魔物討伐会(1)
私の提案通り事は進み、ついに魔物討伐会が開催されます。
日が沈みかけるようとしている会場はすでに多くの参加者や関係者で溢れています。
私は受付を済ませるため、会場にある窓口を目指します。
「あ、あそこですわね」
人の列がある場所。それが受付窓口。私は列の後ろに並びます。
「お願いします」
受付を担当するのは魔塔の魔法士。当然顔見知りですわ。
「ソロでの参加でよろしいですよね?」
「もちろんですわ」
そうはっきり言うと乾いた笑い声が返ってきました。
「では、こちらにお名前をお願いします。詳しい説明は必要でしょうか?」
「必要ありませんわ」
これは契約書。参加にあたっての細かな契約内容が記載されています。この紙に名前を書くと名前が光を放ち、契約完了となる。
この紙は魔塔特性の魔法がかけられている。名前を本人が書くことで契約が結ばれる。契約内容の中で重要な項目、命の危機に瀕した時やこれ以上の継続は不能と自己判断を下した時に、ここにある転移陣に転送されることになっているのです。治療が必要な場合はきちんと治療を受けられるよう魔法士が待機していて、転送されればすぐに治療が始められるため、死者を減らすことに繋がりますの。
「参加料を徴収いたします」
そして、この素晴らしい仕組みをタダで受けられると思いませんよね? もちろん参加料がかかります。冒険者やこの日限定のパーティー、傭兵や個人参加の人のみ発生します。料金は一人につき金貨三枚。金貨三枚は少し値がはるかもしれませんが、参加者を絞るためでもあるので仕方ありません。昔、新人冒険者の訓練の場にした馬鹿な方がいたそうです。稼ぎの場にはいいでしょう。ですが、魔物のレベルが高すぎて死者が多く出てしまい、新人では簡単に払えない額にしたそうです。
金貨三枚はある程度レベルの高い冒険者でなければ稼げませんから。
これで命が守られるのですから安いものですが、中には払わない人もいます。その場合は命の保証はしないという誓約書にサインします。そうすると魔物に襲われても助けてもらえず、餌になるしかありません。運よく国の騎士団や魔法士に助けられる方もいますが、生き残ってもその後にかかる治療費などは自己負担。怪我の後遺症と借金だけが残るという結末を迎える方もいます。
それらのリスクを理解している人は金貨三枚など惜しみません。魔物を多く、もしくは質のいい魔物を討伐すれば国や冒険者ギルドが買い取ってくれます。個人で取引先を決めている人もいますし、そうすれば金貨三枚など簡単に取り戻せる。それほどまでにこの討伐会はいい稼ぎの場なのです。
私はカルマ家の後継者として師匠の弟子として何度か参加しています。ですから討伐会のことはよく知っていますし、予習もしてきました。
「こちらがローズアリス様の印になります」
この印は倒した魔物につけるものです。そうすることで自分が倒した魔物がわかるようになっています。
これも昔どちらが倒したのかという揉め事があったそうです。それで印をつけることになりましたが、横取りというものは後を絶たず、倒した本人などが印をつける前に別の人がつけてしまったりして人間同士の争いにも発展したそうです。その対策として印を武器につけるというのが主流になりました。そうすれば倒せば自動的に印がつけられるようになっているのです。
魔法士は魔法に混ぜて印をつけられるようになっています。できない人は短剣なんかでわざわざ刺したりするそうですが、基本パーティーを組むので魔法士には必要ないという意見もありますけどね。ちなみに私は魔法で印をつけられますのでそういった問題はありません。
印は指定もできるので予め要望を出しておきました。皆様、パーティーの紋章などを取り入れています。
薔薇の花模様が私の印となります。これはカルマ家の紋章でもあります。やっとこの印で参加できます。
去年まではライウス様がリーダーを務める冒険者パーティー「黄金の鐘」の印をつけさせられていましたからね。
黄金の鐘はその名の通りライウス様の容姿からつけられました。最初聞いた時「ナルシスト全開の痛い名前」と思ったものです。懐かしいですわ。
何故急に発足したのかと話を聞いてみると聞かなければよかったと心底呆れた。
「俺の才能を人のため、この国のために活かすために冒険者になる。もうメンバーも決めてある。皆、俺と同じ志の者達だ。もちろんお前にも働いてもらうぞ。お前の力を婚約者である俺のために使えることは喜びであろう。俺のために役に立て!」
何が人のため、国のためですか。自分の才能とか言ってますが、ハクマン団長が面倒を見きれないという意味で匙を投げたことを都合よく解釈してるだけ。しかも仲間というのが同じような境遇の方ばかり。そして、婚約者である私に対しては力を使ってやる。それが私の喜びになると。
あなたのために使って私に何のメリットがあるのか問いただそうと思いましたが、こうなってしまっては誰の言うことも聞かない。話すだけ時間の無駄だということは理解していたので生返事しか返さなかった。本当はきちんと会話をすればよかったのですがあまりにも鬱陶しいので面倒になってしまって放置していた私にも責任はあります。ですが、初めて会った時に「あ、この人駄目だ。生理的に受け付けない」と思いつつもオーヘル夫人があまりにも押し進めるので仕方なく婚約したのです。
ちなみにその時のやり取りがこちらになります。
「初めてライウス様。ローズアリス・カルマと申します。以後、よろしくお願いしますわ」
「お前が俺と釣り合うかはこれからのお前次第だ。せいぜい努力するんだな。俺はオーヘル公爵家の人間。叔父上は魔塔の団長なのだから。特別にお前にも叔父上から教えをこえるよう頼んでやってもいいぞ!」
「必要ありませんわ。私は魔塔の筆頭から色々教わっていますの。その関係でハクマン団長や他の方からも教わっています。ですからそのお気遣いは不要ですわ」
カルマ家の令嬢は魔塔の筆頭に弟子入りしているというのは有名な話です。ですがこの方は何も知らないのだと思い、呆れていましたがこの後さらに呆れる展開が待っていました。
「何なんだ、その態度は! 俺がせっかく声をかけてやってるのに!」
何なんだ、その態度は? それはこちらの台詞です。と言いかけたのをやめました。訳のわからないことを一人で喚いていて、公爵夫妻も止められないでいます。
私はこの瞬間一切この方を愛せないと思いました。愛情すら持てないだろうと確信しました。オーヘル夫人が何度も頭を下げて、オーヘル公爵様がとりなし、セント様がフォローしてやっとの思いで繋がっていた関係でしたが、それも今日で最後。そう思えば面倒な手続きも喜びへと続く道と思えますわ!
「これで全ての手続きは終了です」
「はい、ありがとうございます」
去年までは黄金の鐘の一員として正体を隠して参加していました。ほとんど私が魔物を倒していましたが。ライウス様の使ってやるという言葉通りに使われていましたね。手柄は全てライウス様のもの。分け前も貰えませんでしたし理由がまた腹の立つものでした。
「お前は俺の婚約者なのだから、お前の分け前は俺が管理してやる」
傲慢この上ないことです。
ですが、それも去年までの話。今年は思う存分大暴れができます!
私を止めるものは何もありませんわ!
高らかに笑い声を上げたい気持ちを抑えて、心の中で盛大に叫んでやりました。
受付の方が引き気味だったことは仕方ないことだと思います。隠せないほど顔や態度に現れていたのでしょう。




