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十四話 開国と鎖国の一撃

 石川伯耆数正の子孫である一歩浮絵。

 ホーキと呼ばれる三河の関所侍女長である少女の身体は神祖・徳川家康に乗っ取られた。本人の意識は無く、完全に徳川家康そのものだ。久々に感じる生命の鼓動と、全身を巡る血液の流れや身体の動きを実感する家康は言う。


「……やはり良く馴染む。石川数正は他国では特に何か出来たわけではない。やはり、三河の血が合ってるのじゃろう」


「くっ――」


 軽く手を振った家康から発した何かを夜光は避けた。激しい音と共に立っていた場所の地面が大きく抉れている。それは単なる空気圧によるものだった。


(ただの素振りが真田親子の三位一体攻撃と同じ威力。それもただの素振りでこの威力か……狸親父め!)


 現世の肉体を得た徳川家康は本来の力を取り戻していた。霊体で無い以上、この聖櫃にある霊気玉であるイエヤスアークも自在に使える。日本を鎖国する大霊幕に使っている霊気を自分に回す事も出来る。つまりは――。


「葵百烈御紋」


 真蜻蛉切から一撃必殺の威力のある突きの、百連突きを繰り出した。唐突に放たれた死の連撃に夜光は防御もままならず受けた。上半身の着物が吹き飛び、おびただしい血が吹き出た。


「……残る霊気も尽きたじゃろう。妖刀村正を扱うだけでも、無慈悲に霊気を吸われるからのぅ。そろそろ終わりにしようぞ」


「あぁ、当然俺の勝利で終わる」


 絶対的な敗北が目の前にあるにも関わらず、その目はまだ死んではいない。そして、家康の目にはかつての村正達の姿が見えた。それは幻覚ではあるが、はっきりそこに存在している者達だった。


「……そうか。斬馬刀の中に封印した村正に過去、この東照宮に挑んだ侍達の魂が宿っている。それが今の攻撃を防ぐ事にもなった。そうじゃろう?」


「ようやく見えたか。過去の村正達が見えた以上、俺も最後の一撃を放つ事が出来る」


「過去の村正の魂が宿る妖刀村正か。その若さでその強さの謎が解けた」


「確かに過去の村正達の加護と知識はある程度ある。村正に槍切にホーキ……二百年以上ありとあらゆる全ての人間を徳川幕府の為に利用した貴様への怒りが俺を強くした。それだけだ」


 天下王村正は過去の村正達の意思を具現化するように紫の霊気を高めている。これは家康自身もかつて無いほどの一撃となるのを予感した。そして、この東照宮にて戦って勝ちをおさめて来た村正達の事を思った。


「初めはただ、徳川を闇に落とす村正の呪いという勝手な烙印を押されて淘汰された事に恨みを持った。それがやがて、与えられた仕事の中で大霊幕の外の事を知り、外国の強さを船や物で感じた。そこで村正一族は思った。やがて全てが変わる。いずれは外国相手に戦国時代が来る。そこに勝つ為に開国を掲げて徳川幕府を討ち、富国強兵にて世界と渡り合う……大層な夢を持って実行した来たものだ。だが、戦国の世ならば当然なる野心!」


 目の前の村正一族末裔である千子夜光という男に家康は戦国時代の自分を取り戻したような感覚になった。それは家康に更なる力を与える事になったのである。


「霊体でない以上ワシに敵は無いさ。大霊幕の一部を解除し、村正を倒す力にする事も出来る。つまり、イエヤスアークを自由自在に使える以上、ワシに敗北は無い」


 日本を鎖国する大霊幕を一時的に解除してでも、徳川家康は村正一族の末裔である千子夜光を殺そうとした。


「その妖刀村正とは志半ばで散った村正一族の執念、怨念、信念で形成された魂の刀。天下王村正を持つこの男には完全勝利を掴まなければならない。しかし、絶対に貴様は勝てぬ。この徳川家康の力、経験、知識はこの世の全てを凌駕しておるからだ」


「絶対に勝てるから、俺はこの村正を構えている」


 瞬間、家康は本当に日本の大霊幕を一時的に解除し、聖櫃にあるイエヤスアークそのものを自身に取り込んだ。青白い発光から神々しい存在へと変化する家康は真蜻蛉切を構えた。狭き日本の力程度では、この絶対的な存在に勝てる筈もない。いかなる英雄豪傑とて、これだけの霊気を持った存在には完全敗北しか無い。しかし、瀕死に近い少年は妖刀一本を構えながら言う。


「この村正は世界の海を流れた刀。故に世界を知る。狭い日本程度の覇王など、世界から見ればただの島国よ。これが日本開国へ向けて斬り放たれる時代の最初の一撃だ」


「う、海を渡り世界を知るじゃと? ニャクイ……面白い……ならばその開国の先にある未来! 見せてもらおうか!」


 焦りから冷静へと変わり、そして興奮へと感情を変化させた家康は最大最強の技を繰り出そうとした。

 徳川家康とて、所詮は日本国の覇者であり世界の覇者では無い。


 当然、村正そのものも世界を漂っただけで世界を斬ったわけでも無い。

 だが、徳川家康という日本に対抗するには、世界を知るという事だけでも十分に対抗する力だった。


 村正一族と徳川幕府。

 陰湿な三河の風によって身内ながらも断絶していた二つの家の紫と青い霊気が最高点に達する。


 そして、その最後の刻は訪れた――。


斬味凄絶無比千子村正(ざんみそうぜつむひせんごむらまさ)――!!!」


東照大権現葵神明(とうしょうだいごんげんあおいしんみょう)――!!!」


 東照宮最下層の聖櫃に、紫と青の光が散った。

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