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黄金の鐘

体調を崩していて更新が遅くなりました。

皆様も体調には気をつけてください。

 転移されてからライウス達はまだ大型の魔物とは対峙していなかった。しかしそれも時間の問題だった。あちこちから悲鳴が聞こえてくる。そのたびに逃げ出したくなる衝動を抑える。守るべきものがあると言い聞かせる。それらを決して悟られないように繕う。


「このあたりは大した魔物はいないようだな」


 剣士のザムナが言う。


「俺達にビビって出てこれないだけじゃねえの!」


 同じく剣士のレックが続く。


「でも油断しないほうがいい……」


 魔法士のコリンはおどおどしながらも冷静だった。


「何だよ、それ。俺達にはライウスがついてるんだぜ? 大型の魔物だって問題ねえよ。な、ライウス」


「あ、ああ。もちろんだ」


 ライウスは少し焦っているようだが悟られないよう注意する。


「さすがライウス様です」


 ミューラはライウスの背に守られている。そのミューラに褒められてやる気を出す。


「コリン、キリム。魔物の気配を感じるか?」


「自分は強い気配を感じません。コリン殿はどうだ?」


「ぼ、僕も。でも嫌な感じはしてる」


 二人がそう言うなら問題ないと一度足を止める。


「ここで休憩にしよう。この先どんな魔物と遭遇するかわからない。休めるときに休もう。なれないミューラもいることだしな」


 息切れしているミューラを気遣う。


「申し訳ありません。足を引っ張ってしまって。皆さんだけならもっと魔物を倒していけるのに……」


 申し訳さなそうに瞳を潤ませる。


「そんなことはない。俺も討伐会は初めてだ」


 キリムはミューラをフォローする。


「え、そうなのですか?」


「基本、騎士見習いになってから参加するのが原則だ。俺はライウス様達と違って冒険者登録はしていないからな」


 キリムとミューラは王命で参加することになった。でなければ冒険者でもない二人が参加することはできない。


「そうですよね。私とキリム様は国の命令で参加させられたんですよね。ローズアリス・カルマ令嬢のせいで」


 謁見の間でのことを思い出して腹が立つ。しかしそれを表情には出さず、あくまでもか弱い令嬢を演じる。


「ああ。ミューラに嫉妬してこんなことをしでかすとは。本当に情けない」


 ライウスはわざとらしく大げさに言う。それに誰もが同意し、納得。ミューラに同情する。しかし、一人だけ違った。


「ローズアリス・カルマはそんな人じゃない」


 珍しく口答えするコリンにむっとする。


「なぜそんなことが言える? お前にアリスの何がわかる? 婚約者の俺が言うんだ。それを信じずに何を信じると言うんだ? それにアイツを庇ってやるほど親しい間柄とは思えないが」


「……あの人は君に興味なんてない。僕らに対しても笑って頷いていたのはどうでもいいって思ってたからだよ」


 コリンの言葉に怒りを募らせる。


「どうしてそう思うんだ? アリスが俺に興味がないと」


「……同じ目だから。僕の家族が僕を見る時と同じ目をしてた」


 そう感じていたのはコリンだけじゃない。そして、それを理解できないのはこの場でライウスだけだ。


「それに君にどうしても聞きたいことがある。ライウス、君は本当に黄金の魔法士なの?」


 その場は静寂に包まれる。夜の深い森と闇の中でコリンの言葉だけが駆け巡る。


「今の君からはたいした魔力を感じられない。むしろ僕のほうが魔力が強い気さえする」


「どうしたんだ、コリン? 急にそんなことを言い出して」


 レックがからかうように言う。


「そうだぞ。それに今はそんなことを言ってる場合じゃないだろう」


 ザムナも止めに入る。

 キリムはただ静観し、ミューラはおろおろする。

 肝心のライウスは一言も発さず、拳を握る。


「君は黄金の魔法士として輝いていた。その自信や強さに憧れた。でも本当はわかっていた。もっと早くに言うべきだったのかもしれない。こんな馬鹿げたことに巻き込まれる前に」


 あまりにも辛辣な物言いにライウスの性格をしるザムナとレックは慌ててコリンを止めようする。しかしコリンは止まらなかった。


「君の魔法士としての実力なら魔塔からの冷遇なんてありえない。後継者として名乗りを上げても問題ないはず。そうすれば望まない結婚なんてしなくても済むのに。でも君はそうしない。それができないから。君には、魔法士としての才能も能力もない。全部ローズアリス・カルマの魔法を君が使ったように見せかけていたんだろう? 全ては彼女の力。本当の君は偽りの魔法士だ」


