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謁見

 今日は国王陛下との公式謁見の日。当事者と他の貴族を踏まえて話し合おうという日になりました。

 控室に待機していた私のところにシャリアお姉様が様子を見に来てくれました。


「緊張なんてしていないことでしょう。だからこそ、少し抑えめで行きなさい」


「はい、お姉様」


「陛下の心まで折っては駄目よ」


「陛下は耐性があるからと問題ないと思いますけれど? 母の負担に比べれば私の負担なんて可愛いものではありませんか」


「それでもよ。まだ隠居されては困るの。もう少しカイトと二人でのんびり過ごしたいの」


 お姉様の迫力のある笑顔に押されます。私も大概ですが、お姉様も負けてません。というか、この国は女性が強い気がします。


「わかりましたわ。気をつけます」


 そう言うとお姉様は満足げな笑顔を浮かべて部屋を後にしました。


「はぁ……」


 まあ、あの二人ならこの国も安泰でしょう。

 仲の良い兄弟子と姉弟子を思う。けれど浮かぶのは尻に敷かれるお兄様。ですが、それはそれで幸せなのでしょう。

 お姉様に緊張していないと言われましたが、緊張というより興奮のほうが勝っています。魔力が高ぶらないよう神経を使うので少しばかり気が張りますわ。けれど、それも時間の問題。


 扉をノックする音が響く。


「どうぞ」


 返事を返すと王宮の侍従が入ってきた。


「ローズアリス・カルマ侯爵令嬢様。お時間になります。謁見の間へお越し下さい」


「わかりましたわ」


 私は立ち上がり、侍従の案内で勝負の間へ向かう。


 謁見の間の扉が開く。


「ローズアリス・カルマ侯爵令嬢様、ご到着!」


 謁見の間にはすでに役者は揃っています。

 ライウス様とキリム様。その両家の当主。我が家からは現当主である叔父様。それから、デリスト男爵にご令嬢のミューラ様。それにしても、叔父様は不機嫌に私を睨みつけて、他の当主の皆様は顔色が悪い。ライウス様とキリム様は私と目を合わせないし、ミューラ様は何で自分がと言いたげにしています。

 やれやれ、往生際の悪い人達ですね。


 私は陛下の前まで歩き、臣下の礼をする。


「ローズアリス・カルマが国王陛下、王妃陛下に拝謁いたします」


 ルーンナゼル・イングラド国王陛下はカイトお兄様に似た顔立ちをしています。お兄様がこのくらいの歳になったら同じ顔をしているのでしょうね。


「うむ。面を上げよ」


 その声を聞き、私は顔を上げ、陛下達と向かい合う。


 さて、当事者が揃ったこの場所で、どんな物語が繰り広げられるのか楽しみですわ!

 私の性格を知る方達から何やら様々な視線を送られていますが気にしません。やってやりますわ!


「今日の集まりについて説明を」


 そう陛下が口を開くと宰相を務めるマーズ公爵様が細かく詳細を説明して下さいました。ちなみにマーズ公爵様はシャリアお姉様のお父様ですわ。


「ローズアリス・カルマ侯爵令嬢。何か言うことはあるか?」


「いいえ。全てそのとおりでございます」


「ライウス・オーヘル公爵令息。並びにキリム・フォース伯爵令息。何か言うことはあるか?」


「……」


 ライウス様はここでも黙っている。


「ライウスっ」


 オーヘル公爵様が叱責する。けれど、否定も肯定もしません。沈黙を貫くつもりでしょうか?


「私がしたことは否定いたしません」


 キリム様はそれだけ。

 お二人共、本当に貴族なのでしょうか? この状況を見届けるために集まった貴族の皆様方が何を言っているのか聞こえていないのでしょうか?


