表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

五話 独眼竜との戦い

 独眼竜とはその名の通り、一つ目の竜。

 全長十メートル程の体躯であり、青い鋼鉄の皮膚の上には鎧を纏い、額には三日月型の兜をしている。両眼の右目は眼帯をしており、青い右目だけが侵入者を駆逐しようと獰猛に動いていた。


「……また徳川に仇をなす不届き者か。この東照宮も創設された頃は侵入者などは居なかったものだが、二百年も経つとこうも現れるとは。徳川の権威を取り戻さねばならんな」


「たかだか家康の墓守風情が徳川の権威もあるまい。邪魔するなら眠ってもらうぞ」


 巨大な敵を前に夜光は斬馬刀を構え、ホーキも背中の竹箒を突き出す。すると、独眼竜は咆哮を轟かせた。


「眠るも何もイエヤスアークにより、我は倒されてもいずれ復活する。霊的な守護者の我に死は無いのだ」


「じゃあ、今日は誰にも倒されていないという言葉か」


「今日は? 我を倒せるのは相当な手練れでなくば無理。月光の絶望を味わうがいい」


 両手の爪を交差させ、独眼竜は戦闘状態に突入する。ホーキは独眼竜の眼帯の無い目だけを見据え、夜光はある事を考えていた。


(槍切はここを通っていないか、もうどこかで死んでるかだな。今はこの独眼竜に集中だ――)


 瞬間、台風の如き突風が二人を襲った。

 背後に吹っ飛ばされつつも、自分の武器を地面に突き立てて態勢を立て直す。


「チッ、あの爪の風圧だけでもこうなったか」


 斬馬刀に刃こぼれがある。特に竹箒は傷んでいないホーキは独眼竜を見つめたまま、


「あの鎧と皮膚の硬さじゃダメージは目が一番よ。その斬馬刀でやれるの?」


「斬馬刀は重さで叩き潰す武器だから問題無い」


「あはっ♪ そうこなくっちゃ」


 二人は左右に分かれ、独眼竜を挟撃する事にした。鋭利な爪のある手を武器で防ぎ、そのまま腕を伝って駆け上がる。ほう? という顔つきの独眼竜は口を開く。


「緩いわ小童」


 吐息の突風が二人を襲う。カッ! と目を見開いた男女は斬馬刀と竹箒を一閃させて真空波を切り裂いた。


「我が真空波を易々と……ならちと本気を出そうか。魔眼の解放……青の世界――」


 明確な殺意を持って独眼竜の身体を駆け上がる二人は、独眼竜の眼帯から漏れる青い光の殺意の波動に驚愕する。


「目に気を付けろ! あの目は――」


「知ってるわよ!」


 ホーキが独眼竜の皮膚を蹴って飛び下がると、青い獣の眼帯が落ち、青い光が周囲に展開する。それは周囲の全ての生物を重さの牢獄に引き摺り込む魔の結界だった。


「青の世界。この重力に捉われたら一貫の終わりよ」


 青の世界の重力結界外にいるホーキは呟いた。独眼竜は両眼を開眼すると重力結界が発動するのである。通常の重力の倍の重さの中で平然と動ける生物はいない。それ故に、斬馬刀を持つ男は独眼竜の真下で立ち尽くしていた。


「バカ! 逃げるタイミングを逃したの!?」


「小娘の反応は良かったが、小僧は逃げられなかったな。あのままとりついてれば我を倒せるとでも思った奢りがそうさせた。青の世界は苦しく甘美的だろう?」


「……」


 その青の世界の重力結界内の夜光は下を向いて斬馬刀を地面に突き立てたまま黙っている。ホーキも助けようにも、青の世界内部に入ったら自分も動けなくなってしまう。


「ほれ小娘よ。青の世界はどんどん広がるぞ? 何もしなければ小僧と同じく青の世界を感じて死ぬだけ。何も出来なくて絶望してる顔がいじらしいぞ……」


 その独眼竜の言う通りで、青の世界はどんどんと円形の領域を広げている。このままいけば時間の経過でホーキも重力結界に捉われて独眼竜にやられるだけだ。

 そして、独眼竜の右手が夜光に迫る。絶望的状況下を彩るような絶叫が聞こえた。


「……?」


 唖然とするホーキは血塗れになる夜光を見た。夜光の両眼は独眼竜だけを見定めており、斬馬刀に浴びた血が地面に垂れ流れている。青い皮膚の巨大な手首が地面に落ちていた。そう、今の絶叫は独眼竜のものだったのだ。


「倍の重力でも平然と動いてる……」


 重力の重さをものともしない夜光に驚くホーキはその協力者の少年の声を聞いた。


「独眼竜が開眼して青の世界を生み出す瞬間こそ、チャンスってやつだぜ!」


「こ、小僧ーーーっ!」


 青の世界が通用しない夜光は独眼竜が開眼した時の隙を狙っていた。そして大きく斬馬刀を振り被り、独眼竜を屠る技を繰り出そうとする。同時に、竜の口から全てを滅却する青き大火炎が放たれた。避ける間も無く夜光は直撃し、ホーキは青の世界の外から青い死の炎を見つめていた。


「青の炎は滅却の業火。死んだわね千子夜光は。せめて次の城郭エリアまでは生きていて欲しかったけど、仕方ないか。開眼する独眼竜を倒すのは力使うから嫌なのよねぇ……」


 仕方ないと見切りをつけたホーキは青の世界に突入する覚悟をする。と、青の炎を放った両眼を見開く竜は停止していた。真下にいる人間に見とれているのだ。


「……ふぅ。回天斬魔は苦手な技だが、何とかなったな」


 恐ろしい事に、夜光は斬馬刀を旋回させて青の炎を消失させた。竹箒を地面に落としてしまうホーキも驚愕している。


「斬馬刀を旋回させただけで、あの火炎に耐えた……? 全てを焼き尽くす滅却の炎なのに。青の世界から放たれた青の炎は独眼竜最強の技。つまり――」


「膾斬り破天荒」


 飛び上がった夜光は独眼竜の顔面から下降しつつ、全身を膾斬りにした。青の世界は解除され、独眼竜は自慢の兜の月が折れ、戦闘する力を失った。瀕死の独眼竜は最後にこの人外的な強さの少年に聞いた。


「貴様の強さの秘密は複合的な霊気……いや、何か老獪さを感じる霊気にあるのか? そもそもが貴様の魂は貴様だけでは……」


「俺は俺だ。俺は一族の目的を果たす為にイエヤスアークを手にする。東照宮の守護霊ならばこの斬馬刀を持つ者の意味はわかるだろう?」


 ハッとする独眼竜はようやく、この少年の強さの意味を知った。


「……そういえばそうか。その斬馬刀は数年おきに見かけていたな。そうか……その斬馬刀。その斬馬刀こそが徳川を終わらせる――」


「ストーンリバー」


 竹箒から放たれた霊気が石と川を生み出し、その濁流に独眼竜は押し潰され消滅した。やれやれと思いつつ、夜光は言う。


「あれだけ刻んでおいて、最後はお前に持ってかれるとは。水の無い空間に石の川を生み出すとは恐ろしい奴だ」


「そりゃチャンスは自分で掴むからよ。それはイエヤスアークに関しても同じよ」


「あぁ、俺達はイエヤスアークに辿り着く為の共同戦線。最後には抜け駆けも上等でいいさ」


「わっかるー夜光ちゃん」


「ひっつくな!」


 そうして、夜光とホーキは東照宮最大の難関である城郭・真田丸へと到着した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