。皆様思う存分宴を楽しんで下さいな!」


「おう! 今年の優勝者は太っ腹だぜ!!」


「食うぞ! 飲むぞ!!」


 この分だとすぐに無くなりそうですわ。料理もお酒も凄まじい勢いで無くなっていきます。そう、これが本来の姿なのです。こうして生き残ったことをお互い喜び、亡くなった者を弔う。それが、魔物討伐会終了後のあるべき姿。そして、優勝者は率先して行うもの。それをライウス様は全て自身に換金した。私の取り分を還元してほしいと言ったら、そんなものは無駄と言って聞き入れては下さらなかったのですよね。


「よう、優勝者! 旨い酒と肉に感謝するぜ!」


「前回は対して振る舞われなかったからな。こんなにありつけるなんて思ってなかったぜ」


「楽しんで頂けて何よりですわ。遠慮なく飲んで食べて下さいな」


 こうやって現役の冒険者に触れる機会は貴族令嬢にはそうありません。私はこの空気が好きです。喜びも悲しみも分かち合い、交流を深め、情報の交換なども行われているようです。お母様もそうだったと聞いています。だからこそ、大事にしたいのです。何より、国のために命がけで働いてくれたのです。それを忘れてはいけないのです。

 ただ、お酒が回るとそのうち喧嘩になって流血騒ぎになって阿鼻叫喚になりますが、それも無礼講ということにしておきましょう。


「お疲れ様、アリス」


 リットお姉様が後ろから抱きしめて下さいました。


「紅蓮の矢の皆様。お疲れさまですわ」


「凄まじい活躍だったわね。マリアお姉様を思い出したわ」


 リットお姉様に褒めていただきました。


「それにこんな風に戦利品を振る舞うなんて誰にでもできることじゃないわ」


 頭を撫でてもらいました。


「お前、アリスは貴族だぞ」


 ゾルア様がそうおっしゃいましたが私は気にしません。


「この場においては貴族ではなく一人の魔法士ですわ。そのように扱って下さいませ。そのほうが嬉しいですし、ただのアリスでいられますから」


「……そうか」


 納得して下さいました。


「それにこうしておけば恩を売れますから」


 こうして大盤振る舞いする理由。それは私一人では消費しきれないというのもありますし、お金にも困っておりません。あると叔父様に使われるだけですし。国もギルドもそんなにたくさんの報奨金を用意しているわけではありません。だからこそ、お酒や料理に変え、ここに買い付けに来ている商人に直に売る。そうすることで冒険者にはご馳走を、商人には良質な商品を、国とギルドには予算を抑えられ、恩を売ることができるという戦法ですわ。


「やり方がエグいな」


「敵に回せないな」


「さすがお姉様の娘ね」


 などとお褒めの言葉をいただきました。もう少し皆様とお話をしていたいのですが片付けなければならない問題が残っています。


「皆様、申し訳ありませんが、私は片付けなければならない問題がありますので失礼しますわ。またお会いできますか?」


「ああ、森の監視の仕事をギルドから受けてるからな。一週間以上はいるから、ギルドにでも言付けてくれ」


「わかりました。またお話聞かせて下さい。皆様も宴を楽しまれて下さいね」


 そう言って紅蓮の矢の皆様とは別れました。

 私が片付けなければならない問題は治療用の天幕にある。


「シャリアお姉様」


「来たのね、アリス」


 治癒魔法士として参加していたシャリアお姉様は治癒魔法士の白のローブを纏っています。他にも同じローブを纏った方達がやつれた顔をして片付けをしている。今回も怪我人は大勢出たのですね。


「様子はどうですか?」


「傷は大したことないわよ。回復もしているわ。けどね、精神的なショックのほうが大きかったみたいね。全員目が覚めてから放心状態だったわ」


「それは私のせいですか?」


「自業自得よ」


「ですよね!」


 笑顔のお姉様に笑顔で返事を返します。和やかな雰囲気なのですが周囲の皆様は顔色が悪くなる方が多くいました。なぜでしょう?


 私はお姉様の案内を受けて天幕の奥、魔法士達の控所に通された。


「……お姉様、放心状態とはどのことを言うのでしょうか?」


「変ね、私が見たときはそうだったんだけど?」


「ものすごい殺伐とした雰囲気ですわ」


 仁王立ちの団長様。その前で小さくなる黄金の鐘の皆様。

 ここだけ別世界と表現できるほどです。


「これはどういうことかしら?」


 近くにいた魔法士が緊張しながらもお姉様に答える。


「しばらくは皆呆然としていたのですが、ローズアリス様の優勝を聞いてライウス・オーヘルがローズアリス様や他のメンバーに責任転嫁を始めまして、そこからは罵り合いが繰り広げられ、武器や魔法の使用にまで発展しそうになったところで団長様の「うるさい!」の一言で黙らせて今に至ります」


 魔法士は一礼して仕事に戻りました。


「団長様は苦労が絶えないわね。どうしてかしら?」


「師匠に気に入られたのが原因ですわ。絶対」


「そう思うなら面倒事を増やすな、持ち込むな」


 噂の団長様のお出ましです。疲労の色は見えますが、まあ大丈夫でしょう。団長様の他にもう一方おられました。知った方ですわね。


「こいつが誰か知っているな」


「雑な紹介だな。同じ苦労を味わう仲だっていうのに」


「ご無沙汰しております。イングラド王国冒険者ギルド、ギルド長カセル・ロージャー様」


 私はコートを上げて礼をする。


「そんなものは不要だっていつも言ってるだろう。いつもどおりカセルおじ様で頼むな」


「はい、カセルおじ様」


おじ様は私の頭を撫でます。傷だらけのゴツゴツとした手が歴戦の英雄を語っています。お顔の傷もその証。筋肉もこの中で一番着いていますし、貫禄もあります。ですが、普段は気のいいおじ様です。


