魔物討伐会(3)
一人回想にふけっていると魔力が少し漏れていたのかゾルア様は慌てて話題を変えた。
「ここで会ったのも丁度いい。俺の仲間を紹介させてくれ」
「ええ、ぜひ!」
他の方にも会えるなんて楽しみです。
「おーい、お前ら! こっち来ーい!」
「それが仲間を呼ぶ時の掛け声かよ〜。犬猫じゃないんだからな〜」
そう言いながらやって来た四人の男女。
「この子はマリアの娘のアリスだ」
随分ざっくりと紹介をされました。
「ローズアリス・カルマです。よろしくお願い致します」
ゾルア様にしたように礼をする。
メンバーの皆様、ではありませんね。お一人を除いて驚いたように目を見開いて私を見ています。
「マリアお姉様の娘……」
紅蓮の矢のメンバーの女性に抱きしめられました。
「マリアお姉様の娘なら私にとって妹も同然よ! 私のことはリットお姉様と呼んで頂戴」
いきなりの展開についていけませんが、お母様はきっと偉大なことをしたのでしょう。
「お心遣いありがとうございます。リットお姉様」
リットお姉様はプラチナブロンドのスレートの長い髪が美しく、目鼻立ちもスッキリしていてスタイルも抜群で高身長です。
「何ていい子なの!」
感激の涙を流されてまた抱きしめられました。香水とは違う花の香りがします。
「マリアより質が悪いぞ」
団長に失礼なことを言われましたがリットお姉様には聞こえていないようなので問題ありません。
「ちゃんと自己紹介しろよ」
ゾルア様の一言にリットお姉様は私を離して姿勢を正して咳払いをしました。
「失礼したわね。つい嬉しくて。私はリット。このパーティーの回復と後方支援を担当してる魔法士よ。マリアお姉様には魔法を始め色々なことを教わったの」
「そうだったんですね」
リットお姉様は少し悲しそうに微笑んでいます。きっと私とお母様を重ねているのでしょうね。
「俺はガルク。前衛担当ね。よろしく〜」
こののんびりとした人が前衛とは。武器はナイフのようです。細身で身軽そうです。
「マト。斥候。よろしく」
この口数の少ない方が斥候。目に強い魔力を感じます。それで斥候というポジションなのでしょう。見えすぎる目はかえって不安を煽るものです。見た目も身長が高く、威圧感があるようにも見えます。
「最後はあいつだ」
そう言ってゾルア様が指さした方はマントを深く被り、顔も姿も完全に隠している。もちろん魔力も。あのマントは魔法具。魔力や姿を誤魔化すよう作られているようですね。
「フィーロ。お前が最後だぞ」
バンと背中を叩かれて前に出される。
フィーロ様のお顔は拝見できませんが美形であることと男性であることはわかります。
「フィーロ。魔法士だ」
声も素敵だと思ったことは内緒にしないといけませんね。私が他人に興味を示したとわかれば後々うるさいですから。
「ローズアリス・カルマですわ。私も魔法士ですの。よろしくお願いしますわ」
フィーロ様は頷くだけ。それ以上の会話はなかった。後は談笑でもと思っていたら。
「アリス。話したいことがあるのだがいいだろうか?」
ライウス様が話しかけてきました。
「私は話すことはありませんわ。それにライウス様と話すよりも紅蓮の矢の皆様に様々な話を聞きたいです」
そう言うとグッと言葉を飲み込んだようでした。
「それと、アリスと名前で呼ばないで下さい。私達の婚約関係は破綻したのですよ? それなのに、そんな風な態度では意中の方に誤解を招くでしょう? 何より私達はこれから勝負が控えているのです。不正を疑われるのは嫌ですわ」
「そ、そんなことにはならないだろう? 俺達の勝負なんだから……ヒッ!?」
そう言うとライウス様から怯えてたような声が発せられました。
私の後ろで睨みつけている方がいるからでしょうか?