「まあ、よい。起きた事実に変わりない」


 陛下の一言にその場は収まりました。けれども、お二方の心証は最悪ですわね。


「黄金の鐘のリーダーが情けない」


 そんなことを囁く方が多くいます。それも当然のこと。

 ライウス様は冒険者として活動しています。パーティー名は「黄金の鐘」ライウス様の髪の色から取りました。

 このパーティーは有名で魔物の討伐数は王都を拠点に活動している冒険者の中ではトップクラス。貴族ですからランクはあまり関係ありませんがランクはC。ですがBランク相当と言われています。ですから、王都では有名人。今回のことも王都中に知れ渡っているようです。


「陛下、発言をお許し下さい」


 そう言うのはオーヘル公爵とフォース伯爵。


「許す」


「はっ。この度の件、全て愚息とそれを諌められなかった公爵家の責任。どんな罰も受け入れる所存です」


「我がフォース家も同様です。どんな罰も受け入れます」


 両家は誠意ある対応をしてくださるそうですね。

 それにしてもライウス様はお顔に大きなアザを作ってますが、公爵様に殴られたのでしょうか? そんなことをする人には見えませんね。きっとセント様でしょう。でも、あの様子では口の中も切っていることでしょうね。お見舞いに酸っぱいものでも送りましょう。

 何を送るか考えていると聞きたくない声が響きました。


「陛下、私めにも発言の許可を」


 ああ、ここで動くのですね。

 現カルマ侯爵、アークロンド・カルマ。


「許す」


 陛下の眉間のシワが深くなりました。陛下も叔父様のことはよく思っていませんものね。本人は気づいていないようですけど。


「ありがとうございます。今回の件、それほど我が侯爵家としては大事にする必要はないかと。今回のことは若気の至り。大目に見てやるのも大人の努め。そして、妻となるものの努めかと」


 それは女性を敵に回す発言では?


「それはつまり、一度の浮気くらい許せということかしら? カルマ侯爵」


 国中の女性代表のレミーセニア・イングラド王妃陛下が発言。その言葉には棘しかありません。


「そ、そういうわではございませんっ」


 焦るのは勝手ですが、いい加減口は災いの元と学んでほしいものですね。


「では、殿方を繋ぎ止めることのできない女性が全ての感情を飲み込んで我慢しろと? 随分なことを仰るのですね」


 セニア王妃様を怒らせるなんて、本当に愚かな人。それにこの国は女性の力がとても強いというのに。いつまで男の力だけで国が成り立っていると思っているのか。そんなだから、叔母様にも愛想をつかされるんですよ。


「そんな考えだから奥方にも愛想をつかされるんですね」


 一瞬心の声が漏れたのかと思いましたが叔父様に聞こえるように独り言を呟いたのは師匠でした。


 この二人は昔から仲が悪いそうです。ちなみにお母様と叔父様も仲が悪い。侯爵を継いだことを今だに根に持っているのです。

 魔法士団長を師匠が、カルマ侯爵の座をお母様になったことが気に入らなくて、小さな嫌がらせをしていたそうです。とことん小心者です。

 今も叔父様は師匠を眼力で殺そうとしていますが、師匠は全く気に留めず、涼やかな顔をしています。


「二人共そこまでだ」


 陛下が止めに入って下さいました。


「お前達のことはどうでもいい。ここで争うくらいなら後で戦う場を設ける。見届人として私が立合う。それでよいな?」


「はい、陛下」


 師匠は答えますが、叔父様は慌てるだけです。まあ、勝負したところで勝ち目なんてありませんからね。


「ローズアリス! お前からも言うんだ。公爵家との繋がりがなくなってもいいのか!?」


「構いませんが?」


 即答すれば皆様口を開けて、目が点になっています。師匠は笑いを堪えていますわ。


「ローズアリスよ。お前は本当に欲がないな」


 陛下は呆れた様子です。


「陛下、我が家門は魔法を使い、高めることが何よりの喜びと思う者を多く排出してきました。それが今の魔塔を作り上げる一因と考えています。そして、私もその一人なのです。家門を大きくする必要などありません。魔法こそカルマ家の全てなのですから」


「うむ。そのとおりだな。それでは今回の騒動をお前はどのようにして収めるつもりだ?」


 始まった。


「私は、ライウス様に婚約破棄を賭けて勝負を申し込みます」

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