出会い(白)
見えないものが見える
それは…幻想か現実か
僕の名前は信条翔。家から近いところにある青ヶ崎高校の一年生。
普通に友達がいて、小さい頃から一緒に遊んでいる幼馴染もいる。
良くも悪くもない成績で、将来の夢は今のところ無い。
両親は他界してしまって、おばあちゃんと2人暮らし
平凡だけど平和な日常、それで満足している男子高校生だ。
そんなどこにでもいそうな高校生の僕は今、授業を終え、帰宅している最中だった。
時間さえ合えば幼馴染と一緒に帰る時もあるけど、今日は僕一人。
幼馴染と話しながら歩く帰り道も楽しくて好きだけど、一人で景色を見ながらゆっくり歩くのも好きだから、少し遠回りして帰ることにした。
橋の上で景色を見ながらのんびり帰ろうと思い、そちらに目を向けた。
「ん?」
橋の下を流れる川に人影が見えた気がした。底が見えるほどの綺麗な川があるこの場所は、夏になると水浴びなどをする人たちで賑わうため、人影が見えても気にしないのだけれど、あくまで“夏”の話。
今は5月に入ったばかり、川に入って遊ぶにはまだ少し寒い時期だ。
そんな時期に人が川に入る理由なんて…
「…」
一瞬だったから見間違いの可能性も十分ある。
でも、そうじゃなかった時のことを考えたとき、体が勝手に動き出していた。
最悪な状況じゃない事だけを祈って、人影が見えた場所まで急いで向かった。
走って乱れた呼吸を整えながら、周辺を見渡す。
「たしかここらへんだった気がするんだけど…」
何度見渡してもそこには誰一人いなかった。
見間違いだったんだと、ホッとしながら帰ろうと踵を返したその瞬間、背後で水しぶきの音がした。
「え…」
慌てて振り返ると、見渡した時にはなにもなかった場所に人の姿があった。
それを見て水中に潜っていたんだと察した。
僕は一瞬戸惑ったが、気を取り直して水中から出た人影に声をかけた
「あのー!なにしてるんですかー?」
「…」
思いっきり叫んで声をかけてみたけど、聞こえていないのか返事はない。
もう一度、さっきより大きな声で叫んだ。
「あのー!大丈夫ですかー?」
「…」
少し時間が経っても返事はおろか、動く気配すらない。
顔はよく見えないけれど、長い髪からしておそらく女性だ。
そんな人が1人、夏でもないこんな時期に川に潜っている。
そして、遊ぶでもなく、ただ黙って水面を見つめている。
まさか…と思った時には走って川に入っていた。
彼女のところまで必死に水をかき分け近づく
声が届かないなら、直接止めるしかない。
「死んじゃダメです!!」
そう叫んだと同時に、僕は彼女の手を握った。
すると、目を閉じていた彼女がゆっくりと目を開け、僕の方を向く。
彼女と目が合った瞬間、僕は不思議とその瞳に心を鷲掴みにされた感覚になった。
閉ざされた瞳に光が入ったそのとき、ビー玉のように輝く黒い瞳に僕の姿が薄らと映り、その透き通った瞳に囚われた僕の全てを、見透かされているように感じたから
「…ーー」
彼女の口が小さく動き、何かを呟いた。
その後、彼女の目線は僕の目から下の方に向いていた。
止めることに必死になっていた僕には彼女の声は届かなかったし
そのとき彼女がなぜ、僕の胸のあたりを見つめていたのかも気にしなかった。
「いきなりすみません!さっきの…言葉は…僕の勘違いかも。と、とりあえずまだ川の水は冷たい時期ですし、風邪ひきますよ?だからえっと…何か理由があるならあっちで話聞きますし…その…」
何かを呟いた後の彼女は見つめてくるだけだった
その気まずさからか、思いつく限りの言葉を並べた
焦りと緊張で自分でも何を喋っているのかわからない。
それでも、なんでも良い、そうやって話しかけても無言のまま、表情も無い彼女を、少しでも変えられるなら…
「と、友達になりましょう!」
僕のその言葉を聞いたとき、無表情だった彼女が、わずかに目を見開いて驚いた様子を見せた。