「ねえ、アリス。始まるまであっちで話でもしましょう。マリアお姉様の話を聞かせてあげるわ」
「それはぜひ、お願いしますわ!」
リットお姉様の提案を受け入れた。
ライウス様は男性陣に睨まれて身動きがとれません。そこへ空気を読まない発言が飛んできました。
「そんな態度はないと思います!」
ミューラ様が割って入ってきました。この状況で割って入って来るなんて、神経が太いのか、胆力があるのか、単細胞か。
「どれがでしょうか?」
「どれがって……?」
「ライウス様への態度に対してそのように思われるのですか?」
ミューラ様は固まってしまいました。すぐに持ち直しましたが。
「どれもです! ライウス様は公爵家の令息です。そんな方へのあの態度。恥ずかしくないのですか?」
いったい何に対して恥だというのか。
「恥だなんて思いません。私は挨拶をしただけですわ。それは礼儀でしょう? それすらも無視してもよかったのですわよ? それに恥だと言うならこれから勝負をしようというのに話せないかと声をかけてくるライウス様のほうではありませんの?」
そう言ってもミューラ様は食い下がってきます。
「そ、それに、その格好! 貴族令嬢として恥ずかしくないのですか?」
は? 格好ってまたズレたことを。
「これのどこが恥ですの?」
私は自分の姿を見てからリットお姉様のほうを見る。
「似合ってるわよ」
そう言ってもらえました。
「足をそんなに出して、はしたないですわ!」
ああ、そういうことですね。まったく、ここをどこだと思っているのやら。
彼女は貴族女性として言いたいようですがここは戦場と同じ。そんな場で長いスカートに広がった裾に高いヒールなんて履いていられるわけがない。
「デリスト令嬢はここがどこかわかっていないのですね。ここはこれから魔物を狩る戦場となります。それなのに、ドレスで戦えと? 場合によってはそうなるでしょう。社交界ではドレスが立派な武器ですから。ですが衣装を選べるのならその場に相応しい格好で望むべきではありませんの? それにあなたの言葉はここにいる女性冒険者の皆様を馬鹿にしているのと同じですわよ」
冒険者の方達は彼女の言葉で言うなら露出が多い。ですが、動きやすさを重視した結果でもあります。まあ、過度に露出してる方も中にはいますが。
私の装いは黒を基調としたもので、膝まであるロングコート、ロングブーツ、膝上までのスカートという装いです。シンプルすぎて可愛くないと言う理由からリボンやレースをあしらっています。シャリアお姉様の意志で。それに何重にも魔法をかけていて、歩く兵器とまで言われる代物を目の前にしてもあの反応。やっぱりこの方は……。
そう考えているとライウス様がミューラ様を庇うために声を荒げます。
「やめないか、アリス! ミューを怖がらせるな!」
また的はずれなことを。それに彼女は怖がってなどいないと思いますが。私のことを巻き込んだ責任を取れという感じで恨めしそうに睨んでますのに。
「怖がらせてなどおりませんが? デリスト令嬢の疑問に答えたまでですわ。あ、私はまだ答えてもらっていませんが?」
怖がらせるなと言うなら淑女らしい笑顔で対応します。それなのに、そのほうが何故が怖がられているような気がします。それならそれでいいですが。
「お話がそれだけならこれで失礼します。またお会いしましょう。あ、一つだけ。私の衣装に関してですがデザインは仕立て屋に依頼しました。それにこれは冒険者の間では定番のデザインです。色は私の指定ですの。返り血を、浴びても目立たないようにしてほしいと。それではごきげんよう」
そう言い残してその場を離れます。紅蓮の矢の皆様と合流です。
「何なの、あいつら」
そう言うのはリットお姉様。綺麗なお顔が歪んでしまっています。
「申し訳ありません。元婚約者がポンコツで」
「すまんな。ポンコツな甥で」
私と団長が謝るという図ができてしまいました。
「あれが旦那の甥か。似てないな、何もかも」
ゾルア様にそう言われて長いため息をつかれました。
「というかあれが黄金の魔法士なんだろう? そんな風には見えなかったけどな〜」
ガルグ様の指摘は当然なのですがこの場で答えることは出来ません。
私と団長が黙り込むのをみて皆様察して下さいました。
「婚約辞めて正解ね。あんなのと結婚したらお先真っ暗よ」
リットお姉様の言葉に皆様頷かれています。私も同感なので一緒になって頷きました。
「だがいいのか? あいつら死ぬぞ」
フィーロ様が断言されました。彼らを心配してのことかはわかりませんが、言っていることはまともで少し驚きました。
「そうなっても仕方ないかと。彼らも冒険者ですもの。その辺りは自己責任ですし、許可は得ていますから」
「いいのか? 死んでも……」
「そうならないよう国の考えた仕組みがあるのです。それを無視すればどうなるのか分かっているでしょうし、分かっていてやったことならそれこそ自己責任です。それに何より、私の知ったことではありませんわ」
私がそこまで言いきるとフィーロ様以外の皆様は声を上げて笑い出しました。
「さすがマリアの娘だ! フィーロ、お前の負けだ!」
ゾルア様がフィーロ様の背中をバンバン叩きます。
「勝負をしてた覚えはないがっ」
背中がとても痛そうです。
「お前、アリスが何も知らない貴族令嬢だと思ったんだろう? その時点でお前の負けだ。まあ、実力は見てのお楽しみだ。それでいいか?」
「私は何でも構いませんわ。それにフィーロ様」
フィーロ様と目を合わせます。フードから少しだけその目が見えました。
「私はここにストレス発散をしに来ているのです。狩られる魔物達には申し訳ありませんが溜まりに溜まったストレスを発散させていただきますわ!」
声高らかに宣言する私にフィーロ様は引いていました。けれど、気にしてなどいられません。ストレスを溜め込むのはよくありません。適度に発散しないと体に悪いですから!
「……今日ここに現れる魔物に同情する」
ボソッと小声で発せられたそれを聞こえないふりしてやり過ごしました。何故なら私も魔物に多少同情しているからです。
それから時間になるまで皆様のお話を聞いてリラックスすることができました。




