八話 真田の猛攻
槍切平七の登場により第五門、第六門は突破された。それはホーキを助けた豊臣秀頼が開けた突破口のおかげでもある。
これにて、真田一族の要塞である真田丸は突破した。駆ける夜光と援軍として現れた槍切は六文銭天守閣を目指す。
真田丸という真田幸村の傑作要塞は突破された。その創造主である真田幸村は目を細めた。
「親父、兄上。どうやら久方振りにこの真田三将直々に相手をしなければいけない大物のようだ」
そうして、とうとう千子夜光は六文銭天守閣へと辿り着く。
※
「出てこない真田一族よ! この村正一族の末裔千子夜光が相手になる!」
「おいおい、敵を挑発し過ぎると面倒だぜ? 気楽に行こうぜ気楽に」
と、斬馬刀を構えて戦闘準備万端な夜光は槍切につっこまれていた。が、すぐにその槍切のゆるい顔は消え失せた。
『……』
六文銭天守閣から三人の赤い甲冑を着た悪魔が現れた。身体に宿る霊気は甚大であり、その足取り一歩一歩が圧を与えるような力強さだ。全員が兜に六文銭が飾られており、威風堂々の様相を呈している。それは無論、真田昌幸、真田信之、真田幸村の三人だ。
その中央にいる口髭を生やした親父、真田昌幸は言う。
「これははるばる真田丸の六文銭天守閣へようこそ。客に酒に肴を渡したい所じゃが、すでに我が胃の中。すまんが今度は主達が酒と肴になってもらうかの」
「くえない親父だな真田昌幸。貴様等は所詮、徳川家康戦前の前座だ。酒も肴も堪能するのは村正よ」
「村正の小僧が。言われたくない事を言いおって。後は信之と幸村が話したい事あれば話せ」
え? と言う顔の信之に幸村は前に出て言う。安堵する信之は、怒り心頭な親父の顔を見てまた焦る。その間、幸村が夜光と槍切に言う。
「まさか真田丸が破られるとは……いや、少数精鋭ながらよくやってくれたよ。敵ながら天晴れという所かな」
「無駄口はいい。始めるぞ」
「まぁ、聞きたまえよ。先に真田丸を豊臣秀頼の手引きにより突破した、あの竹箒使いの少女は石川伯耆数正の血を引く者だな。そしてその蜻蛉槍とは蜻蛉切だろう。本田平八郎の血が流れていると言えるな」
「こりゃ、俺の武器だから自由に名をつけるんだよ。わかったか!」
と、槍切は怒る。親父の仕掛けを警戒しつつ夜光は答えた。
「その通りじゃないか。かつての戦国武将の武器の真髄は、その血を引いているか否かかが重要。でないと宝の持ち腐れになるからな」
「へっ、わかんねーかな。これは売れば金になるんだぜ?」
『黙れ外道』
夜光と幸村から同時につっこまれた。うわぁ……という顔をする槍切は煙管を取り出して戦いを放棄しようかなと考えた。真田幸村は夜光の武器を見て不審に思っていた事を告げた。
「村正一族なのに妖刀村正は無いのか。皮肉なものだな」
「今は千子一族。だが村正を忘れたわけではない。だからこそ、ここにいる」
「成る程な」
『!?』
その場の全員が驚いた。
いきなり、親父の真田昌幸が夜光の足元の地面から現れて足を掴んだ。一瞬の間を置いて信之と幸村が刀を繰り出す。
身動きの取れない夜光のこめかみから汗が流れると周囲に土煙が上がり、両者の姿は見えなくなる。
『……』
蜻蛉槍を振り回す男が土煙を払い、真田側は信之と幸村が土煙を払っていた。
「ねんねの時間は終わりだぜ夜光」
「フン、わかっているさ」
槍切が蜻蛉槍を真田昌幸に突っ込ませた為に夜光は致命傷を避けられた。羽織を脱ぎ捨てた夜光は右肩の傷口を脂薬で止血した。頭の土を払う真田昌幸はヒゲをかいた。
「あの一瞬で我が息子達と同じぐらいの反応……その蜻蛉槍の男も出来るな。流石は本田平八郎の血筋だ。不意打ちはやめて正々堂々と行こうかの」
『はっ! 親父殿!』
真田一族は一致団結している。
だが、夜光と槍切はいまいち団結してはいない。いや、むしろ団結してない方がこの二人にとっては団結であった。夜光は早く、重い真田一族の攻撃を全力で回避する。
(三位一体の攻撃。流石は真田親子だ。隙が見えない――)
そして、真田幸村は敵を一気に始末ようと親子にある技を放つ相談をした。
「親父殿、兄上、あれをやりまするぞ!」
「あれ? 疲れるんだけどなぁ?」
「そう言わずにやりましょうよ親父殿」
と、信之に言われて渋々昌幸は承諾した。
すると一気に霊気を解放した真田達は赤い悪鬼のようになり、野獣のような跳躍をした。空に十八文銭が浮かび上がり、それは赤い死の雨として降り注ぐ――。
「まずい! さけろ槍切!」
「うへ?」
侵入者の二人に真田一族最強の技が放たれた。
『十八文銭大発破!』
真田丸を一撃で崩壊させるほどの爆発が起こり、十八文銭天守閣は崩壊する。赤い土煙が立ち込める周囲は天守閣の瓦礫で散乱している。流石の真田達も今の一撃でかなり消耗していた。だが、その警戒心は解かれていない。
『……』
三人の敵は一つの場所を見ていた。瓦礫の中から黒髪の目つきの悪い男が現れる。
「生きてるか槍切」
「何とかな。でももう一度くらえば死ぬな」
「同じ技をやるわきゃなかろう。疲れるし」
『嘘つき!』
夜光と槍切の言葉にうっ……とした真田昌幸は明後日の方向を向いた。信之と幸村は黙って頷く。そして、双方は乱戦になった。