 そうはっきりと言い切る。ライウスを見る目にも迷いはない。


「言いたいことはそれだけか?」


 ライウスは笑っている。


「何を言うのかと思えば、よくそんな憶測で仲間を疑えたものだな。何より今は戦いの最中だいうのを忘れたのか? 話があるなら討伐会の後で聞く。それでいいだろう?」


 コリンの肩に手を置くがその手には力が込められていた。ライウスの怒りがそれだけで伝わってきた。

 顔を青ざめさせるコリンを見て満足そうな顔をする。


「さあ、休憩は終わりだ。一匹でも多くの魔物を狩るぞ!」


 そう言ってミューラの手を引いて歩き出す。他のメンバーも付いていくがコリンはその場に留まる。いや、震えて動けないのだ。そのことに誰も気づかない。


「逃げてっ!!」


 コリンは人生で初めてと言っていいほどの大声で叫ぶ。

 ライウス達は振り返り魔物の気配を察したザムナ達は戦闘態勢に入る。しかし、魔物の姿を目視することはできない。そのことにライウスは一人で油断した。


「何だ、魔物なんていないじゃないか。コリン、仲間を惑わせるのもいい加減にしろ!」


 そう言った次の瞬間、異常なほどの血と獣の臭いがした。


「嘘だろう。超大型の魔物が出るなんて聞いてないぞ……」


 レックは震える足で戦闘態勢を保っている。

 他のメンバーも現実を受け入れられずにいた。各々震えや冷や汗が止まらない。


 姿を表した巨大な熊の魔物。

 口元や爪には血がついている。それはこの辺りの魔物や人間を食べたからだ。だからライウス達は魔物と遭遇しなかった。

 あらかた食べ尽くした魔物は満足せず、新しい獲物を求めてライウス達の前に姿を表した。


「どれほど食べればあんな邪悪になれるんだ……」


 ザムナが言う。


「でもさ、あれ倒せたら俺らの優勝じゃね?」


 そんなことをレックが言い出す。


「そうだな。なあ、ライウス。あれを倒して優勝して、汚名を返上しようじゃないか!」


 ザムナも続く。


「ライウス様、やりましょう」


 キリムも加わる。

 逃げることよりも戦うことを選んだ姿を見てコリンも参戦する。

 こうなってしまっては逃げることもできない。ライウスが判断する前にザムナが動く。


「いつも通りに行くぞ!」


 ザムナが前線で指揮を取り、レックが素早い動きで翻弄し、コリンが魔法で支援する。そこに今回はキリムも加わり、最後にライウスが止めを刺す。それがいつものパターンだった。しかし、ライウスはいつもの自信はなく、震える足を誤魔化すようにその場を動こうとしない。


「……ラ、ライウス様?」


 ライウスに庇われているミューラも恐怖で動けない。そんなミューラを気遣うほどの余裕もライウスにはなかった。暗くてはっきりとはわからないが顔は青くなっているようだとミューラは思った。


「ぐはっ!」


 レックが倒され、救出に向かったザムナも深手を負う。意識はあるようだが、戦うことは不可能だ。


「ライウス様! ご指示を!」


 二人から熊の魔物を離そうと前に出て戦うキリム。コリンはキリムに最大限の強化を施す。そのせいで魔力は底をつきかけている。魔力不足で立っていることができず、片膝をつく。


「ミューラさんは二人に回復魔法を!」


 コリンが叫ぶがミューラは動かない。


「……か、回復魔法……?」


 そうポツリと呟くだけで魔法をかける気配はない。


「そ、そうだ! ミューラ、早く回復魔法をかけるんだ!!」


「そ、そんなこと言われても、急には無理です……」


 ライウスのどこか攻める口調を気にしながらも弱々しく返事を返す。

 そんな姿を見てコリンもキリムも仕方ないと思うもそんな状況ではないことを考える。

 キリムの中にもライウスに対する疑問が浮かび上がり、戦いに集中しきれていない。コリンの強化魔法もじきに解ける。そうなれば全滅だ。そうならないための道は一つだった。


「ライウス様! 転移魔法を使うのです! 今の我々に敵う相手じゃない!」


 キリムがそう進言する。この状況では逃げても責められることはない。そう考えた。それほどまでにこの魔物は強い。そう言えば最悪は免れると考えた。しかし、それすらもライウスは行おうとはしない。


「ライウス様!?」


 抱いた希望も絶望に姿を変えようとしていた。


「ぐっ!!」


 キリムにかかった魔法は解け、強化された反動で力が一気に抜ける。もはや戦う力など残さてはいない。それでも、逃げ出さず剣を構える。


「キリム様!?」


 魔物の爪がキリムに襲いかかる。しかし逃げようとしないキリムにミューラは叫ぶ。

 魔物の爪はキリムの喉元で止まり、標的をライウス達へと変えた。


「えっ、嘘っ!? こっちに来る! ライウス様!!」


 ライウスに守られていたミューラは更にライウスにしがみつく。そんなミューラを安心させるように微笑み、その手を握る。

 もう大丈夫だと安堵したミューラだった。しかし、次の瞬間現実を疑った。


「ライウス、様……?」


 ライウスはミューラを突き飛ばし、魔物の前に置き去りにし、自分だけ逃げたのだ。

 離れていくライウスの背中を目で追うも、振り返ることもない背中に言葉を失った。


「ミューラっ!!」


 キリムが叫ぶ。

 ミューラの目の前まで迫っていた魔物の爪はキリムを薙ぎ払った。ミューラに当たる直前にキリムがかばい、血を流しながら中を舞い、地面に叩きつけられた。


「キリム様? キリム様ーっ!!」


 動けないミューラは叫ぶことしかできなかった。

 その声を聞いてライウスは逃げる足を止めて振り返る。倒されたキリムをただ見ているだけだった。今度こそ、魔物の爪が、牙がミューラに襲いかかろうとしていた。

 腰が抜けて動けないミューラは目をきつく閉じて、死を覚悟することしかできなかった。


「あらあら、見事なやられっぷりですわね。黄金の鐘の皆様」


 聞き覚えのある声にミューラは恐る恐る目を開ける。


「だから言ったのですわ。そんな格好では動きにくいですよ、と」


 そこにいたのはこんな状況にも関わらず美しい笑みを浮かべるアリスだった。


「ロ、ローズアリス……様?」


 ミューラはその笑みに安堵すら覚えた。

 そんなアリスの視線は離れたところから様子を伺っているライウスに向けられた。


「無様ですわね。惚れた女一人守らず、自分の身を第一に考えるなんて、私には真似できませんわ。そんなクズ、さっさと魔物の餌になってほしかったですわ。本当にこのクズ男」


 その顔からは笑みが消え、汚いものを見るような目でライウスを見ていた。

 ライウスは全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。

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