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一話 イエヤスアーク

 天下分け目の関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康は江戸幕府を開き、徳川政権を未来永劫続く強固な地盤を形成した。


 そして、人生の集大成として自身の肉体と魂を糧として日本に『鎖国大霊幕(さこくだいれいまく)』を張った。

 霊気の魔法であるイエヤスアークにより、日本は島国として世界から鎖国した。


「これが……家康の呪い」


 少年は映像が空間に舞うような途切れ途切れの過去の出来事を見ていた。真っ暗なその場所には黒い羽織袴姿の少年しかおらず、徳川家康の天下統一までの人生を断片的に見ていた。


「……!」


 瞬きをした瞬間、目の前には老齢の食えない顔をした男が立っている。葵の御紋が描かれた位の高い貴族のような服装で、殺気こそ無いが異様な覇気を感じさせるものがある。その老人はゆっくりと歩き出した。


「この世の呪いを解きたければ解いてみせよ若者よ。この世は広く世間は狭い。罪を犯してでも進む意志があるならば、この世を開いてみせろ……イエヤスアークは主と共にある」


 急接近して心を見透かすような発言をされ焦った少年は背中の斬馬刀を正面に向けて構える。すると、目の前の老人は消えていた。


「どうした?」


 と、同僚の先輩である槍切平七(やりきりへいしち)は言った。

 その場所は森の中であり、斬馬刀を構えた少年は現実と夢が理解出来ないのか立ち尽くしている。他の黒い羽織袴姿の三人の仲間達も斬馬刀を持つ少年を不審げに見つめていた。


 刀に手をかける仲間達に茶色い癖毛の髪の槍切は首を振ってやめさせ、斬馬刀の少年の前に立つ。

 少年はまだ夢から覚めていないのか、自分の額を片手で掴んでいた。


「俺は……一体誰なんだ?」


「お前は幕府公儀霊気観察方の千子夜光(せんごやこう)だ。もうすぐ三河国だってのに白昼夢か。いや、三河国だからこそ……か」


 やれやれと言った顔の槍切は無精髭を撫で、自分の思った答えを伝えた。


「イエヤスアークの霊気のせいだろう。三河国の血が濃い人間は久しぶりにここに来るとイエヤスアークに干渉されやすい。それが今の白昼夢を見た原因だ」


「イエヤスアーク……確かに三河国から鎖国大霊幕は発している。まさかここまでの影響を受けるとは」


「斬馬刀は背中にしまえ。先に三河の入口で手続きを済ませておく。夢から覚めたら来い」


 槍切はそう言い、森の奥へ進んだ。夜光は斬馬刀を鎖で背中にくくりつけ、少し先にある三河城の天守閣を見上げた。


「イエヤスアークは斬り捨てる。そして、霊幕大開放へ世界を導く。開国をするのは村正一族である俺の使命」


 一つの決意を確認すると、幕府公儀霊気観察方の千子夜光は歩き出した。

 前を歩いていた槍切達に追いつき、三河国の関所にて受付を済ませた。受付には屈強な武士団の連中が配置されており、受付などは巫女達が行なっているようだ。巫女が受付をするのは、相手の霊気の有無を確認する為でもある。


『……』


 公儀霊気観察方という幕府の人間の為に仲間達もすんなり関所を通過した。夜光が関所を通り過ぎようとすると、巫女達は一斉に動いた。


「手荒い歓迎だな。霊気観察方は他人から嫌われる仕事とは言え、この歓迎はいただけねぇぜ。槍や斬馬刀は戦時中じゃなくても我々霊気観察方には許可されてるの知らないのか?」


 五本の薙刀が夜光の首筋に突きつけられていた。同時に、巫女達の視線は夜光の背中にある斬馬刀に向けられている。やれやれという顔の槍切は溜息をつく。五人の巫女の一人がそれについて話す。


「斬馬刀を持っている事が問題では無く、その斬馬刀の異様な禍々しい霊気が気になるのです。徳川に混沌をもたらす妖刀村正のような物になり得るかも知れない闇を感じる」


「この斬馬刀は戦国時代からある骨董品。良くも悪くも人の魔を吸っているだろう」


「異能の(ひいらぎ)である者達の集まりの霊気観察方が来るとロクな事が無い。村正一族を先祖に持つというのは二百年経っても変わらない」


 巫女達は露骨に夜光達の霊気観察方という役目の連中を嫌っていた。これは余程徳川の中でも根深い問題なのだろう。押し問答が始まり出し、周囲にいる武士達も動き出した。


「そんなに見たければ見せてやろう。これがお望みの斬馬刀だ!」


 夜光はうんざりしたのか、斬馬刀を抜いてしまう。周囲の巫女の薙刀は一斉に吹き飛ばされた。

 その為、霊気観察方の頭である槍切が動こうとすると、竹箒を持つ髪の長い若い巫女が横を通り過ぎた。


「その者達を通せ者共。霊気観察方は村正一族の出身が多いが、謀反を起こしたわけではない。もし何か仕出かせば斬ればいいのよ」


『はっ! 巫女長!』


 と、巫女達は巫女長と呼ばれた少女に頭を下げる。竹箒を手に持つ黒髪の巫女は夜光の斬馬刀を見た。


「柊の連中を斬り続けていれば、その武器に異様な呪われたような魔の霊気が宿る事はある。霊気観察方達は遠縁でも三河の血が流れているの。武器を改める必要は無いわ」


 言うと、巫女長はその場を一気に掃いて地面を綺麗にした。夜光は会釈して巫女長の案内に従う。三河国の大門が開門され、その城下町が目に映る。巫女長の少女は大きな声で夜光達を受け入れた。


「さぁ、ようこそ。神祖・徳川家康の眠る三河国。霊気観察方一行のおなーりー!」


 そうして、千子夜光はイエヤスアークを斬り捨てる野心を隠しつつ、徳川家康の眠る故郷である三河国へ入った。

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