「しかし、想像以上の結果だな」


「ああ、アリスの暴走を抜きにしても酷い有様だ」


お二人はどこまで深いため息を吐きます。


「ライウス・オーヘル。色々説明してもらうぞ」


あからさまに目をそらすライウス様。しかし、睨みをきかせているのはハクマン団長とカセルギルド長。逆らえる理由などありませんし、公爵家令息として身分をかざそうにもシャリアお姉様がいます。この中で一番身分が高いのは公爵令嬢であり、王太子の婚約者であるお姉様です。今、この場においては身分など関係ないに等しいわけです。何も言わずに笑顔でおられる姿が一番恐ろしいとも言えますが……。


「まず、素人二人がいるのに金を出し惜しみしたこと。それは流石にケチらないと思ったがな。何で登録料を払わなかった? お前の稼ぎや家の金を使えば問題なく払えたはずだ。それなのになぜそうしなかった? きっちり説明してもらうぞ」


おじ様に睨まれてそれでも答えようとしないなんて。どこにそんな胆力があったのでしょうか? もう少し他のことに使えばいいものを。


「お早く話した方が身のためでしてよ。ライウス・オーヘル」


お姉様も援護します。


「全ては調べてあります。それらを語ってもこちらとしては構わなくてよ?」


そこまで言われてやっとライウス様に動きがありました。私を睨みつけてから、大声で捲し立てます。いつもの決まり文句を。


「全ての原因はお前じゃないか!? お前が初めから俺に言うことを聞いていればこんなことにはならなかった!」


この期に及んでまだ言いますか? この方の認識能力はどうなっているのでしょうか?


「お前はいつもそうやって土足で踏みにじる!」


何を踏みにじるというのでしょうか? この方を踏みにじるようなことをした覚えはありませんのに。


「まだそんなことを言うのですね」


お姉様が静かにお怒りです。表情は笑顔のままですが、背後から滲み出る怒気によって怒りを表す。怒ったお姉様は謝っても許してくれません。それは身をもって知る私達はライウス様に同情する。

ライウス様、私を怒らせておくだけの方がマシだったと私も同情します。


「いつまで子供のように駄々をこねるのですか? パーティーのリーダーになったからにはメンバーの命を背負うのはリーダーの勤め。それを放棄して、その責任を関係ないアリスに背負わせるなんて。それでもこの国の貴族の令息ですか? あなたは人の上に立つということを理解しているのですか? 劣等感を感じたところで目に見える努力もせず、アリスの才能や能力に嫉妬したところで無駄だとなぜ気づきませんか? 己の長所も生かさず、嫉妬ばかり。あなたを信じていた仲間も裏切り、愛した女性も盾にするような人間についていくものなど誰一人としていません。何よりあなたのしたことは全て調べがついています。大人しく自身の口から話すか、私達に語らせるか、それだけの違いです。ですが、それを許すほどの時間はありません。これ以上あなたに費やす時間が無駄です」


よく通る澄んだ声が響きます。静かにですが確実に。でもそれは私達にだけ。肝心のライウス様は顔と目を真っ赤にしているだけ。今にも泣き出しそうですわ。


「ですが、今一度だけ聞きましょう。ライウス・オーヘル。あなたはどうして参加料を払わなかったのですか?」


「……っ」


ここまで言っても何も答えません。ですがこれが答えなのでしょう。


「……パーティーの運営資金に手を出したの?」


この中でいちばん気弱なコリンさんが確信をつきます。ライウス様は思ってもみなかったのでしょう。お口をポカーンを開けて、その後すぐに得意の言い訳が始まります。


「そ、そんなわけないじゃないか!? なぜ俺が運営資金に手を出すんだ!? その金は全てギルドに預けてあるんだぞ。それともお前には俺がそんなことをする人間に見えるのか?」


私には見えますわ。


「参加料を払えないっていうのはそういうことだと思う。二人が何も言わないのは君に対する期待がまだ残っているから。だけど、僕は違う。君が僕に声をかけてきたのは偶然だと思う。だけど僕は君に誘われたからパーティーに入ったわけじゃない。ハクマン団長の教えを乞う君に興味があっただけ。上手くすれば僕も魔法を教えて貰えるんじゃないかっていう打算もあった。期待はずれだったけど」


コリンさんがここまで本音を語るのは初めてですわ。ですが、これで納得しました。コリンさんはライウス様の目を盗んでは私に話しかけてきました。その内容は魔塔や魔法のこと。それらを楽しく語らっているとライウス様が邪魔をしてきていましたわね。なので、最近はあまりお話しなくなっていましたわ。


「お前、魔塔に入りたかったのか?」


「そうだよ。魔法士なら憧れる場所の一つだよ。でも、兄がすでに所属している。弟の僕まで入る必要は無いと言われて諦めた」


今日のコリンさんは饒舌です。ですが、本来はこういった方なのでしょうね。

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